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太平洋の双翼  作者:  カズヤン
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32. 海軍の新型機

 三月下旬、日本はついに東南アジア一帯を占領することが出来た。


 しかし、フィリピンはまだバターン半島とコレヒドール要塞を残しているが、これも史実より早い四月下旬に降伏するのであった。


 ビルマの攻略も進んでおり、ビルマとインドの国境線には九七式中戦車や八九式中戦車などを配備して守備していた。


 また、機動部隊もニューブリテン島攻撃を開始しており、四月には後に『大空のサムライ』と呼ばれる坂井三郎など歴戦の搭乗員が所属する台南空などの航空隊がラバウルに進出した。


「すでに太平洋は我が帝国の手中にあり、か...」

 神谷中佐は新聞に大きく書かれた記事の題名をそう呟く。新聞にはどれも軍の連戦連勝を褒め称えるものばかりが書かれていた。


「新聞社の連中は、今の状況が綱渡り状態だというのを分かってるんですかねぇ。」

「さあな。だが、あまり国民を煽りすぎるのも、どうかと思うがな。」

 村田の言葉に、神谷中佐がそう答える。


「そういえば緋村君は、また横須賀航空隊に戻るそうだね?」

「はい。一時的ですけど、四月の帝都空襲に備えて待機するそうです。」

「そうか。薫が緋村君と久々に会えると喜んでいたな。」

「そういえば薫さんって今いくつなんですか?」

「ちょうど君たちの一つ下だから、二十三歳だな。」

「そろそろ結婚してもいいと思いますけどね。」

「本人が学校の教師を辞めるつもりはないと言ってるのだから仕方ないさ。」

「そうですか...」

 そう言って二人は笑いながら、話を続けるのであった。




 ーー翌日 横須賀基地ーー


「緋村大尉、お久しぶりです。」

「おお、大島。久しぶりだな。」

 緋村は横須賀基地に残っていた大島一飛曹と再会した。


「俺がいない間、何か変わったことはあったか?」

「そうですね。特にありませんが、近頃は新型機のテストが増えましたね。空技厰のテストパイロットもよく見かけるようになりました。」

「へえ、そうか。なあ大島。その新型機、見ることって出来るか?」

「はい、案内しますよ。」

 そう言って大島は緋村を新型機のある格納庫へ案内する。


「オオ...すごいな。」

 緋村達の入った格納庫には、真新しい試作機がいくつも並べられていた。


「あそこにあるのが新型の二号零戦、その右にあるのが三菱の十四試局戦、その隣が川西の十五試局戦です。」

 緋村の隣にいた大島が機体を指差しながら説明する。


 二号零戦は史実の零戦五二型であり、エンジンを栄一二型エンジンから栄二一型への変更、主翼を五十センチずつ短縮させ、翼端を丸く整形したものである。性能はほとんど五二型と同じであり、航続距離も二一型より低下しているものの、さしたる問題はなかった。


 十四試局戦は史実の『雷電』であり、史実の欠点である振動問題や視界の悪さを改善したものである。


 視界の悪さは操縦席の座席を五十センチかさ上げし、胴体の側面を削り、前下方視界を確保させるなどといった改良がされている。また排気管回りはドイツのFW190の様に推力式単排気管を一か所に集約させ、段差の過流を吹き飛ばす構造となっている。


「どうだ緋村。この新型は?」

 二人は声の方向に振り向くと反射的に敬礼した。

 そこには『雷電』のテストパイロットを務める小福田大尉が立っていた。


「小福田大尉、お久しぶりです。」

「ああ、ちょうど半年ぶりだな。」

 小福田大尉は緋村にとって『第零特別航空隊』での上官であり緋村とは面識があった。緋村はさっそく『雷電』の性能を尋ねてみた。


「十四試局戦の性能はどうですか?」

「うん、速力や上昇力は零戦とは比べ物にならないくらいに高いな。ただ、旋回性能はどうしても零戦には劣るがな。」

「零戦と比較する方がおかしいでしょう。」

「それもそうだがな。こういう機体は今まで無かったから、比較しづらいというのが本音だな。」

 そう言って小福田大尉は答える。


 それまで日本が開発してきた戦闘機は、陸海軍ともに格闘性能を重視した機体が多かった。そのため、ドイツのMe109のような一撃離脱重視の機体はほとんど無く、十四試局戦と陸軍の二式単座戦『鍾馗』ぐらいであった。


「まあ、そのあたりは零戦とうまく使って、お互いの欠点を埋めあうのがいいかもしれんな。」

「そうですね。川西の試作機はどうなんですか?」

「あれは...そうだな。個人的に言うと惜しいといった機体だな。」

「惜しい、ですか。」

「ああ。やはり川西は戦闘機は造り慣れてないから、どうしても全体的な造りが甘いように感じるな。」

 そう言って小福田大尉は川西の試作機に目を向ける。その機体は史実の『紫電』と『紫電改』を混ぜたような外見をしていた。


 史実では川西航空機は水上戦闘機である『十五試水上戦闘機』の開発が行われていたが、この世界では先に中島飛行機が『フロート付き零戦』こと二式水戦を完成させたため、開発されることはなかった。その代り海軍は、川西に局地戦闘機の開発を命じ、川西は史実より早く『十五試局地戦闘機』として開発されることとなった。しかし、陸上機の開発経験の少ない川西は『十五試局戦』の開発に難航し、どうにか試作機を海軍に納入したという状態だった。


 『十五試局戦』はエンジンに三菱の火星エンジンを搭載し、史実の『紫電改』の胴体に『紫電』のカウリングといった形であった。しかし、火星エンジンは出力が足らず、海軍の要求性能には届かなかった。





「上じゃこいつの改良を川西に指示したらしい。何でも新しく完成した二千馬力級の新型発動機を載せて、機体も大きく改良させるらしいぞ。」

「そうですか。まあ仕方ないんじゃないですかね。初めてやっていきなり上手くいくことなんてまず無いですし。」

「まあな。川西も次はこの経験を生かして、もっと良い機体を作るだろう。それじゃあ俺はテスト飛行の時間だから、行ってくる。それじゃあな。」

 そう言って小福田大尉は格納庫を後にした。格納庫の中には、緋村と大島の二人が残された。


「さて、俺たちもそろそろ訓練だから、行くか。」

「そうですね。急ぎましょう。」

 そう言って二人は格納庫を出て、飛行場の方へ走り出した。








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