第六十九話 西のダンジョン その四
そして翌日、今日は午前中、サイエンさん達はクランへの仮加入申請の手続きを行って、その後ガイダンス、クランへの加入についての基本的な説明を受けることになったようだ。
オレ達のパーティーはユーシンの片手剣と盾への魔法付与と、王子の魔法発動用のタクトの購入。そしてオレの木刀のグレードアップだ。
その後、ケイトさんからの提案があった、この街の甘味処とかお菓子の市場調査を行い、午後からサイエンさん達と合流して西のダンジョンに行く予定となる。
ケイトさんは早朝から宿の裏庭で、居合いの訓練をしていたらしい。
「折角の聖属性の武器だから、西のダンジョンのゴースト退治をする」
そんなことを言っている。
しかしゴーストは見えない。どうやって退治するのかちょっと気になるところだ。
朝食の時に、ユータスさんから付与魔法士のザイデルさんのお店を紹介して貰ったのだが、その前に武具店に行きたいとの要望がケイトさんからあった為、武具店へと向かった。
武具店にはオレがマジックバッグで運んだ覚えのある武器が壁に掛けられていて、ちょっとにやりとする。
「ダイゴ様の魔法の矢は、弓さえあれば発動出来るものなんですよね?」
ケイトさんが王子の装備している矢筒を見てそんな質問をしている。
その質問に王子は軽く頷いているけれど、矢の残りを考えなくても良いのだから、よく考えてみれば、すごいことだ。
矢筒には七、八本の矢が残っているけれど、矢羽根が潰れてしまっているものや、ちょっと曲がっているように見える矢もある。
王子が魔法無しで練習をしていた矢は、結構くたびれてしまっているらしい。
そこでまずは王子の短弓用の矢を購入することになった。
ケイトさんのお勧めはトネリコの矢だ。ブナやポプラの矢に比べて重くて頑丈だし、魔法の付与にも適しているとのことだ。
矢にも魔法付与と聞いて、王子が目を輝かせている。
店には魔法が付与された矢も売っていて、「光る矢」と「燃える矢」があった。
光る矢は夜間信号用のものらしい。燃える矢は当たると燃えるとのことである。
イノシシ狩りでジョウンさんが使っていた麻痺の矢は、折れたりしない限り使えるような話だったけれど、この二つは使い捨てタイプらしい。
どちらも一本で大銀貨一枚(一万円)とすごくお高い。
因みに麻痺の矢は、ダンジョンでは需要がない為、在庫していないとのことだった。
魔法が付与されていない短弓用のトネリコの矢の値段は一ダース、十二本で大銀貨一枚(一万円相当)、そこで十ダース、金貨一枚分を購入した。
王子の矢筒の矢を新しいものに交換する。残りは後でマジックバッグに仕舞う予定だ。
その後ケイトさんが買ったのは、直径三センチ、長さ二十センチくらいの鉄の棒だ。
何に使うのかと思っていると、ケイトさんから木刀を貸せと言われた。
いやな予感がしたので理由を聞くと、木刀をグレードアップするとのことである。
オレから木刀を渡されると、ケイトさんが片眼を瞑りつつ木刀の先端に指を当ててくりくりっと指を回してから引っ張るが、円柱状の頭が見えたものの、すぐに引っ込んでしまっている。
どうやら魔力の糸で鉄の棒と同じ大きさに木刀の中をカットしたらしい。
ケイトさんが首を捻って考えているので、
「隙間がなくて、ぴったりだから空気も入らない。だから抜けないんじゃないですか?」
オレがそう指摘するとケイトさんも気付き、魔力の糸での加工は諦めたようだ。
怪訝な表情をしているお店の人に、木工用のドリルを貸してくれと頼んでいるが、ないとの返事だ。
木工用のハンドドリルならば家具工房にあるだろうとのことで、家具工房の場所を教えて貰い、工房の人にハンドドリルを借りて木刀に無事穴が開いた。
そこにさっき買った鉄の棒を入れようとしているが、入らないみたいだ。
今度も同じだ。ぴったりの大きさなので、針先を押さえた注射器みたいに空気の逃げ場がない。
ケイトさんは、むむむと唸ってから鉄の棒を取り出して鉄の棒に溝、空気の逃げ道を魔力の糸で加工しようとしている。
鉄は固いせいか、木刀を作った時のようにすぱっとは行かず、加工に結構な時間を掛けていたが、結局途中で諦めて脇差しを使うことにしたようだ。
「ハクブン、ちょっとこの鉄の棒を縦にして持っていてくれ」
そう言って鉄の棒をオレに渡すと、オレに向かって腰を落とし、左手は鯉口を切るべく鞘、右手は柄を握り居合抜きをするように構えた。
