聖女様との出会い
明くる日、朝から急ぎで大神殿に来るよう呼び出された。
久しぶりに儀式用の白いワンピースに袖を通したので、足元がスースーして心もとない。
到着してすぐに神官見習いより、ここで待つように、と大広間の横の小部屋に押し込まれた。椅子はあるが白い服を汚すかもしれない、と立ったままで待つ。
しばらくして扉がノックされ、青い髪の神官ーー確かドーリス様だったかしら… が顔を覗かせた。
見知らぬ少女を伴っている。
艶やかな黒髪を緩く一本に結い、優しげな雰囲気の少女だ。
「こちらの方は聖女様だ。君は初めて会うと思うが」
紹介された少女は軽く頭を下げる。
私も慌てて頭を下げたが、突然のことに驚き、頭を上げられない。
「あっ頭を上げてください!」
慌てたような声がして、彼女は私の手を取る。
私は更に驚いて思わず手を引っ込めた。
「ごめんなさいっ急に触られたらイヤですよね!」
「いえっ…あの…その…」
聖女様も私も2人で手をバタバタさせる。
「話が進みませんから私が話します」
少し下がった所で成り行きを見ていたドーリスが、見てられないという風に2人のやり取りに割って入った。
「すみません…」聖女様は恥ずかしそうにドーリスの後ろに下がる。
「急な話ですが、これから勇者様たちは魔王城に向かう事が決まりました」
ドーリスは一度言葉を切る。
私は思わず聖女様に顔を向けると、彼女は小さく頷く。本当のようだ。
「魔王より王城に戦線布告があったそうだ。賢者様のスキルが発動しなかったのは残念だが、それがなくても彼らは強い。きっと大丈夫でしょう」
私はもう一度聖女様をチラリと見る。
ーーここの国の人ではないのに本当にいいの?
彼女は私の心の中を見通すように柔らかく微笑むと、また頷いた。
「私たちはどっちみち帰る場所がないの。だからせめて誰かの役に立ちたい。だから覚悟はできているわ。」
彼女は本当に覚悟を決めているようだ。
決めているのならば、 私の出来る事は聖女様の無事を祈るしかない…
「神官様、私はなぜここに呼ばれたのでしょうか」 ずっと気になっていた事をようやく聞く。
「まずは聖女様の手伝いをしなさい。他の用事はまた後で話します」
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「はちまき、とはどういった物ですか?」
聖女様は、はちまきという物を作る手伝いをしてほしいと言う。
聞いたこともない言葉だ。
彼女はこんな感じ、とリボンのような布を取り出した。私は縫い物は得意な方だし、見たところ作るのは簡単そうだ。
「…次の日は運動会で、私達は生徒会役員だったし準備があって、遅くまで残っていてその時に……今ここにいるのは私達が選んだ結果だけど、私達はまだこれは夢で明日は運動会かもって考えてしまう…」
聖女様は独り言のように話し始めた。多分、ニホンにいた時の話なのだろう。彼女は辛そうに言葉を紡いでいる。
「…戦いに邪魔になるかもしれないけど、みんなでハチマキを巻いて戦うと決めたの」
前後の脈略もなく、正直なところ意味はわからなかったが、絶対に彼らには必要な物なのだとは理解できた。
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私は元からあまり喋らない方だけれど、作業をするともっと無口になる。
逆に聖女様はイリヤと似て、話しながら作業するタイプのようだ。たまに私が相槌を打てない時も気にせず話している。
彼女の名前はユイで、私と同じ17歳だった。
私が聖女様と同じ黒目黒髪なので、友達に久しぶりに会えたようで懐かしいと、少し目を潤ませた。
勇者様は噂どおり、王女様と婚約の話があるそうだ。同じく剣士様と戦士様もお相手を用意されている、という言い方をした。
王は彼らの意思を無視して話を進めているのかもしれない、と何とも言えない気持ちになったところで、ふいに村が焼かれた記憶が蘇り、慌てて気持ちを切り替える。
聖女様が彼らの話をする時は、ニホンで呼んでいただろう呼び方をした。
〇〇君、だったり、役職名らしき者でも呼んでいた。
こちらでは〇〇君と呼ぶのは目上の者が下の者を呼ぶ時だ。
違和感があったのもあって、誰の名前が誰か覚えられないままだったが、楽しかった事は理解出来て、少し羨ましい世界だな、と思った。
聖女様は戦いが終えてもここの治療院で働きたいと言っていた。
ーー私と同じ年なのにしっかりしてる。私は流されるままここにいるだけなのに。
賢者様は全て終わったら能力を捨てて普通に暮らしたいと大神官様に願い出た、と聞いた時は驚いた。
あと、彼は誤解されやすいけれど普通の男の子だから色眼鏡で見ないでほしい、と懇願された。
ーー使用人達が悪し様に言うのを知っているのかもしれない。自分は言わなくても放置していたのだから同じだ…
ハチマキが完成した頃、扉がノックされ私は大広間へと呼ばれた。




