第七十五話 オーガキング討伐行
今日はいよいよオーガキング討伐に出発する。
昨日はザイデルさんの店で王子のトリプルチャームのネックレスの制作を依頼したのだが、加工にちょっと時間が掛かって完成は十日後とのことである。
そして、三つの羽がまったく同じものであることから、強力な呪いなどに対しても有効なものになるだろうとの話が聞けた。
その後、西のダンジョンでシニフィエとベルさんに、バフ魔法の重ね掛けをして貰って訓練をした。
バフ魔法の重ね掛けは普通は無理なのだが、シニフィエによるチートらしい。
ベルさんのパワーのバフ魔法は効果時間が五分なのに、二乗となる二十五分。パワーのほうは二倍程度になるとのことだ。
オレ達も掛けて貰ったところオレは木刀や大太刀を、竹刀のように軽々と振り回すことが出来た。
王子の矢はどこまでも真っ直ぐに飛び、木を貫く勢いで突き刺さった。
ユーシンのスラッシュは大木を両断している。
「これならオークどころかハイオークとでも戦えるな」
サイエンさん達は嬉しそうにそんな話をしていた。
問題は一日一回の程度の限定使用となり、例えばケイトさんとのダンジョン鬼ごっこの時にベルさんに掛けて貰ったように、何度も掛け続けるようなことが出来ないところだ。
ここぞというシーンでの使用。ということになる。
ケイトさんは何やらマルタンの改造をしていたけれど、二足歩行にはしないらしい。
「重心とかバランスの制御が面倒だし、そもそも歩く必要がない」とのことである。
確かにそうか……
足を動かさなくても移動が可能ならば、それで充分目的は果たせているのだ。
無理に人に似せる必要はないのか……と思った。
そんな訳で、いつもよりも早い五時に起きて食事を摂った後、東のダンジョンをカトーさんとユータスさんの案内で進んだ。
今日は五階層にあるワームホールを経由して十五階層まで進む予定となる。
十五階層にあるクランの宿泊地には結界が張られていて、外敵は認識や侵入出来ないようになっているらしい。
安心キャンプと聞いてちょっとほっとする。
途中で何度かゴブリンやコボルトとの遭遇があったが、ケイトさんが即座に排除して、無事に五階層のワームホールの入り口に辿り着いた。
ワームホールは、階層間を瞬間的に移動することが出来るけれど、入ってから出るまでに時間が経過するタイプのものらしい。
五階層から十五階層までのワームホールは、歩くと十秒も掛からない感じだけれど、通過すると三時間後になるとのことである。
王子に時計を見せて貰うと、確かに三時間が経過していた。
ワームホール内は時間の流れが違う。ということらしい。
ちょっと納得が出来ないので、もう一度入って、今度は走ってみようか? などと考えていたら、
「入ってまた戻ってくると六時間後になるぞ」
ユータスさんに注意されてしまった。
そこで疑問を口にすると、ワームホール内で走っても意味がないとのことである。
そして夕方、宿泊地へと到着した後、まずはサイエンさん達がパワーのバフ魔法の重ね掛けで十五階層のオークと戦った。
目的はバフ魔法を使った戦い方に慣れることである。
遭遇した三匹のオークは一匹が棍棒、二匹が片手剣だ。
ジョウンさんの弓に、まずは片手剣オークの一匹が崩れ落ちる。
オウルさんはスキルを使わずにオークの棍棒を大盾で受け止め、そのまま撥ね飛ばした。
オークはトラックにでも衝突されたかのように転がって行く。
サイエンさんは黒剣を一閃させて片手剣オークを両断、そのままオウルさんに撥ね飛ばされた棍棒オークの元まで走り、留めの一撃を繰り出そうとして動きを止めた。
どうやらオウルさんのバッシュが致命傷になったようだ。棍棒オークはサイエンさんが一撃を入れる前に消えた。
時間にして一分も掛かっていない。鮮やかな手並みだ。
「まあオークだからな……」
オウルさんはちょっと戸惑いつつも、嬉しそうにそんなことを言っていた。
「矢が思った以上に飛ぶし、速度も速い。変に力を入れると狙いがズレる。あと動く標的には注意が必要だぞ」
ジョウンさんが王子にアドバイスをしていた。
そしてオレ達の番だ。
周辺を警戒していたシニフィエから、三時の方向から五匹のオークが接近中との報を受けて、ベルさんとシニフィエにパワーのバフ魔法を掛けて貰う。
オレはいつもの木刀ではなく大太刀を使う。鞘は邪魔になりそうなのでマジックバッグに仕舞った。
「オークはデカいし、リーチもある。間合いには注意しろよ」
オレとユーシンはサイエンさんからそんなアドバイスを貰い、五匹のオークを待ち受けた。
三匹が棍棒、残る二匹が片手剣だ。
パワーのバフ魔法だからなのか、王子は魔法の矢ではなく、普通の矢を使うようだ。
弓手の指に絡めるように持っている矢が二本なのが気になるが、オレを見て自信ありげに微笑んでいる。