朝から危険だ。背中に汗が流れたような気がする。
オレが鉄の棒を放りだして断ると、ケイトさんは舌打ちをした後、工房の机の上に立てて置いた。
そして鉄の棒から一メートル程間合いを取る。
居合いを使うのかと思って見ていると、もう終わったぞと言われた。
半信半疑で机の上の鉄の棒を手に取って見ると、深さ二ミリくらいのV字型の溝が出来ている。
Vだから二回切ったはずなのだが、まったく見えなかった。
それこそ魔法のような感じだ。
「抜き打つだけでは居合いじゃあないからな……」
ケイトさんはドヤ顔でオレに言う。
しかしこれは絶対に真似出来そうにない。
それからケイトさんが工房の職人さんにタガネとハンマーを借りて、鉄の棒の周囲にささくれを作り出した。こっちは抜けなくする工夫だろう。
そんな加工をした鉄の棒をぐぐっと押し込むと、今度は空気に邪魔されることなく、きっちり根元まで入った。
ケイトさんは木刀を見て、うんうんと頷いてから、オレに木刀を差し出し、
「大太刀ほどではないが、良い感じになったぞ。ちょっと素振りしてみろ」
そう言ってにやりと笑っている。
どうやら本人に無許可での魔改造が終了したらしい。
事後承諾すら求めないのがケイトさんらしいといえば、らしいと思う。
さすがにこの工房で木刀を振り回すと、職人さんに怒られそうなので、工具を借りたお礼を言って工房を後にした。
工房を出た裏道には人通りが無かったので、ちょっと素振りをしてみる。
木刀を中段に構えると剣先が下を向きそうになるので、いつもよりも力を入れて持つ。
そこから振りかぶって素振りをしてみると、剣先がいつものヘソ辺りで止まらずに流れて地面を打ちそうになった。
剣先部分に鉄芯が入ったことでバランスが悪くなったのは間違いない。
片手で持って見ると、前より一キロくらい重くなった感じだ。※
「稽古の時に重い剣を振っていれば、実戦でも安心だ。重さに振り回されて自分の足を切りつけるなんてことになりかねないからな」
ケイトさんはそんなことを言っている。
おそらくはオレが実戦で大太刀を使うことを想定した改造ということなんだろうが、今のところオレは稽古も実戦もこの木刀を使っているので、早くこの重さに慣れないと、安心どころか危険な気がする。
それからユーシンの片手剣と盾に魔法を付与して貰うために、ザイデルさんの店に行った。
ザイデルさんの店では魔道具なんかも取り扱っていて、狭い店内には様々な魔道具が置いてあった。
そんな中に魔石を燃料とする魔道コンロなるものが売っていて、早速ケイトさんが購入していた。
表面はのっぺりしていて火口がない。電磁調理器のような発熱するタイプらしいが、結構な厚みがある。
ザイデルさんによると、フィールド型のダンジョンならば立ち枯れた木もあるので、なくても困ることはないが、あれば便利。
但し、値段が高いし重いので、あまり人気がないらしい。
魔石はゴブリンの魔石が使えて、強火の加熱時間はトータルで十時間くらい。
一回の調理で二十分くらいだと一日三回で一時間となり、十日は使えるような感じになるらしい。
出力調整のダイヤルがあって、弱火と中火と強火の三段階が選べる。
値段は魔石一個付きで一つ金貨二枚(二十万円相当)だったが、ケイトさんは相変わらずお大尽※のようだ。
マジックバッグに入るかの確認をしたところ、ぎりぎり入りそうでホッとする。
そして魔法の付与は、ユーシンの片手剣と盾だけの予定だったのだが、ケイトさんに勧められて、オレ達全員の武器に付与魔法を掛けて貰うことになった。
ユーシンは予定通り片手剣と盾、オレは木刀、王子は弓と弦だ。
ケイトさんお勧めの付与魔法はユーシンの片手剣は頑強、オレの木刀と王子の弓と弦は堅牢。ユーシンの盾は軽量特殊となる。
「頑強」と「堅牢」の違いは単純な硬さだけではなく、粘り強さの特性となる靱性が関係してくるらしい。
例えば柿の木の枝は単に硬いだけで、強い力を受けるとボッキリ折れてしまう。
なので柿の木の枝は頑強だけど粘り強さ、靱性がないことになる。
矢の他に、家具や建築物なんかにも使われているトネリコの木は、頑丈で粘り強くて曲げにも強い。
こっちは柿の木の枝よりも靱性がある。頑強ではなく堅牢な木になるとのことである。
金属製の武器は刺突用の細い剣でなければ、より頑丈で硬くなる頑強ほうが有利らしい。
