第二十二話 ギルド長の話
翌朝、冒険者ギルドに行った。もちろん八時の時間厳守だ。ちょっと早めにギルドに着いた。
その後、二階のギルド長室へと案内されてソファに座らされると、ギルド長がダイゴとハクブンとユーシンの三人は西の王国の避難民だよな。例の王宮襲撃事件についてなんだが、一応確度の高い情報がまとまったんで、報告つーか知らせておく。と言って話し始めた。
ギルド長の話では、西の王国の国王が魔王軍の襲撃で重傷を負い、ポーションでの治療はしたものの、完治までには時間が掛かりそうな為、皇太子が暫定的に王位にあるらしいということだ。
この魔王軍の王宮襲撃は、西の王国が勇者召喚の儀式を行ったことに端を発していて、召喚された勇者数名と、その場に居合わせた王族が誘拐されてしまったらしい。
もともと厭戦派だったらしい皇太子は、魔王国との全面戦争には突入せず、国境付近で両国の軍隊が対峙してはいるものの、外交交渉が行われているらしいとのことである。
噂でしかないが、西の王国の勇者召喚自体が、魔王軍との戦争のためだったんじゃねえか。って話が上の方では出ているな。なんで外交交渉は、誘拐された勇者や王族の返還の代わりに、不可侵条約みたいなモンを締結しようって話なのかもな。とギルド長が続けて言った。
で、西の王国が行ったとされている勇者召喚なんだが、古いお伽噺では異世界から渡海してくると、常人離れしたすげえスキルがあったりとか、隠れた才能が開花するなんて話があるようだが、実際のところは分からねえ。
西の王国自体は非常に歴史のある国だから、もしかすると本当に勇者のような力を持つ人間を、こっちの世界に召喚するのに成功したのかも知れねえ。と言って、にやりと笑ってオレと王子を見た。
どうも、オレと王子が関係者だと思っているような口ぶりだ。
そのお伽噺じゃあ、勇者たちのスキルを魔道具で鑑定しようとしたが、文字化けしていて確認出来なかった。しかし勇者の一人が人物鑑定が出来るスキル持ちだったことから、スキルが判明したと書いてある。
まあ、魔道具による鑑定についちゃあ、魔法が使えるかどうか程度ならば教会でも出来るんだが、鑑定料がバカ高い、確か金貨十枚だったか……。
しかもそれで分かるのは、普通は魔法行使が可能な魔力があるのか? とか、どんな属性の魔法が向いているのか、くらいなもんだ。
ほとんどの人間は魔法なんて使えないから、魔法に興味を持っても、せいぜい魔法習得のための入門書のようなものを読んで試してみる程度で、よっぽどの金持ちでもなければ、教会で鑑定しようなんて思わねえけどな。と釘を刺すようなことまで言った。
うん、これは色々怪しまれているんだろうな。とオレは思った。
しかし誘拐か……西の王国の召喚自体も、誘拐と同じような問答無用なものだったし、戦争回避のために動いたのなら、魔王軍が悪だとは決め付けられない。このあたりは王子に聞く方が良さそうだ。と思っていると、ギルド長が話を続けた。
相互不可侵条約が締結されるとなれば、戦争にはならねえ。そうなると勇者たちは不要になっちまうわけだが、そもそも西の王国と魔王国との諍いの原因は領土問題だからな。
元々は別の人族の国があったんだが、五百年ほど前に魔王国の属国化して、そこからは西の王国がちょっかいを掛けたりして、紛争地帯みたいになっちまってる。
ここ百年は丁度半分くらいが魔王国、もう半分が西の王国の領土ってことで国境が定めらられているんだが、このまま落ち着いてくれるのか? ちょっと読めねえ。
確度が高いって言っても、よその国の、しかも王宮内のことだ。どうしても憶測がメインになっちまうが、この国の上の方はそう考えている。なんでここで聞いたことは、他の奴らには話すなよ。とのことだ。
その後、ギルド長から何か聞きたいことはあるか? と聞かれた。
ここで実は関係者です。などと言うわけにもいかないので、オレは予め質問を書き出しておいたノート見て、ギルド長に聞くべき事を確認してから質問をした。
無詠唱魔法について聞くと、ギルド長は「てことはダイゴか」と言って王子を見て、聞いたことがある。と言った。
但し、無詠唱ってわけじゃねえ。魔法の発動句は絶対に必要なもののはずだから、精霊魔法って言われている魔法の話だ。
現役の冒険者だった頃、変わり者のエルフとパーティーを組んでいたことがあって、そいつがエルフでも珍しい水の精霊魔法の遣い手だった。
ヤツが言うには精霊魔法ってやつは、普通の魔法じゃあねえようで、発動句を必要としない。術者の思いに応じて精霊が魔法を行使するってことらしい。
おそらく精霊が言葉を発して魔法を行使しているんだろうが、精霊の言葉はオレ達には聞こえねえから、無詠唱で魔法を使ったように見えるんだろう。と言った。
そこで、ギルド長に精霊魔法を習得するための、本のようなものや手段はありますか? と聞く。
