22話 ウルシュvs
『巨塔』地下訓練場に新たに姿を現したのは――尖った大きな耳に、つぶらな瞳、短い足。胴が長く、尻尾は短かい犬だった。
歩くとお尻が可愛らしく揺れるだろうと簡単に想像が付く。
見た目は足が短く、胴が長い犬だが、頭部に天使の輪が浮かんでおり、ただの犬ではないことが一目で分かる。
しかし、その輪も彼の可愛さを引き立てる一要素にしか過ぎなかった。
見た目は天使の輪を持つ可愛らしい犬だが、雷系攻撃魔術を極めた魔術師犬である。
『レベル5000 雷鳴の統括者 ウルシュ』。
『禁忌の魔女』エリーですら、雷系攻撃魔術においては一目置く人物だ。
なおかつ『統括者』の名の通り、他者の管理、指示、動かす技能にも長けているため、『奈落』ダンジョンで働く人々の管理を任されていた。
そんな彼が時計屋を助けるため、『奈落』最下層から、慌てて『巨塔』地下訓練場へと移動してきたのだ。
ドラドナが手に持つ幻想級の武具『モンスターヘッド』の一撃によって、床に倒れていた時計屋が、ウルシュの声を耳にして反応する。
「う、ウルシュ3(さ)ま? どう4(し)てここに……?」
「時計屋殿が周囲の静止を振り切って、敵を地下まで追いかけたから止めて欲しいと指示を受け、慌ててきたのですよ。敵の協力があったとはいえ、まさか封鎖した地下訓練場に入り込むとは……。君はもう少しちゃんと自分の力を使うべきだと思いますよ?」
「ご、5(ご)迷惑をおかけして申し訳ありません……」
ウルシュが呆れた声で時計屋に説教をした。
あれだけ凶暴化していた時計屋も、ウルシュの説教に反省を示す。
ちなみに時計屋がどうやって『巨塔』地下訓練場に侵入したのか?
彼は能力として『時間を一時的に停止』することが出来る。
侵入者であるドラドナが『モンスターヘッド』の攻撃で一時的に出入り口を破壊した際、再生する前に時間を停止して、訓練場へと侵入したのだ。
普段は時計修理、時間合わせなどに使用する力だ。
話を戻す。
犬が時計屋に説教する光景はシュールでドラドナは再び思考を停止して見入ってしまう。
そんな彼に対して、ウルシュが向き直る。
「詳しいお話は後で。まずは侵入者を無力化してしまいましょう」
「――ッゥ!? 『モンスターヘッド』! 儂を守れ!」
ウルシュが意識を向けるとほぼ同時に、雷の攻撃魔術が放たれた。
殺気に気づいたドラドナは、咄嗟に『モンスターヘッド』を突き出し、防御。
『モンスターヘッド』の一部頭蓋骨が巨大化して、放たれた雷系攻撃魔術を弾く。
実際は別に声を出さなくても自動的に防御するのだが。
ドラドナは警戒して、慌てた様子でウルシュから距離を取った。
困惑しながらも、彼は自身の勝利に確信を得る。
「妙な生物と話をする犬が突然姿を現し、攻撃をしかけて来たのには驚いたが、儂にはこの『モンスターヘッド』がある! しかもドラゴの増幅強化のお陰で攻守共に完璧! 貴様のような犬の攻撃など効かぬわ! 儂の邪魔をするなら、その妙な生物共々、葬ってくれる!」
ドラドナは改めてウルシュへ向けて『モンスターヘッド』を突き出す!
