第八十九話 ロータスさんの御馳走
ロータスさんは独身の一人暮らしで料理が趣味らしい。
なのでお礼の夕食は何処かへ食べに行くのではなく、ロータスさんが自宅で腕を振るうとのことだ。
帰りがけに料理の材料を買うと言うので三人でついて行く、そう言えば採集したノビルとアンズタケがあったので、そのことを話すと、にっと笑って、
「それじゃあ、それも使わせて貰おうかな」と言われた。
ロータスさんはグロサリーショップ、スーパーマーケットで骨付きの羊肉の塊とショルダーベーコン、レタスっぽいグリーンリーフ、そして小ぶりなトマトと生クリームなどを購入していた。
「一人だと料理を作るのも面倒になるからなあ」と、久々の本格料理に気合いが入っているようだ。
それからお店へと引き返し、店の裏手にあるロータスさんの家に招かれた。
玄関の前で背負っていたオレの大太刀を見て、ちょっと見せてくれないか? と言われたので、抜き方、鯉口の切り方について説明してから渡した。
ロータスさんは大太刀の鯉口を切ってからしゅっと抜くと、そのままの体勢を保持している。
腕力だけでなく背筋力など、かなり力がないと出来ないことだ。
少なくとも、レベルアップ前のオレには出来なかった。仕事柄、力が必要なのだろうと思う。
そして、「少し反っているのが面白いな」と、ケイトさんと同じ感想を言っている。
「新しいダンジョンのドロップ品ですね」
オレがそう説明すると、ちょっと素振りを見せて欲しいとのことなので、大太刀を返して貰い、素振りをしてみる。
分かり易いようにゆっくりだ。すり足も使い、ついでに二段突きも披露してみた。
「攻撃力はありそうだが、使いこなすのは難しそうだな」
ロータスさんはそんなことを呟いていた。
その後案内されたリビングで冷たい果実水とクッキーを出して貰った。
ロータスさんにノビルとアンズタケを渡すと、
「ノビルもアンズタケもキレイにゴミは取ってあるのか」と感心されたけど、これは多分マジックバッグ効果だと思う。
「それじゃあ一時間ばかり掛かると思うから、鎧を脱いでゆっくりしていてくれ。あと、こんな感じのナイフだが、良かったら見ていてくれ」
そう言って、王子が買ったナイフと同じようなナイフを何本か渡された。
王子が購入したものとそっくり同じものの他に、ちょっと刃が長めなもの、柄の部分が木や鹿の角で出来ているものなんかがある。
鎧を脱いでから握ってみると王子のレザーワッシャータイプが一番しっくり来た。刃の長さも同じものが一番扱い易そうだ。
「ダイゴタイプが一番良いね」
オレの感想に、王子が満足そうにニッコリ笑って頷いている。
ユーシンも同じ感想らしく、三人お揃いになりそうである。
その後、王子とユーシンにロータスさんの金貨を使った手品のタネと思われるもの、つまり、手の平の親指側の母指球と小指側の小指球辺りを使って金貨を挟んでいたっぽいことを説明し、三人でその練習をするが金貨は重い。
一番軽い銅貨だと小さすぎるので大銅貨での練習に変更したけれど、手の甲に不自然なアーチが出来たり、親指が引きつるようにピンとしたりでモロバレである。
王子は手が小さいこともあって、上手く掴めないみたいだ。ムキになって手の平に大銅貨を押し付けているけれど、くっつくものではない。
「ありゃ?」
ユーシンが頓狂な声を上げているので見ると、大銅貨がぐにっと曲がってしまっている。
やっちまった顔のユーシンは曲がった銅貨を両手の指で摘まむと、にゅっと元に戻している。
そしてオレ達を見て、何もなかったかのように澄ましてみせた。
そんなに簡単に曲がるものなのかと思って、大銅貨を両手の指で曲げようとしたが、ビクともしない。普通は無理な代物だろう。
そんなところに料理が完成したとロータスさんから声が掛かった。
そこで食堂へと移動する。
食堂は暖炉の火が赤々と燃えていてすごく暖かい。
そして真っ白なテーブルクロスの上のそれぞれの席に、右手側にフォークが二本、左手側にナイフが一本と小さめのスプーンが置いてある。
なんだか本格的な料理、御馳走の予感がする。
王子とユーシンも同じ考えに辿り着いたみたいだ、お互いに目線を交わして笑顔を交換する。
「適当に座ってくれ」
台所からロータスさんの声が掛かった。
確か座る場所については、誰がどこに座るのかのマナー、席次があるはずだ。
基本はレディーファーストだし、家の主人なのだからロータスさんは特等席となる一番奥、で間違いない。
王子がすすっと入り口に一番近い席に座ったので、ユーシンと王子を挟むように座った。
そこにロータスさんが器用に四枚のお皿を持って現れた。
左手に三枚、右手に一枚だ。左手の一枚は手首の上に載っているだけらしい。
これもコインマジック同様、修練が必要な技術っぽい感じだ。
