↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/108

第七十二話 西のダンジョン その七

 歩いていると時々ゴーストが寄ってくるので、さくっと収納する。


 クツシタンに貯蔵される魔力は非常に少ないみたいだし、魔石もドロップアイテムもないのが残念ではあるけど、クツシタンがぽわんと光るギミックがちょっと楽しい。


 オレンジ色に熟した実をつける渋柿の木もポツポツと生えていて、時折暗がりの中にそのオレンジが浮かび上がる。


 これだけあるならば干し柿の生産量の問題もなさそうに思えた。


 そんなことを考えながら一時間ばかり歩いて行くと、シニフィエから、ゴブリンが三匹、前方からこっちに向かって来ているぞ。との警告があった。


 そこで、王子の前にオレとユーシンが並んで立って身構える。


 王子は光の球を前方へと移動させているらしい。光が動き、前方の暗がりを照らし出す。


 そんな光の中に見慣れた感じの小さな影が現れた。ゴブリンだ。


 このダンジョンでは初めての遭遇となる。


 真ん中の一匹は弓を持っているように見える。両側の二匹は片手剣らしき武器を持ち、きょろきょとと首を動かしながら、辺りを探るようにゆっくりとこちらに向かって来ている。


 ゴブリン語? のお喋りはなく、ゴブリン達はまだオレ達には気付いていないようだ。



 振り返って王子を見ると、矢をつがえていた。そしてオレを見てひとつ頷くと即座に弓を射た。


 王子の射た矢はするどく飛んで、真ん中に居たゴブリンアーチャーの頭に刺さる。


 ゴブリンアーチャーはそのままばたんと倒れて消えた。


 青い光がなかったので、今回は魔法の矢ではなく、トネリコの矢を使ったらしい。


 最近は付与魔法の訓練だけをしていたように思うのだけれど、いつの間にか普通の矢も使いこなせるようになっていたことに驚く。



 お次はオレ達の番だ。


 オレとユーシンは二匹の片手剣ゴブリンへ向かって並んで走り出す。


 そして走りながらお互いの目を見て頷き合う。


 ユーシンは盾をちょっと上げて見せたのでシールドバッシュで倒すようだ。


 にっと笑った後、少し低い姿勢になってさらに加速した。


 オレもユーシンに遅れることなく隣を走る。二匹のゴブリンはオレ達を見て立ち止まり、それぞれ迎撃しようと片手剣を振り上げつつあったが、もう遅い。


 ユーシンは走りながらシールドバッシュを発動し、一瞬のうちに五メートルほどあった間合いを消してゴブリンに盾をぶつけている。


 オレ担当の片手剣ゴブリンはその様子を横目で見たらしく、その圧倒的な力にびくりと怯えたように見えた。


 ユーシン担当のゴブリンが消える。


 ユーシンはそのままオレ担当のゴブリンへと身体を回して正対して止まった。


 盾を構えたままだ。スキル発動後の硬直があるはずだが、それを感じさせない。


 そんなユーシンの様子を見たゴブリンは、標的をユーシンに変更したらしい。


 身体の向きを変えようとしている。


 致命的な隙だ。



 オレは走りながら木刀を横薙ぎにゴブリンの胴を抜く。


 そして消えつつあるゴブリンに右手を差し出して、放出魔素をクツシタンに収納した。


 討伐完了だ。



 新しいダンジョンのゴブリンの放出魔素よりも大きな魔力が、オレの右手からクツシタンへと収納されたことが、感じから分かる。


 ユーシンは放出魔素を収納する事自体、考えていなかったようで、あっと気付いたような顔をしているけれど、放出魔素はレベルアップのために必要なものだ。


「一応検証するためにクツシタンに収納して見たけれど、放出魔素収納のために武器を手放してしまうのは危険だし、レベルアップ優先で行こうよ」


 オレがそう言うと笑顔で頷いていた。



 シニフィエが「ほんのちょっと増えたな」と、相変わらず見た目は変わらないクツシタンを見て言っている。


「ほんのちょっと」は「ほんのちょっとのちょっと」よりは、多いということなんだろうと思う。



 そう言えばシニフィエに魔素溜まりの事を聞いていなかったと思い出し、改めて聞いてみたのだが、百層以上ある巨大なダンジョンの深層にならば、そんな場所があるかも知れないが、実際にあるのかどうかは知らないとのことだ。


