第十四話 南の森
三人揃って冒険者ギルドを出て、お昼ご飯の屋台を物色し、ユーシンお薦めの肉串屋で肉串を購入することになった。ユーシンが言うには、ちょっと肉が大きいらしい。
オレはお昼代を王子さまに、また借りた。忘れないようにノートに記載。昼肉串大銅貨六枚、ちょっと高い。
そして肉串を買い食べながら、これから事前調査のために、薬草採取をする南の森まで行ってみようという話になった。
歩いて片道二時間ならば、行って帰って来ても、夕方には戻れるはずだ。
三人共カバン装備なので、このまま南の森まで行っても問題はなさそうだ。
そこで井戸へと行き、革袋の水を替えてから、いざ南の森の薬草群生地を目指すことにした。
南側の門へ行くと、西門よりも小さくて、大きさで言えば半分くらいしかない。
その代わりに高い櫓があった。
そして西門と同じように、門の前には槍で武装した兵士の人が二人立っていた。オレ達を見ると、冒険者プレートの大きさに気付いたのか、「薬草だな。気をつけてな」と声を掛けてくれた。
オレとユーシンが「はい」と答え、三人で軽くお辞儀をして門を抜ける。
地図には道がなかったけれど、土の地面が剥き出しになっていて、道らしきものがあった。真っ直ぐ南のほうへと続いているようだ。
王子が真ん中、その両端にオレとユーシンで、その道らしきものを歩いて行く。
木は、ほとんど生えていなくて、草原だ。空が高い。
そうして歩いていくうちに、道らしきものは段々と広がっていき、それと共に薄くなって、これから三十分も歩かないうちに、消えてしまった。
後ろを振り返ると、街はもう見えない。
何か南の方角と、帰りの北の方角の目印になるものがあったほうが良さそうだ。今なら太陽でもいいけど、曇ってしまえば分からなくなってしまう。
周囲を見回すと左手側、南東のほうにある山脈のなかに、一際大きい双子の山があった。オレは王子とユーシンに「方角はあの双子山を目印にしようよ」と声を掛けた。
街から一時間ばかり歩いたところで、二人に声を掛けて小休止した。座って革水筒の水を飲んで空を見上げる。まだまだ日は高い。
ユーシンが「ハクブン、ギルド長はゴブリンからは逃げろと言ってたけど、出くわしたら、やっつけるよね?」と聞いてきた。
オレはちょっと考えて、「確かにゴブリンは強そうじゃなかったけど、オレもダイゴも不意打ちだったからね。ダイゴも短剣しか持ってないし、オレは武器すらないからね。真正面から戦うとなると、ちょっと怖いような気がする」と言うと、王子も頷く。
「まあ慣れ、みたいなものもあるかもだけど、ギルド長のおっさんが逃げたほうが良いというのならば、基本方針としては逃げることにしてみないか?」とユーシンに言う。
ユーシンは、手にしたゴブリン棒を振り回しつつ、「えー」と不満そうだが、一応は納得してくれたみたいだ。
それからまた三人で歩き出した。木々が増えてきたが、双子山の青い嶺は、相変わらず左斜め前方に見えている。
そうしてまた一時間ばかり歩くと、周りの草よりも高く生えている薬草の群生地に到着した。
それは森の木々のなかに、緑色の池のように、ぽっかりと存在していた。
近づいて見ると、例のトゲトゲ草である。茎にも薔薇のトゲのような太さではないが、細いトゲがびっしりと付いている。
結構高さに差があって、膝ぐらいの高さの一群もあれば、お腹の下くらいまでの高さのものが密集して生えているような所もある。
背の高いほうは茎も太く、両手で頑張っても、簡単には抜けそうにない。
すると王子が、膝くらいの高さのトゲトゲ草の所へとスタスタと歩いて行って、そこで膝を折って、ノートの絵と見比べている。
そして、両手で根元のほうの茎を掴むと、抜こうと引っ張る。
しかし一回で抜けることはなく、その後三回程引っ張っると、茎の部分で切れてしまったようだ。
ユーシンと、そんな王子の様子を見に行くと、王子はトゲトゲ草を放りだし、両手の手の平を上にして、赤いひっかき傷が何カ所にも出来た、その手を見せてきた。
王子の表情からも分かるように、強敵らしい。
それからオレとユーシンも同じように引っこ抜こうとした結果、やはり根っ子ごと引っこ抜けることはなく、茎の根元で切れてしまった。そしてオレとユーシンの手の平が王子と同じになった。
そこで王子が短剣をカバンから出して、背の低いほうの薬草の、周囲の土を掘り出した。
土を掻き出しながら十五センチ程掘ると、抜けそうな気配になってきた。オレが茎を持ってちょっと振動を与えながら持ち上げようとすると、スポンと抜けた。
そして抜いたトゲトゲ草の根っ子の土を払い落として見ると、その根っ子には、チューリップの球根を逆さにしたような根っ子の塊、塊茎があって、それが矢尻のような逆三角の形をしていた。
これじゃあ、いくら引っ張っても抜けないわけだ。
ギルド長のおっさんは引っこ抜けと言っていたけど、掘り出すのが正解なんだろうか?