本か……精霊魔法ってヤツは、使える人間がほぼ居ない。あったとしてもエルフ語だろうし、出版されるようなことがねえ私家版だろう。
一応ヤツに聞いてはみるが、期待はすんな。とのことだ。
そしてもう一つの質問。
訓練用の剣が高いけれど、何か良い手はないかと聞くと、本物の剣と同じようなバランス、同じような重さで頑丈に作ってあるから安いってことはねえな。
折角訓練するんなら、本番でも有効な訓練じゃなきゃ、やらねえほうがマシかも知れねえぞ。
Fランクに上がれば、カネは掛かるが、ギルドの訓練場での訓練に参加出来るから、訓練用の木剣をわざわざ買うヤツは少ない。
訓練に参加してから買うかどうかの判断をしても遅くはないと思うが、それよりも早くスキルの習得を目指すんなら、訓練への参加は無理だが、ギルドの練習用の木剣を振り回してみて、しっくり来るようなのと同じものを買うのをオレは勧めるがね。と言ってにやりと笑った。
そんな話を聞いているうちに、一時間も経ってしまったようだ。九時を知らせる鐘がふたつ鳴る音が聞こえた。
それを聞いてギルド長が、まあそんなとこか。と話を切り上げた。
オレ達はギルド長に情報のお礼を言って、ギルド長の部屋を後にした。
ユーシンはギルド長の言葉に従って、ギルドにある訓練用の木剣を色々試してみたいとのことだ。
オレはギルド長の話から王子に聞きたいことが増えたし、明日から泊まることになる宿屋の予約もしたいので、今日の薬草採取は中止にしようと話して、二人の了承を得た。
王子がユーシンに、お昼の購入代金となる大銅貨六枚(六百円相当)を冒険用の共用財布から渡してから、王子と二人避難所へと帰った。
ギルド長の話では、クラスメイトが誘拐されてしまっているらしい。
誘拐するぐらいだから、おそらくその価値があると魔王国は考えたのだろう。
しかしそれが勇者としての力を持っているからなのか? それとも西の王国がそう考えているだけで、実際にはそんな力などないのかは分からない。
そして誘拐されてしまったのは、全員ではないようだけれど、一体誰が誘拐されてしまったのかも気になる。
オレにも何かチートと呼べるようなスキルや才能があるのか? それとも勇者の話はお伽噺でしかなくて、単にマジックバッグを持つだけの一般人に過ぎないのか? クラスメイトの中に人物鑑定が出来るスキルを持つ人間がいなければ、そのあたりのことは確認が難しいようだ。
避難所で王子とカードでの会話をし、ギルド長の話を確認したところ、概ね正しいとのことだった。
魔王国と言っても、魔族が作った国というだけで、悪の王国というわけでもないようだ。
そして皇太子ならば、戦争にはならないだろうとのことだ。これについては自信があるようで、強く頷いていた。
そして異世界勇者の召喚については、詳しくは教えて貰っていないものの、国王が周囲の反対を押し切って、確かに勇者となるべき人間を召喚したとのことである。
また、自分が交渉材料にされてしまっている可能性が高い為、皇太子の側近の人に手紙で無事を知らせる。とのことだが、今まで作った王子カードでは全然言葉が足りない。
ギルド長から言われたことをオレが一度書きだして、その同じ面にこっちの言葉を併記した新王子カードを作って、王子に質問をしながら確認していく作業となった為、以上のことを知るのに、夕食までの午後のほとんどの時間を使ってしまった。
因みに文章を作る文字カードは、右からだとオレが、左からだと王子が混乱してしまった為、縦置きで上から読んでいくことになった。
クラスメイトの安否についての確認も、一緒にしてくれるとのことだ。
夕食前にユーシンが、にこにこしながら帰って来た。手には訓練用の木剣がある。新品のほうを買ったらしい。
「確かに高いけれど、皆で使えると考えれば、値段なんて三分の一だよ」とユーシンが笑って言った。
ユーシンの太っ腹発言に、王子と二人で拍手すると、ユーシンが照れていた。
そんなユーシンに明日から三人で「青鹿亭」に泊まる予約が出来たことを話す。
そして、オレ達のこれからのことだが、これ以上ギルド長に怪しまれない為には、薬草採取はオレが一人でマジックバッグを使って行い、王子は無詠唱魔法、もしくはギルド長が言った精霊魔法の習得、ユーシンは剣術スキルの習得に向けて鍛錬をして貰ったほうが、色々と都合が良いはずだ。
二人にそう話すと最初は渋っていたけれど、マジックバッグを使えるのがオレ一人だし、これまでと違って簡単な作業なんだから、と説得した。
避難所暮らしも今日で終わりだ。明日からは宿屋での生活が始まる。おばちゃんたちによると、明日の朝食が避難所最後の食事になるとのことだ。
今日のスープは茶色だ。ビーフシチューのような味で、肉がホロホロとやわらかくて、とても美味しい。食事については本当に名残り惜しい。明日からの食事が、ちょっと心配になる。




