14. ノモンハンは血に染まる.1
11/27 修正しました。
昭和十四年五月十一日、史実と同じくノモンハン事件が勃発した。陸軍上層部は直ちに陸軍航空隊のハイラル派遣を決定し、戦車師団も派遣されることとなった。海軍も事件勃発から一か月後には航空隊の派遣が決定された。その中には、緋村の所属する横須賀航空隊も派遣されていた。
「やっと到着か...」
九六艦戦のコクピットから降り立った緋村は、飛行場を見渡していた。ハイラルには陸海軍の航空隊が集結しており、海軍の九六艦戦や九六式陸攻のほかに、陸軍の九七式戦闘機や九七式重爆、九七式軽爆等の機体が並んでいた。
「いやあ、壮観ですなあ、緋村小隊長。」
「上田一空曹、頼むからその小隊長って呼び方、やめてくんねえかな?」
「実際に私の小隊長なんですから、間違いではないでしょう?」
「まあ、そうなんだけど...慣れないんだよなあ...」
緋村はこの一か月前に中尉に昇格し、第一中隊の第二小隊長に任命された。いきなりの小隊長任命に驚いたものの、上田一空曹のサポートにより、今では立派に小隊長を務めていた。
その後、緋村はハイラルにある第六軍司令部へと向かった。
「おお、緋村。よく来たな。」
部屋に入ると杉野が出迎えてくれた。杉野は関東軍の特務参謀としてノモンハンに派遣されていたのである。
「横須賀からは遠かっただろう。まあゆっくりしてくれ。」
そう言って杉野は緋村にお茶を進めた。
「なあ、杉野。すまないが今のノモンハンの戦況はどうなってるのか教えてくれないか?」
そう言いながら緋村はお茶をすすりながらそう聞いた。
「今のところ戦局はほぼ五分五分だな。ソ連軍の攻撃は今までに構築してきた防御陣地で防いではいるが、こっちが攻め込むときは敵の数が多いからどうしてもハルハ河を突破できない。」
ノモンハン方面ではこの四年間の間に強力な防御陣地を構築しており、ソ連軍の攻撃を防いでいた。しかし、6月に発生した大規模な戦車戦により、陸軍は大損害を被ってしまった。
「今はハルビンからトラックとかを使ってピストン輸送で人員を送ったりして、次の攻勢に備えてる所だ。戦車も続々とこちらに向かってるそうだ。」
「チハはどうしたんだ?」
「チハはまだ一個中隊分しかないからな。主力は八九式や九五式軽戦車が多いから後方支援についてる。それでもソ連のT-26部隊を壊滅させたそうだ。」
「へえ、すげえな。」
九七式中戦車は現在一個中隊分が配備されており、主に軽戦車部隊の援護などの任務に就いていた。また、その固い防御力を生かし、敵陣地への攻撃の際は先頭を進み、歩兵部隊の盾となっていた。
「陸の方はまた近いうちに攻勢をかけるって話だから、航空隊も近々出番があるな。」
「そうだな。」
「死ぬなよ。お前がいなくなるとつまらんからな。」
「ありがとよ。それじゃな。」
そう言って緋村はそそくさと部屋を出て行った。
それから数日後、横須賀航空隊は敵兵站基地の爆撃のため出撃した。緋村も爆撃機の護衛として出撃することとなった。
「いよいよか...」
「緋村中尉、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。」
緊張する緋村に対し、上田一空曹は煙草をくわえながらそう言った。
「さすがベテランだな、全然緊張してない。」
「いや、でもまあ緊張してはいますよ。初実戦なもんで。」
そう言いながら上田は煙草に火をつけた。
「訓練通りにやれば大丈夫です。平常心ですよ。」
「平常心、か...確かにな。」
そう言って二人は自らの機体へと向かっていった。
数時間後、ハイラルの飛行場から離陸した攻撃隊は、目標地点へと向かっていた。攻撃隊は九六陸攻二十機、九六艦戦二十七機という編成である。
「そろそろ目標地点か...」
航法図を見ながら、緋村はコクピットの中でつぶやいた。緋村は敵機に備え、周囲の警戒を続ける。
その時、前方にいる中隊長機が、機体を大きくバンクさせた。敵機発見の合図である。
「来たか!」
緋村はすぐに増槽を切り離し、上昇を始める。すでに前下方にはI-15とI-16の混成部隊が飛んでいる。
『全機突撃ッ!!』
中隊長の鋭い指示により、攻撃を開始する。
「行くぞ上田一空曹ッ!!」
『了解ッ!!』
緋村は無線機で列機に指示を出し、ソ連軍戦闘機群の中へと突っ込んで行ったのであった。
「うわっと!!」
緋村の機体の横スレスレに曳光弾が飛び交う。あたりを見ると、至る所で空中戦が行われている。
「負けてらんねえッ!!」
緋村はそう叫ぶと、目の前をすれ違ったI-15に狙いをつける。I-15は緋村機に気づいたのか、左旋回で逃げようとするが、緋村も負けじと追いすがる。
「もらったッ!!」
Iー15の後方についた緋村は、機銃発射レバーを握る。タタタタッと軽快な音を立てながら、機銃弾はI-15を貫く。しかしIー15はそのまま急旋回し、緋村機の後方に回り込もうとする。緋村は負けじと急旋回で追いかけ、再度機銃を打ち込んだ。今度はエンジンを撃ち抜かれたらしくI-15は、黒煙を吹きながら草原に墜落していった。
「・・・・・」
草原に墜落したI-15の残骸を無言で見つめながら、緋村はその上空を飛んでいた。
「悪く思うなよ...」
『緋村中尉、どうかしましたか?』
「いや・・・なんでもない。」
そう答えながら緋村は、空戦空域へと戻っていったのであった。
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