第九十話 倉庫整理依頼
昨日一日中降り続いた雨もやっと上がり、今日は朝から雲一つ無い快晴だ。
宿で朝食のオートミールを食べた後、昨日予定を立てた通り、冒険者ギルドのストランドさんの依頼を三人で確認しに行く。
ストランドさんの倉庫整理の依頼は、昼食と三時のアフタヌーンティーが最低保障の報酬で、倉庫で探しているお目当てのものを発見した場合には大銀貨一枚(一万円相当)もしくは大銀貨一枚相当の商品が現物支給されるという、大損コースが設定されたものだったせいか、Fランク冒険者用の掲示板に貼り出されたまま残っていた。
Fランクの依頼で他に残っているのは採集したキノコの毒味役、一回につき大銅貨四枚(四百円相当)。但し、治療薬は自己負担(一回につき銀貨二枚)だけだ。
キノコの毒味依頼を見てユーシンが「これはひどいね」と言って苦笑している。
そんな訳で、今日はただ働きになる可能性が高いけれど、報酬は先払いで貰っている。
昨日ロータスさんに御馳走になったベイクドチーズケーキだ。
なので依頼の紙を剥がして窓口へと持って行き、冒険者カードを見せながら、三人でこの依頼を受けたいとの話をした。
「本当にこの依頼で良いの? 」
受付窓口のギルド職員さんに怪訝な顔で聞かれたけれど、これで良いのです。
「でも、この依頼って人数が書いてないから一人じゃないかしら?」
オレ達の肯定の頷きに、そんな突っ込みが入った。
確かにそんな感じもする。
しかしどうせ最低報酬はお昼とお茶だけなのだ。捜し物発見の報酬となる大銀貨一枚が三人分でも問題はない。
押し掛けてしまおうと思う。
「行ってみて駄目なら勝手に働いてみます」
オレがそう言うと、職員さんは苦笑を浮かべつつ了承してくれた。
「空っぽでも良いから金庫とか、重い物が一杯あると良いなあ」
ユーシンは笑顔でそんなことを言っているが、出来ればあまり重い物は勘弁して欲しいものだ。
そんなこんなでストランドさんの魔道具店へと行き着いた。
大売り出しの張り紙をショーウインドーの中から貼り付けようとしていたストランドさんが、オレ達を見て固まった。
マネキンの真似でやり過ごそうとしているらしい。中腰のまま、あらぬ方向を見ている。
そのままじっと見ていると、ストランドさんの首がじりじりと動いて目が合った。
そこで三人でストランドさんに手を振ると、マネキンの真似を諦めたらしい。
店へと引っ込み、店の扉を開けて出てきたストランドさんはオレ達に「昨日は申し訳ありませんでした」と謝ってきた。
実際に騙されたわけではないので、そんな謝罪の言葉をオレ達は笑顔で聞き、冒険者ギルドにストランドさんが出している倉庫整理の依頼で来たことを話した。
ストランドさんは、やはり一人、多くても二人の手伝いで考えていたらしい。
「三人だと私のお昼を買うお金がなくなってしまいますね……」
ちょっと困ったように、そんなことを呟いている。
金欠が危険領域にまで達しているらしい。
そこでユーシンは力があって、どんな重い物も運べるし、ダイゴはギフトで物の判定と言うか鑑定が出来ること。
そしてオレは気配察知で屋根裏のネズミなんかを見つけられるとアピールをする。
「ネズミですか……。うちにはネコのマーク君が居るので、ネズミは居ないと思うんですけどね……」
どうやらオレだけ不要になりそうな状況に焦る。そこで、
「身軽で素速いので高所作業も楽々ですよ。そうだ、それにマーク君のためのチーズも持ってますよ」と慌てて付け加えた。
そんなオレの必死さが伝わったのか、三人で倉庫整理をすることになってほっとする。
三人も居るので店の倉庫だけではなく、午後からは今日から始まる大売り出しの手伝いもすることになり、まずは店の二階の倉庫に案内された。
倉庫の中は何か捜し物でもしたかのように散らかっていて、足の踏み場もない。
ひっくり返っているものもあるが、あれば大丈夫なんだろうか? と思う。
するとストランドさんが辺りをきょろきょろと見回した後、オレ達に顔を近づけてから声を落として、
