第十二話 冒険者登録
二階の小部屋に案内される。部屋には三人掛けのソファと低い机があった。
「私はさっきギルド長に指名されたサクソンよ」と自己紹介される。
背が高くて、怜悧そうな印象を受けた。
あ、オッサンってこのギルドのトップだったんだ……。と思う。
それから、サクソンさんにソファに座るように促されて、その後、記入用紙を一枚ずつ渡され、名前と出身地、性別などを記入するように言われる。
「代筆もするけど?」と聞かれたのだが、ユーシンと二人、王子にお願いした。
王子が三人分の登録用紙と、三人分となる登録料の大銀貨九枚を、机の上にあった銀色のトレイに置くと、サクソンさんは「ちょっと座って待っててね」と言い残して、部屋を出ていった。
それからそわそわと二十分ほど待っていると、サクソンさんがノックのあと部屋に入ってきて、「出来たわよ」と一人ひとりにカード? というかプレートを渡してくれた。
冒険者カードは、葉書サイズくらいの鈍色の金属プレートで、四辺にゴムっぽい縁がついていて、その裏と表の両面に白字で大きく名前? が書いてある。片側の上のほうに穴が開いていて、紐で首からぶら下げられるようになっている。
サクソンさんの説明によると、
名前(大)は見習い専用仕様で、Fランクの冒険者カードはこれの半分くらい。本人確認が出来る要血液(DNA?)なマジックカードになるとのこと。
見習い冒険者は、Fランクになるまで冒険者カードを首から下げて、上着の外に出して相手に見えるようにしておかなければならない。
これは依頼中だけではなく、私生活でも外出するときも出来るだけそうして欲しい。ギルドでチェックなんかはしないけど、街の人に顔を売れるし、他の冒険者たちにも仲間だと知って貰えるから。これは是非守って欲しい」と言われ、「わかりました」と代表して答える。
「ええと、ギルド長には『見習いは採取だ』と言われたんですが、何か見本、標本のようなものとか、この辺りの地図はありますか?」と聞くと、
「そうね、初心者向けの資料室があるから、この後案内するわね。あと、初心者講習は明日の八時からお昼までね。遅れないように、ギルド長、時間が来たら始めちゃうから……」と言われた。
うーん、講習はオッサンかあ……
まあ、良い人なんだろうけど、あの迫力がなあ~などと思いつつ、サクソンさんから紐を貰い、それぞれ冒険者プレートを首に掛ける。
嬉しい反面、これはちょっと恥ずかしいなあ……。と思う。
その後、サクソンさんに初心者用資料室に案内して貰い、ぶ厚い薬草野草図鑑と薄い小冊子のようなものの二冊と周辺地図を出して貰った。
資料はギルド外への持ち出し禁止。受付けの娘たちに言い置いておくから、帰るときに受付けの誰かに渡してね。あと、本は汚さないでね。と言われた。
さて三人で額を寄せ合って見ている図鑑だが、王子はふんふんと頷きながら、熱心に読んでいるようなのだが、オレとユーシンは絵しか分からない。
何だかおバカになったような気がしてしまう。王子の知識はオレ達には伝わらない。早急に読み書きの読みだけでも習得する必要があるようだ。
まずは名前か、とさっき貰った冒険者カードを見る。うーん、王子やユーシンと同じで三文字っぽくしか見えないんだよなあ。
取りあえずオレは地図を模写? することにした。細かく文字が書いてあるが、これは王子に任せよう。
カバンから借金ノートとは別の、新しいノートと筆記用具を取り出して、シャーペンで書いていく、結構難しくて、消しゴムで修正しながら夢中で書いていると、二人の視線を感じた。
「ん? どうしたの?」と聞くと、消しゴムに驚いているようだ。
ユーシンなどは口をあんぐりとあけて、驚愕の表情だ。王子も目を剥いて驚いている。
書いたのに消す? 魔法か? 魔法なのか? と言う感じだったらしい。
「ええと、説明は後で……」と誤魔化し、「ダイゴ君、地図の仕上げをお願いします」と、ノートとシャーペン、消しゴムを渡し、シャーペンと消しゴムの使い方を説明した後に、地図の残りの文字の記入をお願いした。
ユーシンと図鑑の絵だけを見て、ふんふんと分かった振りをしていると、王子に肩を叩かれた。笑顔で完成版のノート地図を掲げている。
更にはノートの新しいページを使って、小冊子のほうに書いてあった植物そっくりの、何か刺刺しい感じがする植物の絵も描かれていた。流石王子、仕事が早い。
「よし、取りあえず薬草採集の実務的な話は、明日の講習時にオッサンに聞こう。ダイゴ、ユーシン、それで良いかな?」と聞くと二人が頷いたので、図鑑と地図を持って階段を降りて、窓口の受付嬢にお礼を言って返却。冒険者ギルドを出た。
まだ夕食前の水汲みには早い時間だ。
そこで王子に、「ダイゴ、オレとユーシンは文字が読めない。でも冒険者になるなら読み書きは出来た方が良さそうだ。何か勉強出来るような本が欲しいんだけど」と聞いた。
王子は「なるほど」と納得したように頷き、すたすたと歩き出す。
商店の通りを王子について行き、行き着いたのは本屋、古本屋だった。
店に並べられている沢山の本を、王子は表紙を指先で確認していき一冊の本を選び、オレに差し出す。薄っぺらい本だが、革で装丁された大判の本だ。
それを受け取って店主に差し出すと「大銀貨三枚(三万円相当)だ」と言われた。
お財布さまを見ると、新財布から大銀貨三枚を下賜される。王子、自己申告からマイナスになってるからね。と言いたい所だが、恭しく受け取り、店主に差し出した。
それから避難所へと帰り、オレ達の冒険者カードを見たおばちゃんたちに、笑顔で冷やかされつつ、日課の手伝い(三人で一往復)した後、いつも美味しい炊き出し処のスープを貰って、三人で堪能した。
今日は茶色。仄かに苦いけど、うま味が強い。肉と野菜、ぐるぐると捻ってあるパスタ入り、美味しいです。
食後、日中使ったシャーペンと消しゴムを二人に見せて、「貰い物なんだけどね」と誤魔化しつつ説明し、ノートと共に渡し自由に使って貰った。
二人はお互いにノートに試し書きをしてはそれを消したり、そんなことを繰り返して喜んでいる。
王子はこっちの世界の文字っぽいもの。ユーシンは絵だ。
そんな二人を眺めつつ、王子に買ってもらった本を見たのだが、よく分からない。
分からないなりに最後まで目を通した。
王子は文字が読めるけど、喋れない。オレとユーシンは言葉は話せるけど字が読めない。王子に選んで貰った本はあるけど、なんだか三竦みのような状態なので、どうしたものだか? と考えてしまう。
寝る前に借金ノートに忘れずに記載。
冒険者ギルド登録料大銀貨三枚と、読み書き修得用教科書が大銀貨三枚の六枚が増えて大銀貨十枚と銀貨一枚、大銅貨五枚(十万千五百円相当)になった。早くも大台突破だ。
ギルド長に言われた、これからの生活費の持ち出しを考えると、なかなかに悩ましい……
あ、今日の大目的、ユーシン叔父さん探しやってない。なんかギルド長の迫力に飲まれちゃったな。と反省。明日必ず聞こうと思う。