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交渉決裂

 ある国は隣国と仲が悪い。

 隣国は隣国だけに昔から幾度となく争い競いを繰り返していたわけだから、ライバル意識というものは根強くあるのかもしれないが、度を過ぎて「兄弟げんか」では片付けられない事態に陥っている。

 仮にこの二つの国をA国、B国としよう。両国は長く折衝点を見い出せずに、どちらかというと険悪な関係を続けたまま、長く超低空飛行の付き合いを行っていた。

 が、A国の異変で自体は新たな局面を見せる。A国は大統領制であるが、これがこのたび世代交代をし、新たな路線を打ち出したのである。

 A国の大統領はB国の文化、とりわけB国で発達している"漫画文化"が好きだった。これを通じてデタント……すなわちお互いの国の凍えきって開くことのできない右手を暖め、手に手をとることはできないかと模索するようになった。


 彼の尽力もあり、B国もできることならA国との雪解けを見られればという気持ちも手伝って、ここに、異例の首脳会談が実現する。

 B国は愛想笑いの上手な、温和な民族の集まりだ。態度を軟化させて付け上がってくることはない。とはいえ譲れないラインもあるのですべてすべてがうまくまとまったわけではないが、おおむね会談は和やかなムードで行われた。両国とも、こんなに笑顔の見られた対談はここ100年間なかっただろう。

 会談の合間、A国の大統領はB国の漫画について言及した。

「わたしは実は、B国の漫画というものを高く評価しています」

 B国もそれを知っている。

「はい、政治のハード面では折り合いのつかないことも多いかもしれませんが、漫画というソフト面を通じて若者たちの笑顔がお互いの国の氷を溶かしてゆく原動力になればと思っています」

「何を隠そう、わたしも貴国の漫画のファンです。あの「F&W(ファイア&ホワイト)」という漫画は、貴国と我が国の新協力体制を描いてますよね?」

「ご洞察の通りです。わたしもあの漫画のファンで、毎週、雑誌が出ることを楽しみにしています」

「雑誌で最新の記事がいち早く読めるのはうらやましいですな」

 当然だが、B国の漫画がA国の言葉で発売されるまでには時間的ラグがある。B国はそこを考慮していきたい。

「このたび、ソフト面でつながっていくためにも、同時発売ができる仕組みをとり、盛んに両国間で漫画のイベントを開いて、若者たちが交流を持てる場を作っていけたらと考えております」

「おお……」

 A国の大統領にとってそれは願ってもないことだ。渡りに舟を寄こされた形となった大統領の心は一挙に躍り上がる。今回の会談の有意義を確信した彼はやや興奮した面持ちで、漫画の中の登場人物の名を挙げた。

「オルフェンスが、三大国とどう戦っていくのかが楽しみなんですよ」

 と言えば、B国の代表も好きな漫画の話だ……十代の若者のように目を輝かせて答えた。

「なるほど、今はその辺を読んでいらっしゃるのですね?あの先はまた・・・すばらしいです」

「あ、絶対に先を言ってはだめですよ。本当に楽しみにしていますので」

「もちろんです。しかし、あの作品がこの会談の笑顔の一端を担ってると思うと、あの作者には感謝の言葉もありませんね」

「あれだけではないです。貴国の巧みな物語を作る文化は素晴らしいと思っています」

「それはこちらも思っていますよ。A系小説という我が国での流行り言葉が、貴国の文学におけるレベルの高さを物語っています。これからもいい意味で競争をしていきたいものです」

 A国は文字を巧みに扱うことにおいてB国をはるかに上回っている。どちらの文化程度が高いという甲乙はつけがたいライバルでもあるのだ。

 お互いの文化を賞賛しあって上機嫌の会談の流れは閑話休題となり、ランチの会場に向かう中で再び先ほどの漫画の話に戻っていった。B国代表は言う。

「ルダレスの民たちが昼夜を問わず3000kmの道のりを走り抜けたところにわたしは感動しましてね」

 するとA国大統領、深く胸を押さえて、

「ああもう……わたしも涙が止まりませんでした。A国とB国もかくありたいものですな」

「なりますよ。ここからが幕開けです」

「しかし、そちらではもう三大国との決着がついているのですか?」

「待ってください。どちらまで読まれました?」

「オルフェンスがスメイに救援を求めるところです」

「ん? チャーリーに勝った後ですか?」

「ぶ!!」

 思わず大統領は吹き出した。

「あのチャーリーに勝ったんですか……」

「あ! すみません!!」

 そこまでを読んでいなかったらしい。

「すみません……スメイに救援は、2回求めていたのでてっきり2回目かと・・・」

「いえいえ……」

「早急に翻訳してB国の最新刊が出ているところまではお送りいたします!」

 B国側もとりなしに必死だ。すっかり表情が曇ってしまった大統領に、代表は一生懸命笑いかけた。

「うれしいです……」

「1回目の救援の辺りからですね!? リサが死んだ辺りですか!?」

「ぶーーーーーーーーーーー!!!」


……会談はその後、決裂に終わった……。

日本と韓国の話ではありません

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