第七十六話 オーガキング討伐行 その二
2024.9.21
今更ながらコピペ失敗が発覚したので修正しました。すいません。
二日目、まずは十五階層からワームホールのある十九階層までの移動だ。
出現する魔物はオークとなる。
ユータスさんが索敵のために先行し、サイエンさん達はベルさんのバフ魔法を適宜掛けて貰って、危なげなく遭遇するオークを倒していく。
ベルさんとシニフィエのバフ魔法なしだと、オレとユーシンには厳しい相手となる為、手出し厳禁のお客様状態での移動となった。
大きな声でのお喋りも禁止なので、お客様と言うよりは、売られていく仔牛のような感じもする。
そんな中、王子はタクトを手に、歩きながら何やら魔法の練習をしている。
肩の上のシニフィエと相談しているらしいので、小声でシニフィエに聞いたところ、バフ魔法の練習らしい。
そう言えば、王子は自分へのバフ魔法は使えるようになったという話だった。
そこでどんな感じなのか王子に聞いたところ、王子は少し考えて、何か思い付いたらしい。
落ちていた灰色でゴツゴツした石ころを拾い上げると、人差し指と親指で持って、オレとユーシンに見せた。
「ここに種も仕掛けもない石ころがあります」
そう言っている感じだ。
オレはユーシンと二人、ふんふんと頷く。
その様子を見た王子が一つ頷いた後、石ころをきゅっと握った。
すると石ころが王子の手の中でバラバラに砕けている。
思わず「ええーっ」と声が出そうになり、慌てて口を塞いだ。
バフ魔法で、どうやら怪力王子になってしまったようだ。
しかしユーシンが同じような石ころを拾い上げると、「むむっ」と言いながら同じく握りつぶしている。
あれ? ユーシンも怪力?
そこで気付いた。オレも同じ色の石ころを拾い上げて、むむっとすると、やっぱり砕けた。
どうやら王子の悪戯だったようだ。
王子はにっこりと歯を見せて笑っている。
シニフィエ先生によると、オレ達が手で砕いた石ころは泥が堆積して固まった泥岩とのことである。
泥岩は堆積岩の一種で、堆積物となる泥が自重や周囲の地形、水圧などによって圧縮される「圧密作用」の後、この圧密作用によって泥の粒子の間に存在する水に溶け出した物質が結晶化して泥の粒子同士を繋ぐ「膠結作用」なるものによって形成される。
この二つの作用は合わせて「続成作用」と呼ばれる。
自然界では数千万年経たないと、「膠結作用」によって泥の粒子が密着せず、脆い石ころになる。
ダンジョンは地上のどこかを摸倣して、ダンジョンに存在するものすべてを作っている。この石ころも何処か別の場所にあったものをコピーしたのだろうとのことだった。
ダンジョンの石ころはハイオークの牽制に使えそうだと思ったのだが、脆いのならばあまり意味がなさそうだ。
使う機会があるかは分からないけれど、一応投げやすい大きさのものをマジックバッグに仕舞いつつ歩いた。
そうしてお昼のサンドイッチを食べた後、十八階層まで進んだ。
そして三時頃、
「ジョウン、三時に肉」
ベルさんのいきなりの声に戸惑う。
王子を見ると「三時はおやつじゃない?」と言った感じで、首を傾げて三時の方向を見ている。
そこで右手、三時の方向を見ると、二百メートル以上離れた木立の中に、赤っぽい牡鹿が居るのが見えた。長く大きな角は、五つか六つに枝分かれしている。
近くの木と比べて身体が大きいし、確か普通の牡鹿は角の分岐が四つまでだったから、魔物の鹿で間違いないと思う。
オレ達に気付いた牡鹿は、その場に佇んでじっとこちらを観察しているようだ。
そこにジョウンさんが射た矢が飛んで行くが、牡鹿の魔物の手前でジョウンさんの矢は雷撃に撃ち落とされてしまった。
「ありゃー。サンダーディアかよー」
ジョウンさんの声は少しガッカリした感じだ。
オウルさんによると、サンダーディアは雷魔法を使う鹿の魔物で、逃げ足も速い。バフ魔法を使っても追い付くのは無理だし、飛び道具も雷で無効化されてしまうとのことだ。
そんな話を聞いているうちに、サンダーディアが身を翻して、木立の中に逃げようとしている。
そこに王子の矢、青い光の矢が飛んで行く。
その矢に向かって雷の魔法が落ちたが、矢はそのままサンダーディアの頭に突き立った。大当たりだ。
「いやっほー!」