「あの妙な犬を滅ぼせ! 『モンスターヘッド』!」
突き出された『モンスターヘッド』は、ドラゴンの骨が動き出す。
最初、彼が『巨塔』に進入した際、エリーへ向けて攻撃をしかけたドラゴンの頭蓋骨だ。
ドラゴンの頭蓋骨は巨大化し、その顎門をウルシュ達へと向けた。
向けるとほぼ同時に、顎門からドラゴンブレスが発射される。
「界雷」
ウルシュが呟くように告げると、彼と時計屋を守るように雷の壁が生み出された。
まるで雷によって世界が区切られたような光景だ。
ドラゴンブレスが界雷へと激突するも、突き破ることはできず暫し拮抗した後、霧散してしまう。
ウルシュは一歩も動かず、『モンスターヘッド』のドラゴンブレスを防いでしまったのだ。
「!?」
「雷斧」
ドラドナは一歩も動かず攻撃を防がれたことに驚愕するが、ウルシュは彼の反応など意に介せず無力化するため攻撃をしかける。
巨大な斧のような雷がドラドナに襲いかかった。
ドラドナ自身は反応することが出来なかったが、『モンスターヘッド』が攻撃を認識。
すぐさま防御に回る。
『モンスターヘッド』の骸骨を模した骨の一つが巨大化し、雷斧を防ごうと正面から激突。
本来であれば先程のように雷の攻撃魔術を防ぐことが出来たのだが……。
雷斧と正面から激突した骨が、防ぐことには成功したが消滅してしまう。
雷斧によって黒焦げになり、消失してしまったのだ。
さすがにこの事態にドラドナが驚愕の声をあげる。
「ば、馬鹿な!? 『終末の槍』で増幅強化した、準神話級武具化した『モンスターヘッド』が消滅しただと!?」
「むしろ、わたくしとしては、雷斧を消滅したとはいえきっちり防いだことに驚きましたよ」
ウルシュは嫌みや挑発ではなく、本心から牽制ではなく、しっかり本腰を入れた攻撃魔術『雷斧』を防いだことに感心を示す。
ウルシュは思案するように小首を傾げた。
本人は真面目に考えているのだが、第三者から見ると天使の輪があるコーギーが小首を傾げているようにしか見えない。
「ふむ……このまま雷斧で押し切ってもいいのですが、相手に対応を考えさせて何かをさせる間を与えるのは怖いですね。なのでここは一気に決めてしまうのが最善ですかね」
つまり、『敵であるドラドナがこれ以上何かする前にさっさと倒してしまおう』ということだ。
非常に可愛らしい仕草だったが、彼の考える内容はいささか物騒だった。
ウルシュはすぐさま実行する。
「天雷」
「ぬぉおおおおぉッ!?」
ドラドナの頭上から百近くの雷が降り注ぐ。
文字通り『天から雷が降り注ぐ』ような光景だ。
当然、『モンスターヘッド』が反応し、自動的に防御態勢を取るが――巨大化した頭蓋骨がドラドナを守ろうとするも、降り注ぐ雷が多すぎ防ぎ切れない。
1分もかからず、『モンスターヘッド』は焼き切れ、ドラドナ本体に雷が直撃。
暫し、雷の直撃が続き――黒焦げの死体状態になった所でようやく攻撃が止んだ。
エリーの術式のお陰で死んではいないが、ドラドナは意識を失い手足を瀕死の虫のように細かく動かす。
ウルシュは結局、その場から一歩も動かずドラドナを倒し、確保することに成功するが、本人はこの結果に不満を抱く。
「反撃、逃がさぬため少々力を入れすぎてしまったようですね。次からはもう少し手加減をしなければ……」
ドラドナからの反撃や逃走を考えて手加減抜きで攻撃したはいいが、エリーの術式がなければ死亡させていた。
手加減の失敗にウルシュは反省をしたのだ。
一通り反省を終えると、時計屋へと改めて向き直った。
ウルシュが回復魔術で時計屋の傷を癒やすと、彼をその場で正座させて渋い声で説教を開始する。
「時計屋殿、君のレベルでは彼に勝てないのは分かっていたはずです。有効なマジックアイテムやマジックウェポンも所持していないのに。熱くなると周りが見えなくなるのは君の悪い癖ですよ」
「し、しか4(し)あいつのせいで折角、設置していた時計が床に落ちて壊れたんですよ!」
「確かに時計が落ちて壊れたのは残念です。しかし君が傷つくとわたくしは悲しい。他にもライト様や『奈落』最下層の仲間達が悲しみます。もしわたくしが今回間に合わなかったら、最悪命を落としていた可能性もあるんですよ? もしそうなったら悲しいではすまないことになっていたかもしれない。それは理解できますよね?」
「は、はい……理解できます……」
ウルシュがドラドナを倒した以上の時間をかけて、正座をする時計屋へとお説教を続けた。
どうも時計屋はなぜかウルシュに一目置き、彼に対して頭が上がらないのだ。
そのため激怒していた時計屋を落ち着かせるためにも、わざわざ『奈落』最下層からウルシュを呼び出し、向かわせたのだ。
ウルシュは淡々とお説教を続ける。
「別にわたくしは時計屋殿の時計に対する強い思いを否定している訳ではありませんよ。ただ、今回の一件に関してはいささか目に余ります。なぜなら先程指摘したように最悪の場合、君が命を落として――」
「はい、まったく、ウルシュ様の仰る通りです」
天使の輪っかを頭に頂くコーギーに対して、正座をして説教を聞き反省する時計顔の男。
第三者から見ると非常にシュールな光景だが、本人達は真面目に相手を思いお説教をして、話を聞き反省を続けたのだった。
気づけば11月も後半!
もうすぐ12月になり、今年が終わります。
つい最近1月になったと思ったのに……。
と、とりあえず来年1月には『無限ガチャ』小説6巻が発売される予定なので、どうぞ皆様お楽しみに!
また今日11月22日(火曜日0時、月曜日24時)は、講談社マガポケ様に連載中の『無限ガチャ』コミカライズアップ日です!
マガポケ様で基本無料で読めるので(一部有料先読みもあり)まだのお方は是非一読を!
まだまだ十分お話に追いつく話数なので~。
次回アップは11月29日になります。
また最後に――【明鏡からのお願い】
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感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