しかし、トゲトゲ草は密生している。端っこのほうから土木作業よろしく、シャベルとかスコップで掘り返していくのが効率が良いのか?
オレが考え込んでいると、王子が移動して、今度はトゲトゲ草の背の高いほうの根元を掘り出したので、その茎を支えてサポートする。
今回はさっきのような十五センチでは駄目で、二十センチくらいでグラグラが大きくなる。そして抜いてみようとすると、簡単に抜けた。根っ子が小さい。逆三角形ではなく、すっとした流線型だ。
そこでユーシンが、背の高いほうを、掘らずにそのまま引っこ抜けないかと試してみると、三回引っ張ったところで根ごと抜けた。尻餅をついたユーシンが引っこ抜けたと喜んでいる。
つまり引っこ抜くのは、この背の高いほうのトゲトゲ草なのか? しかし大きいだけにトゲも大きく、ユーシンは手の平のひっかき傷から、ちょっと出血しているようだ。
ユーシンに手の平を見せて貰ったところ、傷は浅いので問題はなさそうだが、一応皮水筒の水をジャブジャブと掛けて、汚れを落とした。ユーシンは「いててて」と顔を顰めている。ちょっと傷に沁みたようだ。
しかし、これは大変な作業になりそうだ。
オレも挑戦してみたが、茎のトゲが痛いし、葉もギザギザしていて、屈んだ顔に刺さりそうになる。
上着の袖を引っ張ってその下から掴むようにもしてみたのだけれど、鋭いトゲが上着のゴワゴワした生地すらも突き抜けてくる。
薬草の根元に水を撒いたりしてみたが、あまり効果がないようで、ユーシンよりも二回ほど多く引っ張って、やっと抜けた。
取りあえずギルドで確認するために、王子が掘り出した、背の低いものと高いものの二本と、オレとユーシンが引っこ抜いた背の高い二本を持ち帰ることにして、ユーシンのバックパックに入れて貰った。
双子山を今度は右手後方に見ながら、三人で街へと帰る。ヒリヒリと疼く両手を意識しつつ、オレはどうしたものだかと考えるが、良いアイデアは出てこない。王子も考え込んでいるようだ。
夕方、ギルドに行って、ギルドの納品窓口に並んで話を聞くと、背の高いほうでも、低いほうでもどちらでも構わないが、薬草の納品は本数ではなく重さになるので、普通は背の高いほうが納品されるらしい。
「こんな感じだよ」とギルドに納品された薬草の束を見せてくれた。
それは背の高い方の薬草を紐で束ねたもので、両手で一抱えくらいあった。片手で持つのは厳しそうな量だ。買い取り額は、その量で銀貨一枚(千円相当)とのことだ。
うーん、重さになるのか、そうなると背の低いほうのスコップ作戦も微妙だ。
背の高いほうのトゲトゲ草を抜くために、二十センチ掘るよりも引っこ抜いたほうが断然早い。
つまり引っこ抜くが正解なのだ。
なので手は、大変なことになる。と言うことで間違いがなかった。
因みに買い取りは一抱えくらいが必要で、オレ達の採取してきた薬草では量が少なすぎるとNGだったので、ギルドで引き取って貰うことにした。
明日からのそんな作業に、少しばかり憂鬱になりつつ、避難所に戻ると、ちょっと遅かったせいか手伝いはなかった。おばちゃんたちに遅くなってしまったこと、明日からも夕方の手伝いは出来そうにないことを伝えると、そんなの良いからがんばんなさい。と逆に励まされた。
今日のスープは白。クラムチャウダーのようにアサリのような貝らしきものと、角切りにしたジャガイモイモ?っぽいものが入っていた。書き写した地図には描いて無かったけれど、近くに海とか川があるのかな? と考える。
食べるとやっぱりクラムチャウダーの味だ。イモのほうはちょっと違うのか?噛み応えがある。でも凄く似ていて、とても美味しい。
三人で木の椀を返しに行って、「すごく美味しかったです」とお礼を言うと、おばちゃんからオマケとして、ザクロのような果物を三つ貰った。
ちょっと酸っぱいけど、新しい味だ。
避難所の寝床となっている場所でそれを食べながら、明日の採取のことを王子とユーシンに相談した。
そして、背の高い方のトゲトゲ草を引っこ抜く作戦と決まり、トゲトゲ草を束ねる為の紐と、束ねたものを担ぐための太いロープを買ってから出発しようということになった。




