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はじまり


アジェル山の麓には、異空間にある魔王城へと続く転移門がある。



転移門を結界で守る神官達はコルドと呼ばれる聖域に住み、彼らを世話をする者達もまた、聖域に居住している。




コルドの大神殿の奥には、女神に選ばれた者しか立ち入れない、目覚めの間と呼ばれる、眠った力を覚醒させる部屋があるそうだ。



「でね、賢者様のスキルが今日も発動しなかったって。勇者様たちも困り果ててたらしいよ」


夕食用の芋の皮剥きの手を止めてイリヤは私の耳元に口を寄せた。


私は何と答えれば良いか分からず、曖昧な笑みを返す。



コルドには数週間前より女神様より遣わされた勇者一行が滞在している。


彼らは、こうこうせい、といって高度な学問を学ぶ施設から、1年前に女神様によって魔王討伐の使命を担って召喚されたそうだ。



ここに来るまでに力を蓄え、目覚めの間でまだ眠る力を起こす為に来たというが、賢者様は未覚醒のようだ。だとすると…



「ユーリどうしたの?」

私が返事をせず、しばらく黙り込んでいたからか、イリヤが覗き込む。


「う…うん、こうしてる間にもまた町や村が襲われてるかもって考えちゃって。」


私の生まれ育った村は、5年前に魔獣の大群に襲われ、制圧に来た王国軍によって焼き払われた。


12歳だった私は、孤児院で受けた魔力テスト

でスキルが1つある事が分かった。

スキル持ちは全国民の3%ほどしかおらず、国の保護対象でもある。私はそのままコルドに住まうよう命令され、今に至る。



ただ、私のスキルは【泣きの一回】という、神官様達に失笑された能力だ。

発動条件も分からないがスキルなのは確からしい。


何の役にも立たないからお前も働け、と使用人の居住地に放り出され、そのままここで生活している。



「考えてもしょうがないよ。あたしたちはには何もできないじゃない。聖域に守ってもらって皮剥きしてるんだから」

「うん…守られてる立場で言う事じゃなかったね」



それから私とイリヤは会話を打ち切り、皮剥きを終わらせた頃、料理担当が芋を回収に来たので次の仕事場へと移動した。







*****



「あー、またあれだよ」

イリヤは使用人専用の食堂に入る前から声を上げた。


「この匂い、またニホンのカレーだよ。あたし苦手なんだよね」

イリヤは顔をしかめながら席に着く。


私は別段嫌いでもないけれど、イリヤは初めて見た時はニホン人の嫌がらせだと本気で怒っていた。見た目がドロドロで刺激の強い味は、こちらでは受け入れられていない。


「賢者様が落ち込んでるから、好物のカレーにして欲しいって勇者様から頼まれたそうよ」


使用人の先輩のターニャがスプーンをテーブルに並べながら教えてくれた。


「勇者様はさすがお優しいわ!」

「昨日は聖女様と治療院を手伝われていたそうよ」

「全て終わったら噂の王女様と婚約かしら。 あぁ、でも聖女様ともいい感じだし」


皆、好き勝手な噂話に花を咲かせる。


同じコルドにいても、勇者一行と使用人が顔を合わせることはほとんどない。

勇者たち専用の侍女達から話を聞くだけだ。


そして噂話が落ち着いた頃、誰かが口を開く


「賢者様は早くしてほしいわね。このニホン料理は私達には拷問よ」

「覚醒しなければ魔王城に行けないのだから仕方ないわよ」

「今日も侍女を泣かせたらしいわよ」


噂話の終了は大体、賢者様の話題だ。


悪し様に罵り、満足した頃に食事は終わる。それがここ最近の流れだ。





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