「これはないしょにして貰いたいのですが、倉庫のどこかに隠し金庫があるはずなんですよ。君達にはそれを探して貰いたいんです」とオレ達に言った。
最近、商業ギルドにある貸金庫に保管されている父親の代の古い書類を調べていて、その存在を知ったらしい。
弟も知らないはずなので倉庫を探したが、見つかっていないとのことである。
なるほど、それでこの惨状なのかと理解した。
そこでストランドさんから、倉庫のものをリスト化して整理しつつ、目当ての隠し金庫を探して欲しいとの本日の依頼についての詳しい説明があった。
あと、今日から大売り出しなので、売れそうなものがあったら店のほうに持ってきて欲しいとのことである。
開店準備にお店へと引き返すストランドさんを見送った後、改めて倉庫を見渡す。
この散らかりようは、手の付けようがない。
一旦どこかに集めておきたいけれど、そのスペースがないなあ。なんてことを考えていると、王子がオレのマジックバッグを指差して、ニッコリと微笑んでる。
身軽とか、高所作業とかを必死にアピールしたけれど、よく考えれば倉庫整理ならばマジックバッグが最適なのだ。
そこでまずは倉庫にあったものをマジックバッグに収納して、バッグに入らない大きなものは脇に寄せてから掃除をした。
収納したものの中には掃除道具もあったので、箒と雑巾を使って掃除した後、床にはワックス掛けもする。
それからリスト化された在庫品を、机の上に取り出して行った。
王子はオレが読み上げた在庫品の名前と数量をノートにメモし、怪しそうなものは判定をしている。
そしてユーシンは、最後に種類別に棚に置いていく作業の担当だ。
倉庫にある魔道具は、商品として売れなかったものが仕舞い込まれている感じだ。
武器の類はなくて、魔法の杖があったけれど、七連発のファイヤーボールが一回だけ出せる連発花火みたいなものだとか、スイッチを押すと「ピコーン」と音がして、杖の頭の部分が七色に光るもの。それに孫の手の代わりに背中を自動で掻いてくれるもの等、残念アイテムが多い。
自動松明は、自動着火するだけで、普通の使い切りの松明だ。
水晶玉は自分頭の後ろが見えるものとか、ランダムな場所が見えるものなんかがあった。
マジックスクロールは虫に食われていて駄目になっていた。勿体ないけれどこれは廃棄するしかなさそうだ。
魔道具以外の雑貨も結構あって、何かのポーションでも入っていたのか青っぽい色のガラスの空き瓶や、ピンク色のシャンプーハット、知恵の輪などは大きな箱の中にぎっしり詰まっている。
その他にはお祭りの時にでも使うのか、ミニサイズの出店なんかもあった。
そんな不良在庫のような商品その他を整理して、午前中には倉庫の方は三分の二くらいが片付いた状態になったけれど、隠し金庫は発見出来なかった。
偽装や隠密といった感じかも知れないので、金庫の気配を探ったのだが、そうした気配もない。
王子はピコーン杖が気に入ったようだ。
もう買うつもりのようで、紐を使って縛り、背中に回し掛けている。
考えてみると、残念アイテムどころか王子にとっては超有用アイテムなんだと気付いた。これは金貨百枚だろうが、購入決定だ。
オレがちょっと欲しいと思ったのは方位磁針だ。
普通のコンパスではなくて、照準器のようなものと小さなレンズが付いている。
王子に判定して貰ったところ、レンザティックコンパスという名前で、インジケータを使って目標物の方位をより詳しく計測出来るらしい。
なので地図があれば、二カ所以上の方位を確認することで、自分の大まかな現在地が分かるとのこと。
真鍮製で頑丈そうな作りだし、目盛りも細かく刻まれていて、オイルが封入されているのか動きもスムーズだ。
値段が高くなければこれも購入しようと思い、コンパスと倉庫の在庫品で売れそうなものとして知恵の輪を幾つか手にして階段を降りて、作業場からお店へと回った。