日本刀は折れずに曲がる特性があるという話を片桐君がしていたので、靱性がある堅牢タイプの武器になるが、刀は片手剣や両手剣と比べると刃の厚さが薄いから、折れないことが重要になるということなんだろうと思う。
それと、武器の軽量化は一般的ではないらしい。理由は威力が減るからとのことだ。
大太刀に是非。と思ったのだが、付与魔法三つは無理らしい。
どうやら魔改造木刀で頑張る以外に道はないようだ。
盾の軽量化も、単純に軽くしてしまうと、攻撃で吹き飛ばされるようなことになってしまうので、持ち手部分を通る垂直二等分線辺りの重さはそのまま、その両側が軽くなる特殊な軽量化魔法となる。
付与魔法は一回金貨五枚(五十万円相当)で、どれも定番の付与魔法なので同じ値段とのこと。
三人で五回となるので全部で金貨二十五枚(二百五十万円相当)も掛かることになる。
オレの木刀は折れそうにない。今のままでも問題なさそうだから、断ろうとしたのだけれど、
「訓練中に折れて後悔しないと良いな」
ケイトさんにそう言われて怖くなり、やっぱり魔法を付与して貰うことにした。
魔法の付与の作業は作業場で行うとのことで、見せては貰えなかった。
全部で二時間くらい掛かると言われたので、王子の魔石付きの魔法発動用のタクトを購入するために、杖などのマジックアイテムを売っている専門店へ向かった。
少し薄暗い店内には様々な種類の杖やローブ、帽子などが売っていて、いかにも魔法使い御用達の店という雰囲気だ。
ショーケースの中には、王子が使っているようなタクトが並べて展示してあり、早速王子がその前へと移動して、興味深そうに見比べている。
オレがお店の人、ブラウンさんに魔法発動用の魔石付きのタクトが欲しいとの話をして、ショーケースから何本か出して貰った。
王子はそのうちの一本を手に取って、クルクルと回して考え込むような顔をしていた。
「相性があるから、手に持ってしっくりくるヤツが良いぞ」
ブラウンさんが王子にそんなアドバイスをしている。
魔法発動用のタクトは、どれもスマートで格好が良い。
ブラウンさんの話を聞くと、どれも「堅牢」の付与魔法が掛かっていて、魔石付きのものは魔力効率が良いらしい。同じ魔法でも使う魔力が少なくて済むとのことである。
タクトよりも杖のほうが大きな魔石を付けることが出来るし、いざという時に棍棒代わりになるから、タクトよりも杖を選ぶ人が多いとのことだ。
そこで熱心にタクトを回しては百面相をしている王子に杖を勧めてみたのだが、まったく興味がないようだった。
軽く首を横に振ると、またくるくる作業に戻っていた。
そうして王子が選んだタクトは、これまで使っていたものと同じく三十センチくらいで、黒っぽい木で出来ていて、根元の所に二センチくらいの明るい青緑色の魔石が嵌まっていた。
タクトは金貨十六枚(百六十万円相当)で、青緑色の魔石は光や風の魔法と相性が良いとのことである。
例えば赤い魔石ならば火魔法との相性が良いとか、魔石の色で相性が決まるらしい。
王子は光と風の魔法が得意だから、相性ピッタリとなる。
その後、新しいタクトを持って笑顔の花を咲かせている王子と再びザイデルさんの店に戻った。
ザイデルさんに「頑強」の魔法を付与して貰った木刀は特に代わり映えしない。
王子は弦をみょんみょんさせて、その音で判断出来るのか、にっこりと笑顔だ。
ユーシンは盾を持って、満足そうなニコニコ顔を見せている。
そこでユーシンの盾、カイトシールドを持たせて貰ったところ、重さについては余り変化がない感じだったけれど、盾を動かしてみると、腕の延長のように取り回しが楽で、狙った位置でピタリと止まる。
付与魔法はなかなか優秀らしい。
そんな買い物に結構時間を使ってしまった為、その後予定していた甘味の市場調査は取り止めとなった。
屋台で買ったお昼のハムとチーズのサンドイッチを食べながら、サイエンさん達との待ち合わせ場所、西のダンジョンの入り口へと向かった。
直径三センチ、長さ二十センチくらいの鉄の棒と木の棒について重量計算サイトで確認してみたところ、φ20mm、長さ200mmの円柱だと、Feの比重7.86で1.1kg。木刀の材質を樫のような硬木と仮定、気乾比重が0.8とすると0.11kg。なのでハクブンの感じた1kgの重量増はほぼ正解になります。
「お大尽」「大尽」はお金持ちで豪快にお金を使う人の意味です。
尚、王子のタクトの魔石の色、明るい青緑色はターゴイスのイメージです。




