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山がある。

ある男ははじめ、その山を南から登ろうとした。

だが登山を始めてまもなく、その道は断崖の様相を呈してきた。

男にはこんな急斜面を登る知識も気概もない。途方にくれた挙句、そちらから登ることはあきらめた。


次に男は、西から登り始めた。

ここは傾斜も緩やかなようで、何の登山知識がなくても登れそうだ。

ただしその分非常に頂上までの距離が長い。おまけに足場が悪く、ぬたぬたとこびりつく蔓科の植物の粘液と地面の汚泥に嫌気がさした彼は、引き返すことにした。


北からも登頂を試みた。

ここの道は悪くない。西ほどではないが、坂道は道具がなくても進める傾斜角だ。

天気もよかったので鼻歌交じりに道を掻き分けていくと慌てて下山してきた中年の男とすれ違った。

彼は「この先に多くの死体が白骨化してる。得体が知れないからこれ以上進むのはやめたほうがいい」と忠告して、その後は振り返りもせずに降りていった。

この男も気味が悪くなり、一度下山してから調べてみると、なるほど確かにこちらからの道は危険な地すべりの場所があるらしい。その男を信じてよかった。と思った。


東を登ってみたら、20mはあろうかという大蛇がいた。

冒険ゲームの主人公じゃあるまいし、こんなのを何とかするのは無理だ。男は見つからないようにこっそりと逃げた。


山を四方から登り、それぞれにあきらめ、いくつかの季節が過ぎた。

国道を車で走っているとたまにあの山が目に映ることがある。ここからは山頂があんなに簡単に見えるのに、あの場所はどこまでもどこまでも遠い。

あきらめなければ登れたのだろうか。それはわからない。いまさら試そうとも思わない。

年老いた男はそういう時、決まって鼻で笑ってその山から目を離す。


その山は、名を「こころざし」といい、山頂を「成功」という。

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