第十三話 ギルド初心者講習
起きてすぐに冒険者プレートを首から下げて、おばちゃんたちに三人で挨拶をし、水汲みの手伝いをした後、炊き出し処のスープをいただく。
今日のスープには、フランスパンを斜めに切ったものが一枚刺さっていた。初登場だ。
スープの野菜っぽい緑色に、ユーシンも最初は「うへぇ」と顔を顰めていたけれど、鶏肉っぽい淡泊な肉入りで苦みもなく、美味しかった。
パンも、もっちりとした噛み応えがあり、スープによく合う。こっちも美味しい。
昨日、ギルドでサクソンさんに「時間厳守」と釘を刺されたので、木椀を返しに行ったときに、炊き出し処のおばちゃんに「今の時間を知る方法」を聞く。
「鐘だよ。アンタも聞いているだろう。日の出に一つ、それから日中は毎時〇分に一つだ。九時と三時が二つ。お昼は三つが二回だよ」とのこと。
つまり今は六時半とかそんな感じになるらしい。
その後、ちょっと早いが、ギルドの資料室で時間を潰そうと話をして、三人でギルドに向かう。
もうすぐ冒険者ギルド、というところでゴーンと鐘の音が聞こえた。七時だ。
ギルドに入ると今朝も大混雑だ。ギルド長が昨日と同じ受付で、四人組パーティーと面談していた。冒険者志願者かな? ギルド長がこっちを見たので人さし指で二階を指さす。
ギルド長は頷いて冒険者パーティーとの話に戻る。その際ぐっと身体を乗り出したので、冒険者パーティーの人たちが引いている。うんうん、わかりますわかります。
通りすがりのギルドの人に「二階の資料室に行きたいんですが、何か許可のようなものは必要ですか?」と聞くと、「何か本を借りるんじゃなければ、そのまま入って大丈夫よ」とのことだった。
資料室には今日も誰も居ない。
取りあえずテーブルを囲んで椅子に座り、オレと王子が昨日写した、地図を書いたノートを広げて、三人で眺める。
王子が地図の一点を指さすので聞くと、この街のようである。そしてその左側にあるのが王子の国、西の王国になるらしい。太い線が国境のようだ。
地図の下の方、この街の南東と南には街のような印がなくて、大きなスペースが空いている。
東と北には、この街から道となる線が延びていて。街を表すような印があり、一際大きな印が地図の右上の端のほうにある。
王子がノートをめくり、次のページに書いてあった、王子の書いた何か刺刺しい感じがする植物の絵を指さした後、地図のページに戻って、さっきの何もない場所の辺りを丸くなぞった。
たぶんトゲトゲ草が薬草で、それが生えているのが、この街の南の方ってことらしい。そこで確認のためにそう聞くと、王子が頷く。
うーん何だかあまり触りたくないような植物なんだよね……などと考えていると、ギルド長が資料室のドアを開けて、「おい、お前等、隣でやんぞ」と言った。
ノートをカバンに戻して慌てて部屋を出る。
一つ先のドアが開きっぱなしになっていて、覗くと眼鏡を掛けたギルド長が机に座って待っていた。塾の教室のようなこぢんまりした部屋で、長机とベンチ椅子がある。講習に参加するのはオレ達三人だけのようだ。
「よし、そんじゃあ冒険者ギルド初心者講習を始めんぞ。タグは三人共に掛けてるな」とギルド長。
そして図鑑を手に、薬草の話を始めた。
薬草採取は根ごと引っこ抜くものが多いので、手がズタボロになるらしい。
特にメジャーな薬草ほどトゲトゲしくて、慣れないうちはかなりキツい作業だそうだ。
ぼろ切れや軍手も高いし、半日もたずに駄目になる。中上級魔物の手袋でもすれば楽なんだろうが、一カ月薬草を採ったぐらいの稼ぎで買えるようなもんじゃない。金貨で五枚はするとのことだ。
薬用成分があれば、作業で手が傷ついても治ったりとかする上手い話はなく、根っこのほうに薬用成分が多くあり、その根を触っても、傷が治るなんてことは、ないとのことである。残念。
薬草の採れる場所は、――王子に教えて貰った通り――この街の南の森、歩いて二時間程の距離で、ほぼ安全な場所らしい。
