表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/108

第四十七話 新しいダンジョンその五

 翌朝、眠い目を擦りながら起き出してサイエンさん達に朝の挨拶をすると、サイエンさんから、

「他の冒険者たちに話を聞きに行って来るから、果物の袋を一つ出してくれ」と言われた。


 そこでマジックバッグからオレンジのような果物が入っている袋を取り出してサイエンさんに渡すと、二つの袋に十個くらいずつ入れて、「残りはまた仕舞っておいてくれ」と言って返してきた。


 袋をマジックバッグに仕舞いながら果物の名前を聞くと「頭が飛び出てないからデコポンじゃないよな」と言って頭を掻いてから、


「ベル、これは何だ?」と近くに居たベルさんに聞いている。


「ネーブルよ。今は秋だから、これはダンジョン産ね」とベルさんが教えてくれた。


 それからサイエンさん達は、サイエンさんとジョウンさん組、オウルさんとベルさん組に分かれて、二つの冒険者グループの所へと歩いて行った。


 遠目に見ていると、サイエンさん達から手土産のネーブルを貰って、相手の冒険者達の顔に笑顔が浮かんでいた。どうやら円滑に情報収集が出来そうな雰囲気だ。


 ケイトさんが「朝食前にお茶でも飲むか」と言うので、紅茶セットを取り出して渡し、今朝は何を食べようか? と王子とユーシンと相談する。


 王子はちょっと考えて両手でバインミーの形を作った。


 オレが「バインミーいいね。そう言えば、追加で目玉焼きが入ったバインミーがあるから、今日はあれにしてみようか?」と言うと笑顔で頷いている。


「目玉焼き入りのバインミーに肉串を挟んだら、もっと美味しくなるに違いない」ユーシンが嬉しそうにそう言った。


 こっちはちょっと食べづらそうだけど、ユーシンの大きな口ならば、がぶりと行けるような気がする。


 そんな話をしているとサイエンさんたちが帰ってきた。


 サイエンさんに、冒険者ギルドから派遣されている人が居るらしいから、果物袋をもう一度出してくれ。と言われたので取り出すと、サイエンさんが袋の中からネーブルを二つ取り出して「ちょっと挨拶に行ってくる」と言い残して、一人で壁のないテントの所へと向かって行った。


 どうやらあの場所が冒険者ギルドの調査拠点のようだ。



 その後、紅茶を飲みつつジョウンさんがオレ達に話してくれたところによると、


 十階層は、これまでの九階層までような四角ではなく細長く潰れた楕円形で、長いほうの径、呼び方としては長径もしくは長軸のほうの両側に、九階層と十一階層への階段があって、直線距離で三キロくらい。歩けば三十分掛からないくらいの距離ということだ。因みに楕円の短い方の径は短径、短軸と言うらしい。


 十一階層の階段の近くにも、ここと同じようなテント村があって、そちら側は十一階層や、それ以降の階層を攻略している冒険者グループが四グループほど居るらしい。


 そのうち三グループは日帰りではなく、ダンジョン内で比較的安全な場所を見つけて仮眠を取ったりしながら、精力的に探索していると言う話だ。


 こっちのキャンプ地に居る冒険者たちは、九階層や八階層での探索をしているので、あまり詳しいことは知らないらしいのだけれど、十一階層にはコボルトや動物系の魔物が出現し、十三階層辺りからはオークが出現するので肉のドロップも多いらしい。


 十三階層でオークだと十六階層あたりはもう攻略されてしまっているかも知れないなあ。とオウルさんがちょっと残念そうに言っていた。



 そんなところへサイエンさんが戻って来て、冒険者ギルドから派遣されて来ている人の話として、


 この階層への魔物の出現は、現在まで確認されていないが、西の王国の調査団の騎士七人が十階層に滞在していて、ちょっと横柄なところがあるが、賓客ひんきゃく扱いなので気をつけるようにと、注意されたとのことだ。


 それって片桐君や吉岡君たちのグループだよね? 二人の性格からして横柄とは無縁なんじゃないかなあと思う。


 あと、二人と一緒に居た五人は従士って話だったけれど、騎士なのか……騎士と従士だと身分が違いそうだから、その人たちのプライドが高いとか、そういうことなのかな? と思う。