「制限時間は二十五分だからね。五分ごとにカウントを入れるけど、注意してね」
そんなベルさんの言葉を後ろに聞き、いよいよ対決だ。
五匹のオークは横一線に並び、ゆっくりと歩いてくる。
オレ達三人よりも、その後ろに控えているケイトさんやサイエンさん達を警戒しているようだ。
オレ達のことを本物の敵の前にある石ころくらいにしか思っていないような感じだ。視線がオレ達を捉えていない。
失礼な奴らだ。
ユーシンは鼻に皺を寄せている。
「オレが左端の棍棒、ユーシンは右端の棍棒、王子は剣持ちのオーク、シニフィエは王子のサポートをお願いね」
オレはそう言ってユーシンと共に走り出した。
さすがに石ころでも飛んでくれば警戒をするようだ。左右の端のオークが、オレとユーシンに対して棍棒を振り上げて威嚇してきた。
ユーシンと予め決めていた通り、途中から加速する。
オークはそこで初めて焦ったような顔を見せた。
突っ込んでくるオレ達に対して迎撃すべく棍棒を更に高く振り上げて、攻撃のタイミングを計っている。
オレは肩に担いでいた大太刀を走りながら横に落とし、更に加速する。
オークの棍棒が落ちてくるが、このタイミングならばオレには届かない。
オークの懐に潜り込むように頭を下げて低く駆けた。
そして走り抜けざまにオークに切りつけた。
大太刀はオークの胴を抵抗なく断ち切った。致命傷だ。
そこで足を踏ん張り、振り抜いた大太刀を逆に返して止まる。
すかさず隣のオークへと向かうと、その頭には王子の矢が突き刺さっていて、今にも消えようとしていた。
ユーシンも問題なく右端のオークを倒したようだ。
残りのオークは、真ん中に居た棍棒オーク一匹だけになっている。
王子の二本の矢は二匹の剣オークを倒したらしい。
「油断するなよ」
オウルさんの声が聞こえた。
ユーシンと前後を挟むような形でオークに近づく。
オークはオレのほうが与しやすいと思ったのか、それとも大太刀を警戒したのか、オレに対して正対した。
オークは背後のユーシンを警戒して右後方へとジリジリと移動しつつ、歯をむき出して威嚇している。
オークとの距離は五メートルくらいだ。
さっきは夢中で気にならなかったけれど、間近で見るオークは想像以上に大きい。
手に持つ棍棒も消化器くらいの太さがあって、オレの大太刀よりも長い。その上ごつごつしている。
アレで殴られるのは勘弁だ。
オレは大太刀を青眼に構え直し、オークの動きに追従して距離を保ちながら、そんなことを思った。
今の距離はからあと十センチでも近づけば、オークの棍棒がオレに向かって振り下ろされるだろう。
この距離からだと二段突きでも攻撃が届きそうにない。
攻撃するためには、大きく一歩踏み込む必要がある。オークの間合いだ。
そしてオークには隙がない。
オークに先に攻撃させて、棍棒を大太刀で防ぎ、ユーシンのスラッシュと思ったけれど、オレがオークと一緒に居るとユーシンはスラッシュを出せないだろう。
何か良い手はないか? オークの右へと回り込んで、こっちが先に牽制攻撃をして、オークの隙、ユーシンが攻撃する機会を作るか?
そんなことを考えていると、オークの棍棒、持ち手のすぐ近くに王子の矢がとすとすと二本突き立った。
驚いたオークが棍棒を放り出した。
チャンスだ。
オレは大きく踏み込んで胸元への突きを繰り出すと、オークは慌てて後ろに飛び退く。
そこにユーシンのスラッシュが入った。
下段から切り上げるようなスラッシュに、オークは苦悶の表情で消えた。
ユーシンは大満足の笑顔だ。
そんなユーシンに笑顔で頷く。
二人で振り返り、王子に手を上げてガッツポーズをすると、王子も弓を持った手でガッツポーズをして飛び跳ねている。
片桐君や吉岡君が倒すのが難しいと言っていた初のオーク戦ということで、少し緊張していたけれど、三人で倒すことが出来たのが嬉しい。
ユーシンと二人、オークの魔石とドロップアイテムの大銀貨を拾い集めていると、王子が弓を手に駆け寄ってきたので二人でお礼を言う。
何しろ矢でサックリと倒せるところを、わざわざ棍棒への攻撃にしてくれたその心遣いが嬉しかった。
「今回はダイゴのお陰でずっこけずに済んだよ」
オレの言葉に、王子が「でしょ?」とでも言いたげに、笑顔で頷いている。
「オークは問題ないな、これならハイオークもいけるだろう」
ケイトさんからはそんなお褒めの言葉を貰った。
今回は放出魔素をクツシタンに収納しなかったから、オレ達はレベルアップに少し近づいたはずだ。
オーク百匹相当という討伐は大変だろうけれど、倒せる相手であれば問題はない。
前に進むだけ、後は努力を続けるだけなのだ。
結界で守られた十五階層のクランの宿泊地で夕食のシチューを食べた後、そんなことを考えつつ第一日目が終了した。




