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第二話 隠し通路

 脱出口に入り二メートルくらいい進むと狭い小部屋に出た。


 少年が壁に掛けてあったランプを手に取ると明かりが点き、前方に石造りの階段がカーブをえがいて下へと続いているのが見える。


 少年はこっちを見てうなずき、明かりを手に階段を降りてゆく。


 オレも同じようにランプを壁から外し、続いて階段を降り始める。

 ランプはLEDライトのような峻烈しゅんれつな明るさはないが、歩く先の足下を見るのには不自由しないオレンジ色っぽい柔らかな光を発している。


 二人でどんどん階段を降りる。


 右回りに、螺旋状らせんじょうに続いている下り階段を十分くらいは下っていると思うのだが、いまだ終わりが見えない。

 前を行く少年は歩調を変えず、確かな足取りで階段を降りてゆく。


 と、少年が階段の途中で止まり、オレのほうを振り返って手の平をこちらに向け、止まるようにという意図らしき合図をする。


 オレが立ち止まると、少年は頷き、それからランプを階段の内壁側に近づけて何かを探すような素振そぶりをする。


 そして腰に付けた短剣をさやから抜くと、ゆっくりと壁に押し込んでいく。短剣は根元まで刺さり、カチリと音がした。


 少年は短剣を壁から抜き鞘へと戻すと こっちを見て頷いた。


 近づいて手元のランプをかざして見ると、壁の何カ所にナイフが入りそうな隙間が開いている。

 隠し通路の仕掛けのようだ。


 また歩き出す。後を追ってしばらく歩くと、ようやく階段の行き止まりに辿たどり着いた。

 少年はさっきと同じように壁に明かりを向けて、仕掛けを探している。


 そして同じように短剣を差し入れると、今度は横の石壁が音もなく消えて横道が現われた。


 いかにもな仕掛けに驚いていると、少年はこっちを見て頷く。


 二人で横道に入る。入って三メートルくらい進んだ所の壁の一部がぼんやりと光っていて、少年がそれに手を当てると、その光が消えた。


 それから後ろを見る。

 見ると、さっき通ってきた横道への入り口は消えて、壁が出来ている。追っ手対策の仕掛けのようだ。


 少年はまた頷くと歩き出した。先程よりも心なしか軽い足取りだ。



 その後、直線の横道を一時間ほどは歩いただろうか? 鉄の梯子はしごがある突き当たりに辿たどり着いた。


 今度は上、のようだ。


 上を見上げて、少し心細こころぼそそうな顔をしつつ、意を決して登ろうとしている少年を見て、ふと、上が安全なのかどうかは、実際に登ってみなければ分からないのだろうとオレは気付き、少年の腕をつかんで引き留めた。


 今こそオレの出番じゃないか。


 いぶかしげな顔をする少年に手振りを加えながら「この先仕掛けがないなら、オレが先に登ります。安全が確認出来たら上からランプを丸を描くように回しますので、それを合図に登って来てください」


 そう言うと、少年は渋々ながらも頷き、かんぬきを横にずらす仕草と頭の上にあるふたを上げるような仕草をする。


 オレはそれに頷き返し、閂を横にずらす仕草、続いて頭上にある蓋を持ち上げる仕草を真似してみせると、少年は強く頷いた。


 片手にランプを持ちながらゆっくりと鉄梯子を登る。

 七、八メートルくらい登ったところで鉄梯子の間隔がわずかに狭くなった。そこでランプを持った手を差し上げて、上の様子をうかがうと、少し先で鉄梯子が終わり、扉があるのが見えた。


 上まで登る。閂の場所を確認して、動作に邪魔になりそうなランプを梯子に引っ掛ける。

 それから閂の横木をずらし、頭で蓋を押し上げて隙間を作り、外の様子を探った。


 真っ暗だ。何かが動くような気配もないし、何の音も聞こえない。意を決して手で蓋を押し上げると、立った状態で止まったので、外へと這い出る。


 その場所は石造りの壁に囲まれた小部屋のようだった。


 腹ばいになって鉄梯子に引っ掛けていたランプを取り、明かりをかざして部屋の様子を確認する。部屋は五メートル四方くらい。その一辺に上へと続く石の階段があるだけで、他には何もない。


 そこで下で待機している少年にランプで合図を送った。


 少年もランプで円を描き、それから梯子を登り始めた。


 おそらくはこの場所は、危急の際に王族などを城から逃がすための隠し通路の終着点なのだろう。


 横道を歩いた時間を考えると、王城から四、五キロは離れているはずだ。五キロといえば結構な距離だ。つまり此処ここはおそらく王都の外、郊外の建物の地下室なんだろうと思う。


 豪華な服を身につけ、子供なのに召喚儀式の場に居合わせて、更には隠し通路のことを知悉ちしつしている。

 おそらく少年は王族の一員であり、これまでのやり取りから、何らかの理由で喋れないらしい。

 そして混乱の中とはいえ、一人だけで行動していたことも気になる。


 断片的に聞いた広間での会話、魔王軍が王宮を攻撃して来たという話が本当のことならば、建物を出ても安全とは言えないだろう。避難するにしても何処どこに逃げるのが正解なのか?


 果たして安全に避難出来るのだろうか?


 そんなことを考えていると少年(たぶん王子)が、下からぴょこんと顔を出した。


 手を差し出すと笑顔になって握り返してきたので引っ張り上げる。

 王子は服のほこりを払って頷く。ここまでは順調なようだ。


 王子の先導で階段を上がり、扉の閂を外して上階の小部屋に出る。縦長の細い窓から月明かりが差し込んでいる。かなり大きな邸宅のようだ。廊下を抜けて調理場のような場所を通り、裏口らしき所から外へと出た。


 乾いた夜気が肌に心地よい。取りあえずの脱出成功にほっと一息つくが、王子が右手のほうをうかがうように見ているのに釣られると、夜空が赤く染まっているのが見えた。


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