 ケイトさんがそんな話を聞いて顔をしかめている。


「知り合いとか顔見知りが居るんですか?」とケイトさんに聞いたところ、


「横柄と言われて思い浮かぶのは近衛の奴等だな」と言って、ちょっとイヤそうな顔をしていた。



 そんな話をした後、朝食を皆で食べた。今日はバインミー、目玉焼き入りのスペシャルだ。ユーシンは追加で肉串の肉を挟んでいたけれど、肉が大きすぎてパンの口が開いてしまっている。


 そんなバインミーを顔を斜めにしつつ大口を開けて食べている。やっぱり食べづらそうだけれど、すごく楽しそうだ。


 食後の休憩中に、今日はオレ達は九階層の探索、地図の空白部分を埋める作業をする予定なので、ジョウンさんから九階層と八階層の地図を借りた。


 サイエンさんたちは地図のない十一階層の探索だから、今日は一からマッピングをしつつダンジョンの探索を行うことになる。


 サイエンさん達もマッピングするための紙の束を持ってきていたけれど、見せて貰ったところ、あまり上質な紙ではなかった。


 なので、ノートを六枚ほど切り取って作図担当のベルさんに渡すと、凄く喜んでくれた。ペンは魔道具のペン――お尻のほうに小さな魔石が付いていた――があるから大丈夫とのことだ。


 その後、皆で話し合い、夕方五時には帰還して集合する。ということになった。


 ケイトさんはコボルトやオークの放出魔素の収納実験をしたいなあ。と言ってオレをちらちらと見てくるが、「今日は九階層ですよ」ときっぱり言うと、取りあえず今日のところはオレ達に付き合って、九階層の探索に同行してくれることになった。


 一応ケイトさんはオブザーバーのような感じの立会人で、もしもの時の助っ人役だが、魔法の糸で探索して、他の冒険者が近くに居る場合には教えてくれるとのことだ。


 サイエンさんは、時間があれば、あっちのキャンプ地でも情報収集してみる。と言っているので、残りの果物の入った袋と、昼食用のサンドイッチを渡したあと、それぞれの攻略階層へと出発した。



 九階層への階段の入り口で王子に光の魔法をお願いして、階段を下りた。


 地図は空白だらけなので、どこから探索しようかと考えていると、ケイトさんが、左のほうは誰も居ないぞ。とアドバイスをくれたので、その言葉に従って分岐を左へと曲がる。


 今日はシニフィエも魔物の索敵に協力してくれるとのことなので、マッピングは王子が担当、オレとユーシンが前衛となり、王子とシニフィエ、そしてケイトさんが続くフォーメーションだ。


 ケイトさんを追いかけて走っていた時は気付かなかったけれど、ダンジョンには六畳から八畳くらいの小部屋があちこちにあって、大抵はそこで行き止まりになっていた。


 通路の分岐があると王子の持っている地図を確認して、より空白が大きい方向へと進んだ。


 階段への道、正解の道が分かっているから、絶対に必要な作業ではいないのだろうけど、ダンジョン探索の練習にはなると思う。


 三十分くらい歩いたところで、シニフィエが「ゴブリンが五匹、次の角を曲がって二十メートルくらい先に居るぞ」と教えてくれた。


 それを聞いて王子がすかさず矢を放った。放たれた矢は青く光って三本に分かれ、オレが、えっ? と思いながら見ていると矢が通路の角を曲がっていくのが見えた。


 そしてシニフィエが、「ゴブリンが二匹、次の角を曲がって二十メートルくらい先に居るぞ」と言う。

 さっきよりも三匹減っている。王子がもう一度弓を構えたのを見て、慌てて止めた。


「残る二匹は弓ゴブリンと片手剣ゴブリンだな」とケイトさんから言われた。

 どうやら王子はゴブリンマジシャンとゴブリンアーチャーは自分の担当という認識らしい。


 しかしこれだとオレ達の出番があまりないような感じだ。

 そこで王子にお願いして、残る二匹、ゴブリンアーチャーはオレとユーシンが討伐することになった。


 通路の先に居るゴブリンは、仲間がやられたことから警戒はしているだろうけれど、オレ達をまだ認識出来ていない。


 そこで、角から走り出てゴブリンの攻撃態勢が整わないうちに、やっつけようとユーシンに提案した。


 ケイトさんがオレ達の話を聞いて、「片手剣は左側の壁近く、弓はそのちょっと後ろに居るぞ」とチートなアドバイスをくれたので、オレが先行して走り、ゴブリンアーチャーを担当、追従するユーシンが片手剣ゴブリン。走るのは通路の左端と決めた。