 ドラゴンも地上には居ないけれど、同じく巨大なダンジョンの最奥に、ラスボスとしてドラゴンが存在する可能性があるらしい。


 ドラゴンは、ダンジョンの作り出したまがい物とは言え魔石は本物になるそうだ。


 ドラゴンが居るならば、クツシタンなしでも帰還のための魔石が確保出来そうだと思ったが、ドラゴンを倒すのは無理じゃないか? とのことだった。


 そんな話を聞きつつ、ゴブリンの魔石三個とドロップした大銀貨三枚を拾い上げて、王子に預けた。



 その後はゴブリンと出会うこともなく、時々寄ってくるゴーストを収納しながら、第二階層へ行く為の石版のある広場へと辿り着いた。


 東のダンジョンと同じく、ストーンヘンジのように石柱が円陣状に並んでいる場所だ。


 昼と夜とでは随分と雰囲気が違うけれど、広場の中は安全地帯という話だったので、少し休憩を取ることにする。


 王子が時計を見せてくれたので見ると三時半過ぎだ。


 トマス君達の所を出発したのが一時過ぎだから、ダンジョンの入り口からトマス君達の採集場所までの二十分を含めると、ダンジョンの入り口から三時間弱で折り返し地点まで来たことになる。


 同じようなペースで反対側の境界沿いを歩けば、六時半とか七時くらいまでには帰れそうだけれど、ゴブリンが少ないから稼ぎも少ない。


 そのあたりを何とかしたいな、などと、クランで写させて貰った地図を見ながら、そんなことを考えていると、王子が地図の真ん中を突っ切るように指を動かしてオレを見る。


「帰りは真っ直ぐ入り口まで歩いてみようよ」と言うことのようだ。


 ユーシンも王子の意見に賛成らしい。


 境界沿いならば、警戒すべき方向が限定されるから、リスクは少ないが、入り口までぐるっとまわることになるので時間は掛かる。


 けれどゴブリンと出会う機会は増えるはずだ。


 シニフィエに相談をすると、問題なかろうとのことだったので、帰路はダンジョンの中心部を突っ切るように真っ直ぐ歩き、ダンジョンの入り口を目指すことになった。



 シニフィエが先行して警戒をしてくれたので、オレ達はその後に続き、時々現れるゴーストを収納しつつ進んで行く。


 そうして四十分程歩いていくと、シニフィエが戻ってきて、


「この先にゴーストの親玉格みたいなのが居る。危険はなさそうだし収納可能だ」との報告があった。


 ゴーストの親玉などと聞くと、あまり出会いたくない感じがしたのだけれど、王子とユーシンは好奇心に目を輝かせている。


 歩く速度も少し早くなった。



 二人に付いて五分ほど歩いて行くと、前方にぼんやりとした光が見えた。


 それはゆっくりと明滅する光の球で、かなりの大きさだ。


 更に近づいていくと、球状ではあるのだけれど、太い毛糸を丸めた毛糸玉のような感じだった。


 直径は三メートルくらい。そして地面から二十センチくらい浮いていて、半透明なところはゴーストに似ているけれど、ウニウニとしていて、ちょっとお近づきになりたくないなタイプだ。