鹿肉を諦めかけていたベルさんが、そんな声と共に走り出した。
「いやいや、待て待て」と、肉暴走中のベルさんに制止を呼び掛けながら、サイエンさん達も続く。
サンダーディアは腰下の肉、テンダーロインをドロップしたらしい。
大腰筋という部位で柔らかくて美味、貴重な肉とのことだ。
「絶品料理になるわよ」
ベルさんの言葉に三人で笑顔で頷きつつ、竹の皮のようなものに包まれている肉をマジックバッグに収納した。
それからしばらく歩き、十九階層のワームホール入り口に到達した。
ワームホールの出口は三十六階層、出現する魔物は上位オーク、ハイオークとなる。
ワームホールの時間経過は一時間とのことだ。
以前、カトーさんから、サイエンさん達のパーティーの当面の目標として上げられていた三十階層越え、以前苦戦したハイオーク階層となるためなのか、サイエンさん達は少し緊張しているようだ。
ワームホールを抜ける。宿泊予定地は三十七階層となるため、移動を開始する。
三十六階層は夕暮れステージだ。
カトーさん曰く、昼と夜の境目、逢魔時ステージとも言うとのことである。
確かに薄暗くて、遠くのものがはっきりと見えない上に、遭遇するのがハイオークとなると、不気味な感じがする。
しかしエンカウント率が低い経路なるものを通ったこともあり、一時間ほどの道行きでハイオークと遭遇することなく、無事に三十七階層への入り口の広場に辿り着くことが出来た。
三十七階層は朝ステージだった。今度は朝日が目に痛い。
今日の宿泊予定は、三十八階層への入り口のある広場を予定しているとのことだったので、早速移動を開始した。
ユータスさんによると、十五階層はまだ浅い階層なので、他の冒険者達の目から物資などを隠すため、特別に結界を張って使用しているけれど、以後は各階層の入り口か出口のある広場でキャンプをする予定とのことだ。
そしてまたエンカウント率が低い経路、及びシニフィエの索敵によって、ハイオークを避けながら三十八階層への入り口のある広場へと辿り着いた。時間は八時近い。
そこで少し遅いけれど、未だに朝日があるので、オレ達とサイエンさん達は、昨日に引き続きこの階層のハイオークとパワーのバフ魔法の重ね掛けでの実戦訓練が実施された。
オークの時は別々に戦ったのだけれど、今回はケイトさんとカトーさんがバックアップし、オレ達とサイエンさん達が一緒に戦うことになった。
シニフィエが索敵で発見したハイオークのグループが五匹だった為だ。
右三匹がサイエンさん達の担当、残りの左二匹がオレ達の担当と決まった。
オレは今回も大太刀装備だ。
ケイトさんによると、ハイオークの二の腕を切り落とすくらいは出来るはずだが、袈裟懸けにするのは厳しいとのことである。
ユーシンのスラッシュも一撃で倒せない可能性があるという話なので、オレとユーシンは防御をメインにしての戦いとなる。
やる気満々な王子にはケイトさんから、待ったが掛かった。
まずはオレとユーシンの実戦訓練、危なくなったら介入して良いが、ハイオークは素速いので、王子の矢も遠ければ避けられてしまうらしく、十メートル以内で使うようにと注意されていた。
王子はちょっと不満顔だったけれど、オレとユーシンからの「危なそうならお願いね」の言葉に、にこりと笑顔で頷いていた。
ハイオークはオークよりも一回り大きい。
それぞれが武器を手に、五匹が横並びでゆっくりとこちらに歩いてくる。
オレ達が担当する左の二匹のうち一匹が片手剣、左端のハイオークの持つ剣は武器店で見たカットラスのようだ。
大きく湾曲していて、そしてサイズが大きい。
おそらくオレの大太刀と同じくらいの長さだろう。
「ハクブンとユーシンはハイオークの攻撃を正面から受けるなよ。お互いの位置を確認しつつ、間合いも注意だ」
ケイトさんからは、そんな注意があった。
ユーシンと相談してオレがカットラスを持つ海賊ハイオークの担当、ユーシンが普通の片手剣ハイオークに決まった。
ベルさんとシニフィエに、サイエンさん達と一緒にパワーのバフ魔法を掛けて貰う。
「五分ごとにカウントするけど、無茶しないでね」
ベルさんの言葉に大きく頷き、討伐開始となった。
テンダーロインは米語、フランス語だとヒレ(filet)になります。