 二十メートルだと全力で走って三秒くらいだ。今は防具や武器があるから、四秒弱だろう。ゴブリンアーチャーがその前に居る片手剣ゴブリンに視界を遮られていれば、オレ達に気付いて弓を放つ前に、オレの木刀の間合いに入って、ゴブリンアーチャーを攻撃出来ると思う。


 ユーシンと視線を交わし、頷き合った後、オレは木刀を左手、腰のあたりの位置に持って走り出した。通路の角を曲がると片手剣ゴブリンが居るのが見えた。


 こっちを見ていない。その後ろに居るはずのゴブリンアーチャーはまだよく見えない。


 すると、弱い光がオレ達の頭の上を追い越して行き、通路の先ゴブリンの居る辺りの明るさが若干増した。王子が光の球をゴブリンの上に配置してくれたようだ。


 走ってさらに近づくと片手剣ゴブリンが突っ込むオレに気付いて、ぐぎゃっと叫んで、オレに正対して剣を構えようとしている。その声に後ろに居るゴブリンアーチャーも振り返りつつあった。


 オレは片手剣ゴブリンを避けるように通路の右側へと動く、横目で片手剣ゴブリンの目線がオレを追っているのを確認しつつ、後方に居るゴブリンアーチャーへと駆け寄った。


 ゴブリンアーチャーはつがえた※矢を引き絞ろうとしている。だが遅い。


 走りながらだと突きを繰り出すのは無理そうなので、オレは右手で木刀の柄を掴み、沈み込んでそこから伸び上がるように、下段から抜き付け※た。


 弓の下をくぐってゴブリンアーチャーの胴に攻撃が入った。


 そこで立ち止まって、もう一撃と木刀を振りかぶったが、ゴブリンアーチャーは前のめりに倒れて、そのまま消えようとしている。


 片手剣ゴブリンはオレに気を取られて、後ろから突然現れたユーシンに対応出来なかったらしい。ユーシンのスラッシュ攻撃に片手剣ゴブリンは消え、ドロップアイテムである魔石が床に落ちた。


 そうそう魔石だ。と、オレも魔石を床に探すと、ゴブリンアーチャーの魔石が床に落ちていた。ワイバーンの魔石とは比べるべくもない代物だけれど、大事な収入源だ。


 同じように魔石を拾うユーシンと笑顔を交わす。


 それから、王子が倒した三匹分の魔石を二人で探した。


 そんなことをしていると、王子とケイトさんがやって来て、ケイトさんが「ハクブンなんださっきの技は?」と聞いてきた。


 王子に三つの魔石とオレとユーシンの倒したゴブリンの魔石を渡して、光の魔法のフォローのお礼を言った後、

「走りながらだと突きが出せそうになかったので、居合いみたいな感じで木刀を抜いてそのまま攻撃してみました」と答えた。


 ケイトさんは、「居合いって前にハクブンが言ってたヤツだな? 木刀でも出来るのか?」と重ねて聞いてくる。


 王子とユーシンと今のゴブリン討伐について話をしたいのに……と思いながら、

 居合いは、剣道ではなく剣術で、刀を鞘に収めた状態から抜きつつ斬る、そして鞘に刀を収める。を一瞬で行う術なので、ケイトさんが言う通り、オレが使ったのは木刀だし、居合いの「居」は「居る」の意味で、普通は座った状態とか立っている静止状態で行うものなので、走りながらというのはちょっと違うとは思いますが、動作として居合いっぽい動きをした感じです。


 居合いについては、このダンジョンの調査を西の王国の騎士たちと行っている片桐君――以前話したオレの知り合い――に聞けば、詳しく説明してくれると思います。と答えた。


 ケイトさんは「居合いかあ、ちょっと良いなあ。でも近衛騎士連中と一緒なのがなあ……」と呟いていた。


「矢をつがえる」は弓のつるに矢の尾部、U字型等の切れ込みが入っている「矢筈やはず」をあてがう動作です。ついでに書くと「矢尻(もしくは鏃)」はこの矢筈のある逆側の一端、突き刺さる部分になります。


「抜き付け」は居合いでは、刀を抜く動作が切りつける動作に繋がった「抜き打ち」の初撃で、目標物を切ることよりも、刀を抜いて振り抜くことを主目的としたものらしいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 鉄道も自動二輪もない様子で、マジックバックも庶民の食料流通に使えるコストじゃなさそうなのに 果物の輸入が商売として成立してる…「輸入」が他領から購入という意味で生産地が近いのか、 地球…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