ストランドさんに聞いたところ、王子のピコーン杖はマジックバッグが見つかったら報酬に上乗せする形でタダで良いとのことだ。
もしも見つからなくても、大銀貨一枚(一万円相当)でどうですか? との申し出に、王子がガッツポーズで喜んでいる。
さっそく「ピコーン」を連発して笑顔だ。
オレの目当てのコンパスは魔道具じゃないので銀貨三枚(三千円相当)とのことだったので、こっちはその場で購入した。
知恵の輪も銀貨二枚で売ってみるとのことである。
そうして、入り口のドアのプレートを「準備中」にしてから、お昼となったのだが、ストランドさんのサドイッチのパンが茶色い。
オレ達三人のサンドイッチの残りのパンのミミの部分で作ったサンドイッチのようだ。
オレの視線に気付いて、ちょっと照れくさそうにした後、
「でもね、タダなのにサービスだと言って、具を入れてくれたんですよ」
そう言ってニッコリ笑っている。
そんなお昼のサンドイッチを手早く口に運びながら、午後からは一人がバーゲンセールの客寄せ、残る二人に引き続き在庫整理と隠し金庫探しをして貰いたいとのことだったので、昼食として提供されたハムとチーズのサンドイッチを食べながら三人で相談する。
王子は客寄せがしたいみたいだ。
人差し指を立てて小さな火の輪を出して、くるくると回してピコーン、ばちっと火花を飛ばしてピコーンしてみたりしているけれど、王子の判定は在庫品の判別や隠し金庫探しに必要なギフトだろう。
そしてオレのマジックバッグも倉庫整理に超便利なので、自ずとユーシンにお鉢が回ることになる。
「重い物ももうないし、ダイゴとオレで倉庫をパパッと片付けちゃおう。客寄せはその後だね。それまではユーシンひとりでお願いね」
オレがそう言うと、王子は不承不承、ユーシンは笑顔で引き受けてくれた。
ユーシンは倉庫にあったバケツを叩いて音を出して、注目を集める作戦だったようだが、バケツがヘコむ未来しか見えないので、その旨話して中止して貰った。
その後、二階の倉庫で王子と倉庫整理をしていると、表からユーシンの声が聞こえてきた。
「安いよ、安いよ、大売り出しだよー そこのキレイな二人組のお姉さん、ちょっと見ていかない? 可愛い猫ちゃんも居るよー」
なかなか堂に入った口上でお客さんを呼び込んでいる。
思わず王子と顔を見合わせて、くすりと笑いあった。
そうして倉庫の整理がほとんど終わった頃、倉庫の奥の床に扉があるのを発見した。
板目もそのままでパッと見どころかじっくり見ても、隠し扉には気づけないようになっていたけれど、オレの気配センサーがキッチリ仕事をしたのだ。
しかし扉があるらしいと分かったけれど、開ける為の取っ手も何もない。
爪が入るような隙間すらないのだ。
そこで王子に判定をお願いした。
王子はオレが扉があると指定した場所に手を当てて、やっぱり臭いを嗅いだ後、ちょっと考え込んでいる。
オレはそんな王子の様子を窺いながら、倉庫の棚にあった知恵の輪、難易度Fを解こうとしていると、ピコーンと杖が鳴り、王子が判定結果をノートに書き出し始めた。
それによると、マジックゲート、扉を開けるのには鍵が必要、とのことだった。
おそらくストランドさんの探していた隠し金庫だ。
あ、そう言えば扉は木だから食べられそうだけれど、今回は食用判定がなくなっている。
そう気付いて王子を見ると、ちょっと自慢げに澄ましている。
そこで「ダイゴ、判定のバージョンアップだね」と言うと、ニッコリと笑顔でピコーンである。
そんな訳で王子と二人、ストランドさんに報告に行く。
ストランドさんは「魔道具が二つも売れたましたよ」と言ってニコニコしていたが、オレ達の発見を聞いて、その笑顔が更に大きくなった。
しかし鍵に心当たりがないらしい。
少し考え込んだ後、
「ふむ、取りあえず三時近いですからお茶にしましょう。二人はユーシン君を呼んできて下さい」
ストランドさんはそう言い残して、お茶の支度のために作業場のほうへと引っ込んだ。
そこでオレは王子と二人、ユーシンを呼びに行った。




