第三十八話 宿場町まで
翌朝、屋台で朝食を食べた後、冒険者ギルドの前でサイエンさん達と合流した。今日は揚げパンを千切ったトッピングが乗っている中華粥のようなスープだ。
蒸し鶏を割いたものが入っていて、あっさりした味だけど美味しかった。
オレとユーシンは昨日新調した鎧装備、オレは木刀にガントレット装備、ユーシンは片手剣と盾、そして脛当てと帽子の一式装備で、いつでも戦闘可能な完全武装状態である。
ケイトさんも居るし、サイエンさんたちのパーティーも同道してくれるけれど、何しろ金貨五百枚(五千万円相当)分の商品の輸送任務なのだから、念には念を入れて、万全を期すことにしたのだ。
いつもと勝手が違って、ちょっと動き辛いけれど、ケイトさん曰く、まあ慣れだな。とのことだ。
王子とケイトさんは鎧なしの肩掛けカバン装備なので、護衛の冒険者と旅の一行。といった感じだ。
それに対して、サイエンさんたちは、皆、狩りの時と同じく武装した冒険者装備で、全員がリュックを背負っていた。
オウルさんのリュックは以前見たものよりも大きく、頭くらいまである巨大なもので、そのリュックに大盾を括り付けていた。
第一声はベルさんで、「私達、Eランクに昇格したのよ」と嬉しそうに言って、首から掛けていた冒険者プレートを指で叩いた。
見るとオレたちの鈍色のものとは、ちょっと色が違っていて、銀色に近い灰色だ。
ギルド長の話では、Fランクでも上位は一人前の冒険者扱いのようだったから、そこから飛び抜けて、冒険者ギルドのお墨付き、優秀な一人前の冒険者認定になるらしい。
討伐などの実績が重視され、素行なんかも要注意、特に昇格試験などはないとのことだったが、四人共に誇らしげだ。
サイエンさんがオレを見て「ギルド長のフラド叔父さんから話は聞いたぜ」と言って、にやりと笑った。その笑い方を見るに、どうやらオレのマジックバッグのことのようだ。
「四人で冒険者ギルドと守秘契約をしたからな。それにしてもハクブンとユーシンは、ちょっと見ない間に一端の冒険者らしく、随分と格好良くなったな」
そう言われて、ユーシンが満面の笑顔になっている。
そして、オレの固い笑顔からその緊張を感じ取ったのか、「ダンジョン都市までの道行きでは魔物も出ないし、盗賊なんかも居ないから、そんなに緊張しなくても大丈夫だぞ」との言葉を掛けられた。
そこでケイトさんが進み出て「三人が世話になったようだな。私はケイト、立場的にはダイゴさまの護衛、ユーシンとハクブンの師匠になる。よろしくな」と自己紹介をした。
ケイトさんは師匠だったのか……随分と無茶をする、酷い師匠に師事してしまった。と、オレは思ったのだけれど、顔には出さなかった。
ケイトさんが「ちょっと剣術を嗜んでいてな……」などと、また誤解を生みそうなことを言っていたので、「西の王国の剣術指南役だそうですよ」とサイエンさんたちに補足説明をすると、師匠に睨まれてしまった。
そこでオウルさんが、「西の王国の、女性の剣術指南役というと、傀儡魔法を使うという稀代の剣士、『傀儡のケイト』さんじゃないですか」と、驚いたように言った。
何しろメイド服の上にパーカーを着て、剣も持ってないから、ぱっと見、ちょっと不思議な存在でしかない。
ケイトさんが、ふふんと笑い、
「よく知っているな。この街のギルド長は、ものを知らん奴でな、ちょっと揉んでやったわ」などと言って、かかかと笑っている。
それはちょっとギルド長が可哀相だと思う。
サイエンさんはギルド長から話を聞いていたらしく、指で顔を掻きながら苦笑いをしていた。
ジョウンさんもケイトさんの名前を知っていたらしく、「確か魔法の糸で自分の身体を強化したり、スキルの習得をサポート出来るんですよね?」とケイトさんに話し掛けている。
その言葉に鷹揚に頷いたケイトさんが、ジョウンさんに、「それから、他に何か噂はないのか?」と噂話の続きを急かしている。
ジョウンさんが戸惑いつつ、「ええと確か美人で、すごく美人だと聞いています」と言っていた。
その顔を見るに、他にも何かありそうだが、ケイトさんはうんうんと上機嫌に頷いていた。
これは後でこっそりジョウンさんに聞かねばな。と思った。
そんな話をしているうちに、いつの間にか王子の肩にはシニフィエが居た。
ベルさんがシニフィエに気付いて、首を傾げていたけれど、シニフィエも同じように首を傾げて見せている。それからシニフィエがオレのほうを見て、嘴を二回開いた。
どうやら紹介しろという督促のようだ。
そこで、ダイゴが初級魔法を使えるようになったこと、肩に居る青い鳥は風の精霊シニフィエで、ダイゴの盟友です。とベルさんたちに紹介した。
オレの言葉に「精霊様なのか……」と、四人は驚いていたけれど、ベルさんは王子が魔法を使えるようになったことを我が事のように喜んでいた。
いつもは饒舌なシニフィエだが、人見知りなのか、今日は一言も喋ることなく、そのままふっと消えてしまった。
その後オレはカバンをぽんと叩いて、サイエンさん達に荷物入れますよ。と言ったのだが、大した荷物じゃないからいいよ。と言われてしまった。
そこでサイエンさんが思い出したように、
「そう言えば時間停止、もしくは遅延って話だよな。それならば食事か……今日の昼飯と明日の分をお願いするか」そう言ってきたので、笑顔で了承した。
そんなわけで屋台での買い物に付き合ったのだが、サイエンさん達四人は、屋台の前で真剣に話し合っている。