それぞれのお皿には骨付きの肉、サイドにグリーンリーフとカットトマトのサラダが載っている。
骨付き肉はローストビーフのように中がピンク色で、何とも柔らかそうだ。
ロータスさんによると「羊の骨付き肉のロースト」なる料理とのことである。
これは絶対に美味しいヤツだ。思わず笑顔になる。
王子とロータスさんがナイフとフォークで骨から肉を切り離して、骨をお皿の端っこに移動させている。
そこでユーシンと真似しつつ肉を小さく切って口に入れると、予想以上に美味しい。
肉の味を堪能しつつ、三人笑顔で目線を交わす。
そんなオレ達の様子を見て、ロータスさんが嬉しそうに笑っている。
最後に骨に残ってしまった肉は、カジュアルな場であれば手で持ってガブッと行って問題ないらしい。
王子はスマートにナイフを使い、骨にはほとんど肉の無い状態にしていたけど、ロータスさんに促されてオレ達はガブッと行った。骨の傍の肉は、さらに美味しいような気がする。
そして次の料理となるクリームパスタの具材として、オレ達三人が採集したノビルとアンズタケがベーコンと一緒になってサーブされた。
アンズタケのせいかソースがちょっとオレンジ色っぽくて、良い匂いがする。
ノビルは葉っぱの枯れていない青いところも使っているらしい。
食べてみると王子の判定通り、アンズタケはクリームソースとの相性が抜群に良い。
コリコリとした食感で、香りがある分自己主張があって、マッシュルームよりも美味しいように思う。
ノビルにはネギっぽい甘さがあり、丸ごとな根っ子の部分にはしっかりと歯応えがあって、こっちも噛むと楽しい。
クリーム系のパスタと言えばカルボナーラが美味しかったけれど、対抗馬になる美味しさだ。
そして最後にデザート、作り置きしていた手作りのチーズケーキ――上面に茶色く焦げが作ってあって香ばしく、中はトロッとクリーミーで濃厚――まで出てきて大満足の食事だった。
食後の紅茶を飲みながら、御馳走のお礼と、オレとユーシンが王子が買ったナイフと同じものを購入したいとを話すと、
「レザーワッシャーは牛革なんかだと水に濡れると滑るようになるんだけど、コレは革が特別でな。海生魔物の革を使っている。そのせいでちょっと高くなってしまうんだが水濡れにも強いし、かなり丈夫だぞ。それと、折角買ってくれるんだ。ちょっと細工をさせてくれないか?」
ロータスさんにそう言われて、今日買った王子のナイフとシースを預ける。
あと、それぞれの名前を紙に書いて欲しいと紙を渡されたので、三人で名前を書いて渡した。
ナイフは明日の夕方までには仕上げるとのことだったので、オレとユーシンの二本分の代金となる金貨八枚(八万円相当)はその時の支払いで良いけれど、但しスペシャル品になるのでキャンセルは不可だよ。とのことだ。
その後ストランドさんの話をすると、ちょっと顔を顰めて、
「あいつもバカだなあ」と少し呆れたように言った。友人と言う程ではないが、顔見知りらしい。
そしてその後、こんな話をしてくれた。
なんでも魔導具店で一緒に働いていた弟が、ガッポリ稼ぐと言い残して、店の運転資金や売れると見込んだ魔導具を持って新しいダンジョンへと行ってしまったらしく、そのせいで資金繰りが上手くいかなくなって借金を重ねているとの噂がある。
その利息分の支払いもあるし、店も借りているので毎月の店賃が掛かる。
メインストリートにある店だから結構な金額なんじゃないか? とのことである。
「確か、冒険者ギルドに倉庫整理の依頼もしていたな。こっちは苦し紛れってことかね。しかしヤツの性格からして、人を騙すようなことは、これまで考えたこともなかったはずだ。そこまで追い詰められているなら、何か手を考えないとな……」
そう言って考え込んでいた。
因みに落雷避けの雷獣のヒゲの本物は効果があるらしい。
効力は一年、効果の範囲は半径十メートルくらいあるので、パーティーの一人が持っていれば、落雷に遭わずに済むらしい。
滅多なことでは冬に落雷はないけれど、それでも落ちるときは落ちるし、冬の雷は夏のものよりも強力なので、ストランドさん以外から購入することを勧められた。
それから改めて御馳走のお礼を言って、宿へと帰った。
帰りがけにロータスさんから、
「ストランドは気の好いヤツなんだ。おそらく魔が差したってことだと思う。だから何か手伝えることがあるなら手伝ってやって欲しい」
そう言われたので、王子とユーシンと相談して、明日は冒険者ギルドのストランドさんの依頼を確認する予定である。
何しろ御馳走になりすぎた。
デザートの分だけでも、手助けしようか……
なんてことを二人に話すと、笑顔で頷いてくれたのだ。
ナイフはスカンジナビアのプーッコ。
デザートのチーズケーキは、バスク地方のベイクドチーズケーキのイメージです。