 親玉ゴーストを観察していると、一際明るく光った後、ゴーストが中から飛び出して来た。


 ゴーストは王子へと向かうが、王子は慌てることなく右手を差し出して収納した。


 どうやら親玉ゴーストはゴーストの製造? をしているらしい。



 王子が更に親玉ゴーストに近づいていくので、ユーシンと共に後を付いていく。


 そして親玉ゴーストから二メートルくらい離れたところで立ち止まったので、その横に並ぶ。


 見上げるような大きさだ。確かにゴーストっぽい感じだけれど大きすぎる。


 これを収納するのは無理に思えた。



 王子は少し考え込むような仕草をした後、しゃがみ込んで地面に何か書き始めた。


 見ると大きめの丸を書いた後、その丸を取り囲むように三つの小さな丸を書いている。


「三人で取り囲んで収納しよう」と言うことのようだ。


 そこで王子とシニフィエをその場に残して、オレとユーシンが移動しようとすると王子に止められた。


 王子は立てた人差し指をくるりと回して見せてからしゃがみ込み、地面に書いた大きな丸を三等分するように線を描き加えた。


 なるほど、三人の間隔をきっちり等間隔にしたいらしい。


 王子はオレとユーシンに右手の手の平を向けて「ちょっと待ってて」の仕草だ。


 それに対してオレとユーシンが頷くと、王子は親玉の周りを一周してから、スタート地点に靴でバツ印を描いた。


 そしてもう一周する。


 オレとユーシンの立ち位置が決まったようだ。


 王子が頷くのを見て左右に分かれて移動する。


 やはり王子は立ち位置の指定をしていたらしく、バツ印が書いてあったのでそこで止まる。



「準備出来たー?」オレが親玉越しに二人に聞くと、


「出来たよー」とユーシン。


「いいぞー」と王子を代弁するシニフィエの声がする。



「それじゃあ、いち、にの、さん、収納で行くよ」


 そう言って収納を試みた。


「収納」と声に出しつつ念じると、翳した右手の手の平に大きな力を感じる。


 しかし右手からクツシタンに収納は出来ていないようだ。


 そこでもう一度試してみたのだが、やはり収納出来なかった。



 シニフィエによると、三人の収納を念じるタイミングがズレていることが問題らしい。


 そこで王子の元に集まって、タイミングの修正をすることにした。


 どうすれば一番良いかと考えて、中学校の音楽の授業で習った三拍子を採用してみることにする。


 右手の人差し指を下に降ろして、ちょっとばかり左側に上げるのが拍子の一、そこから指を右横へと少し弧を描くように移動させるのが拍子の二、最初の指の位置へと左斜めに移動させるのが拍子の三で、これも直線ではなくちょっとカーブだ。


 そして繰り返しとなる次の指の振り下ろしで、収納となる。


 オレと王子とユーシンの三人が輪になって向かい合い、オレの「いち、にの、さん、収納」の掛け声でテンポを合わせる。


 二人の身体が指の動きをなぞるように揺れるのが楽しい。


 何度か繰り返すうちに三人のテンポがピッタリと揃い、お互いに笑顔を交わした。


 そこで再度ゴースト親玉を取り囲み、オレの掛け声に合わせて三人で同時に収納を念じると、今度は収納に成功した。


 右手から入ってくる大きな魔力に、クツシタンがこれまでにない光を放つ。


 そうしてゴーストの親玉が消えると、オレと同じく収納に成功して喜ぶ王子とユーシンの笑顔が見えた。


 改めてクツシタンを見ると、尻尾のピンクがかった灰色の部分が、少しだけれど増えているのが分かる。クツシタン初の目に見える成果だ。


 さらにゴーストの親玉からはドロップアイテムが出たらしい。


 オレ達の中心となる地面に何か落ちているのに王子が気付き、その何かを拾い上げている。


 オレ達に差し出された王子の手の平を見ると、真っ白な小さな鳥の羽のようなものが三つあった。


 シニフィエによると、アンデッドの攻撃から身を守る「破邪のお守り」とのことである。


 格好良いし、何より三つというのが嬉しい。


 三センチくらいの小さい羽は金属製のようなので、お守りとして身に付けるのならば、ペンダントトップが良いんじゃないかと思う。


 しかし紐で括り付けるだけだとちょっと不安だから、どこかお店で仕上げて貰ったほうが良さそうな感じだ。


 お守りをオレのマジックバッグに入れてしまうのは危険かも知れないので、三つとも王子に預かってもらうことにした。



 その後の帰り道でもゴブリンと出会うこともなく、六時半前に無事ダンジョンを出ることが出来た。


 少し時間が遅くなってしまったので、今日はサウナはなし。宿でお湯を貰って身体を拭いて済ませることにして、クランへと帰った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。