オレが「温かいものは温かいまま食べられるから、饅頭とかスープなんかがお勧めですよ」と言うと、
「饅頭と言えば彼処だな」と言って、オレ達がいつも買っている屋台へと行き、「肉饅頭と野菜饅頭をあるだけ売ってくれ」との注文をして、大量購入していた。
ノートに記載されたサイエンさんパーティーの預かり食料は、肉饅頭二十個、野菜饅頭十個である。
オウルさんとベルさんは食いしん坊のようだ。
「もう充分だろ?」というサイエンさんの言葉に耳を貸すことなく、
「次は肉串とサンドイッチ、それとシチューは外せないな」とか、
「やっぱりお八つも必要よね?」などと二人で話している。
ジョウンさんは呆れ顔だ。話を聞くと、いつものことらしい。
その後、屋台での買い物が終わり、サイエンさんから一泊二日の山越えの旅程であることを改めて説明され、今日は宿場町まで行くぞ。と言われた。
山越えは一時間くらいで、難所という程の場所はないとのことだ。
そうして八人で出発した。街道は良く整備されていて、馬車がすれ違えるくらいの幅がある、黄色っぽいレンガ作りの平坦な道だ。周囲よりもちょっと小高くて、水はけも良さそうだった。
ベルさんによると魔法、土魔法で作られた道だそうだ。
あと、街道には五十センチくらいの石柱が立っていて、里程標で、五キロ毎にあって旅の目印になるのよ。と教えてくれた。
そんなベルさんに今回のダンジョン都市への旅について聞くと、サイエンさんたちのパーティーもEランク昇格を機に、ダンジョンに挑戦することに決めたそうだ。
まずは初心者向けダンジョンに行ってみて、その後ダンジョン都市のダンジョンに挑戦する予定らしい。
そう言えば、サイエンさんたちはパーティー名は考え中という話だったと思い出し、
「パーティー名って決まったんですか?」と聞いたところ、「早く決めちゃいたいんだけど、四人の意見がばらばらで、まだ未定」とのことだった。
途中で大荷物を積んだロバを連れて歩いている人や、旅人一行などに声を掛けて追い越しつつ、順調に街道を進んだ。
オウルさんが「やっぱりこんな時の声掛けには、パーティー名があったほうが様になるよな」と言っていて、サイエンさん達も同意していた。
お昼になり、街道脇の小高い丘でサイエンさんたちに勧められて肉饅頭を貰って食べた後、三時頃、山越えショートカットの脇道に入った。
ここから山と山の間、鞍部を抜けて、また街道に合流して、すぐに宿場町があるとのことだ。サイエンさんから、山の中なので平地よりも暗くなるのが早いから注意された。
獣道のような道は結構な急斜面があったりして、手を使う程ではないけれど、登るのも一苦労だ。
王子とケイトさんは余裕そうだったけれど、途中でユーシンに声を掛けて、片手剣と盾をマジックバッグに収納して山道を登った。
ジョウンさんに、山道は下りのほうが大変なんだぞ。と言われたので、詳しく聞いてみると、呼吸は楽になるけれど、膝への負担も大きいし、下りにはテクニックが必要らしい。
まずは前を歩く人が、どこに足を置いて歩くのかをしっかりと見て、その真似をするのが良いと言われた。
そんな話を聞きつつ、山の中腹まで登り、下り道になるところで小休止して、いよいよ下りだ。
一番手はジョウンさんで、オレはその後に続いた。
ジョウンさんは、ぽんぽんとリズム良く軽い足取りで、枯れ谷のような所を下って行く、その後を真似をしながら足を運ぶと、確かに歩き易い。
そこでジョウンさんが、ハクブン、先行してみるか? と言ってきたので挑戦したが、状況を見て、どこに一歩を踏み出して、次の一歩のことを考えながら歩くのは、結構頭を使う。
トレイルランニングの下りバージョンは、速度が出る分、その勢いを殺さずに効率的に歩くために、素早く判断する必要があるのだ。
ジョウンさんのようにリズム良く歩くのはとても難しい。
それでもと、頑張っていたのだが、いつの間にか現れたシニフィエからまた「へっぴり」の声がして、笑いを噛み殺しているジョウンさんに交代して貰った。
そんな感じで街道に合流して宿場町まで歩いた。まだ四時前だけど、早くも太陽は山裾に隠れてしまっていて、辺りは急速に薄暗くなりつつあった。
宿場町は二軒の宿屋と雑貨屋、五、六棟の家屋があるだけの小さな集落で、宿屋のうちの一軒に皆で泊まることなった。料金は朝食と夕食付きで一人銀貨八枚(八千円相当)。男女別の大部屋である。
オレ達が案内された二階の大部屋には誰もおらず、貸し切り状態で、宿の人から盥にお湯を貰って身体を拭いた後、食事となった。
宿の夕食は大鍋で作られたクリームシチューで、各自が好きなだけ、よそって食べるスタイルだったので、ユーシンとベルさん、オウルさんは大喜びしている。
オウルさん曰く、骨付きの肉はウサギ肉らしい。その他ニンジンやジャガイモ、多分カブなんかも入っていた。肉よりは野菜、特にカブっぽい野菜が美味しく感じられた。
同じように大皿で提供された丸パンは、スライスすると中が白じゃあなくて薄い灰茶色で、小麦粉の他にそば粉も入っているパンとのことだ。
ふわふわじゃあないし甘くもないけれど、バターを塗って食べると、すごく美味しかった。
ケイトさんは、サイエンさんたち四人とワインを飲むとのことで、王子とユーシンの二人と先に大部屋に戻り、トランプでもあれば良かったなあと思いつつ、早めに就寝した。