薬草は群生してるので探す必要もない。種類とか気する必要はない。こっちで納品時にチェックはするが、まず間違えるようなもんじゃない。
薬草を抜くのにそこそこ力が要る。見掛ける魔物は角ウサギくらいで、森にはイノシシが出るが、わざわざ薬草の生えている場所までは出て来ないらしい。
角ウサギは繁殖期があってだな。今はなんの問題もないが、三月ぐらいはサカりつく。発情期だ。動くものには何であれ襲いかかる。その時期は上級の奴らだって、迷宮探索くらい用心して森に入るんだぜ。とギルド長が注意した。
そんな座学の後、一階のギルドの訓練場に案内された。
ギルド長から鍔の付いた木の剣を渡され、「軽く揉んでやるから掛かってこい」と、にやりと笑うギルド長に三人で伸された。
とにかく動きが速いのだ。オレやユーシンどころか王子ですらも、呆気なく一撃を貰ってしまった。
そんなことを何度か繰り返して、その後ポーションを飲ませてもらう。ポーションは薄緑色で、小瓶に入っていた。ちょっと苦いが一気に飲む。
そのポーションを飲んだ瞬間、身体の痛みが消えた。
「どうだ。よく効くだろう。お前等が明日から取ってくる薬草は、このポーションの原料になるんだぜ」とギルド長が、凄みのある笑顔で言う。
森での注意点として、南の森で出くわすことはまずないが、モンスターでも野生動物でも、角ウサギ以外の何かに出会っちまったら、とにかく逃げろ。とのことである。
ゴブリンは足が遅い。三人で逃げろ。バラけんなよ。奴らはしつこいから全力で逃げずに、二、三キロは走るようなつもりで、後ろを見つつペースを作れ。逃げる方向も間違えんなよ。
イノシシやボア、あ、ボアってーのはイノシシと似ているが魔物だ。こいつらは子連れだとヤバい、絶対に近づくなよ。
スキルがなくレベルが低いうちは、毎日走り込みをして体力をつけろ、これからの生存率が違う。毎朝四、五キロは走れ。などの追加のアドバイスを貰った。
話に出てきたレベルアップとスキルについても教えて貰った。
これから魔物討伐なんかを始めると実感として分かるんだが、魔物を倒すと魔物が貯め込んでいる体内の魔素が空気中に出てくる。その一部が近くに居る人間に吸収される。と言われている。魔素って言っても見えないからな。そうなんだろうという話だ。
人間には魔石がないから、身体の細胞に吸収されるんだろうな。それが一度や二度でなく、何度か回を重ねていくと、ある時身体に力が漲ることがあるわけだ。
ひーこら言って疲労困憊で魔物を倒したはずなのに、いきなり新品だ。しかも以前よりもパワーアップした身体に甦る。それがレベルアップだ。女神の恩恵。とか言われているな。
スキルはだな、剣士だったら戦うスキルと守るスキルってのがある。片手剣なら強打、スラッシュなんかが戦うスキルで、守るほうは受け流し、パリィとかになる。
スキルを習得するには、どうしたら良いのか? と聞くと、
戦いとか鍛錬のなかでぱっと閃くんだよ。この動作でキーワードを唱えながら攻撃すると、スキルが発動するって確信するってのか? これまで探していた正解はこれだって分んだよ。
ただし、スキルが習得出来ても、慣熟しないうちはスキル発動後の硬直時間がある。結構なスキになっちまうから、要注意だ。とのことである。
最後にユーシンの叔父さんのハクシンさんのことを聞いた。
ハクシンか、アイツは今、クランの奴らとダンジョン都市に遠征に行ってると聞いた。大規模遠征で、クランの連中はほとんど参加したはずだ。
この街を出たのが二カ月前くらいだから、多分後三カ月は帰ってこないだろうな。とのことだった。
どうやらユーシンの叔父さんは今も現役冒険者らしい。すぐに会えないのは残念だけど、この街で頑張っていれば会えると分かってユーシンも嬉しそうだ。
そこでお昼の鐘の三つが二回が鳴り出し、ギルド長に三人でお礼を言って講習は修了した。




