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太平洋の双翼  作者:  カズヤン
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2. 海軍大戦略

「やあ、久しぶりだね、神谷君。」

「い、いえ。とんでもございません。どうぞ。」

(なあ、薫さん。山本中将と親父さんはどういう関係なんだ?)

(何でも若いころ、お世話になったって話です)


 壁に耳を澄ませていた緋村たちは、山本中将と神谷中佐の会話を、こっそりと聞いていた。

「実は今日、山本中将にお会いしたいという人物がいるのですが、よろしいでしょうか?」


「私にかね、それは構わんが?」

(オイオイオヤジさん。ちょっと展開早すぎやろ!?)


 緋村たちは驚きながらも山本中将たちのいる部屋に入った。

「初めまして、山本中将。緋村隆一と申します。こちらは私の後輩の村田達也です。」


「村田です。どうも。」

「海軍航空本部長の山本だ。ところで話がしたいとのことが、どういう要件かね?」


「単刀直入に言わせてもらいます。私たちは80年後の未来から来た人間です。」

「...は?」


 何アホなこと言っとるんだコイツはという顔をしているが会話を続ける。

「もちろん証拠はございます。まずはこれをご覧ください。」


 そういって緋村はまずタブレットを取り出し、フォルダの中の写真や動画を見せた。


「おお、これは長門だ。しかも天然色とは...これはすごい」

「動画もお見せしますよ。」


 そう言って未来の戦闘機や軍艦の動画を見せると矢継ぎ早に質問が飛んでくる。


 特に多かったのは、戦時中のアメリカ軍の戦闘機に関してだった。

「この戦闘機は何という名前だ?」

「グラマンF6Fという戦闘機で、今から約7年後に開発される艦上戦闘機です。」


「性能は?」

「エンジン出力2000馬力。最高速度605キロです。」

「なんと...そんな化け物のような戦闘機を7年後に開発するのか!!」


「はい。この他にもF4UコルセアやP-51ムスタングといった高性能な戦闘機を開発しております。」


「ううむ、開発中の9試単戦(後の96艦戦)では全く歯が立たんな。」

「私も艦政本部に所属しているので、このエセックス級航空母艦のすごさが分かります。これを24隻も建造するとは...」


 艦政本部に所属している神谷中佐も、エセックス級空母の性能に驚きを隠せずにいた。


「信用していただけましたでしょうか?」

「もちろんだ。このタブレットという道具はどんな国でも作ることもできんだろうし、開発中の戦闘機や戦艦の性能を君たちは知っていた。信じないわけにはいかんだろう。」


「ありがとうございます。」

「一つ聞くが...やはりアメリカと戦争になるのかね?」

「はい。」

「そうか...」


 そう言って大きくため息をついた。

「緋村君と村田君と言ったね。どうだろう、海軍にはいらないかね?」

「海軍、ですか?」

「ああ、君たちの力を貸してほしい。」


「どうする、村田。」

「僕は先輩が行くならどこへでも。」

「そうか。分かりました、山本中将。微力でありますが、協力いたしましょう。」


「ありがとう。緋村君、村田君。」

 数日後、二人は正式に海軍少尉として海軍に入隊した。







 海軍省 会議室


「諸君、本日集まってもらったのは他でもない。対米戦においてとても重要な話だ。まずは手元にある資料に目を通してほしい。」


 軍令部総長の伏見宮博恭王は、そう言って列席者を並び見た。この会議には山本中将はもちろん、艦政本部長の中村良三大将、そして南雲忠一少将や小沢治三郎少将、山口多聞大佐といった史実において名を馳せる猛将たちが出席していた。


(すごいな、さすが軍令部総長、すごいメンバー呼んだな)

 緋村たちもこの会議に特別に参加していた。


 手元の資料は、緋村たちの情報をもとに作られたシュミレーション(というより未来図)である。これを読んだ将校たちの反応は様々だった。


「殿下!!これはどういうことですか!!」

「わが帝国海軍が米国なんぞに負けるというのはどういうことですか!!」

「静まれぇ!!」


 伏見宮閣下は憤慨する若手将校たちを一喝して黙らせた。


「この資料に書かれていることはすべて私の部下によって調べさせたものだ。資料にあるエセックス級航空母艦はまだ設計段階だが、搭載機数100機以上、最高速力33ノットという大型空母だ。これはわが軍の最新鋭空母の蒼龍を軽く上回るものだ。こんな船を36隻建造しようとしているのだ。普通に戦って勝てると思うかね?」


「すごいの一言に限りますな。」

 出席していた吉田善悟長官はそうつぶやいた。


「閣下、発言してよろしいでしょうか?」

「緋村少尉か、よかろう。」


「この資料を見てお分かりのように、今の我が国ではアメリカとの戦争になった場合、高い確率で負けます。」


「その根拠は何かね。」

 後の連合艦隊参謀長の宇垣少将が不愛想な顔のまま質問した。


「アメリカの底力は計り知れません。駐在武官として行かれたことのある方なら分かるでしょうが、アメリカでは一般人にまで車が普及しており、さらに工場では流れ作業を用いて大量に製品を生産しています。それに対しわが国では、車は一部の裕福な家庭にしか普及しておらず、工場でも職人などが手作業で手間をかけて作っております。つまり小銃一丁作るにしてもわが国なら日に何丁かというのに対し、アメリカならば日に何十丁、何百丁と製造することができるのです。これほどまでに工業力に差がありますので、資料にあるように大型空母を36隻も建造することは不可能ではないということです。」

「なるほど、良く分かった。」


 そう言って宇垣少将は黙り込んだ。


「しかし対抗策は立てることはできる。」

 伏見宮閣下はそう力強く話した。


「その通りです殿下。現在艦政本部ではマル3計画を一部変更し、新たに空母を一隻追加させるとともに、甲型駆逐艦に一部設計変更を行い、対潜、対空能力の強化を図ります。」


この変更は緋村が神谷中佐を経由して伝えた情報である。史実の日本海軍の駆逐艦は水雷戦に特化した設計がされており、戦闘能力は非常に高かったのだが、万能性という点では他国の駆逐艦に劣っていた。それを改善するために変更を促したのである。


「うむ、航空機に関してはどうかね?」

「ハッ、現在95式艦戦の後継機として三菱に新型機を開発させております。また、爆撃機は防弾装備を装備させるように指示しております。」


 その後も白熱した議論が続き、最終的に会議が終了したのは、日付を超えたころだったという...

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