貴公子の憂鬱
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ロジェ目線です。微R指定。
領地で起こる問題を解決して周り、土地を良くする仕事は、とても疲れる。馬車さえ通れない場所にある村を回り、収穫の様子や、建設途中の建物など、見るものも多い。
そうして今日も日が暮れた頃に馬車が門をくぐり、屋敷の前で止まる。ハットを直しながらステッキを持ち、馬車を降りるとすぐに屋敷の扉が開く。
「おかえりなさいませ」
扉を開けてくれたグルテが笑顔で出迎えてくれて、それに言葉を返しながら屋敷へ入ると、目の前にルファもいた。
彼女はあまり好きではないようだが、灰色の髪は、玄関ホールのシャンデリアの下、キラキラと色味を変化させて輝いている。彼女の透明度の高い青色の瞳は優しく細まり、柔らかく「おかえりなさい、ロジェ」と言って微笑んだ。
それだけで、どれほどこの疲れが吹き飛ぶことか。
「ただいま」
いつもはコートを脱いで渡し、更にとハット、ステッキも彼女に渡してしまうのだが、今日は疲れていたせいか、少し理性が緩んでいた。
優しく笑うルファを抱き寄せ、頭部に口づけを落とす。ふわりと甘い香りがして、鼻を髪に埋めた。ルファはいつも自分の髪が痛んでいると言っているが、確かに痛んではいてもしっかり手入れされた彼女の髪は艶やかで香りが良い。さらさらと指をすべる触り心地もロジェは気に入っている。
「あ、あのロジェ……」
人前でロジェがくっつくとルファはいつも恥ずかしがる。そろそろ慣れてほしいのだが、恥じらう姿もまた可愛い。どうせ見ているのは使用人なのだが、ルファはやはり気になるらしく離れようともがく。
それを逃さないようにぎゅっと抱きしめると、ようやく彼女は観念した。
「外の香りがする。……森へ?」
すん、とロジェのコートに顔を寄せたルファは、コートについた香りから森にいた事がわかったようだ。腕の中でそんな場違いな事をもらすルファが可愛くて、ロジェは彼女の小さな耳に口を寄せて、低い声で囁いた。
「どうして森だと?」
わざと問いを耳元で囁くと、彼女の耳が赤く染まり、ひく、と小さな体が震えた。
「く、草の香りがしたので……」
「そうなんだ」
質問は特に意味もなく、たいして興味もない。ロジェは顔まで真っ赤にしているルファの頬に口づけを落とし、彼女の頭に顎を乗せて、ため息を吐いた。
「はー、早く抱きたいな」
「坊ちゃん!」
後ろで控えていたグルテが思わず呟いたロジェの言葉に素早く反応して叱責した。怒られるのはいいが、感情が高ぶるとすぐ坊ちゃん呼びに戻るのが困る。
そんな事を思いながらルファを解放すると、彼女は真っ赤な顔を更に熟れた林檎のようにしているルファを見て、苦笑した。
「ルファ、ほら夕食へ行くよ」
固まっている彼女に笑いかけ、その手をひいて、ひとまずコートを脱ぎに自室へと向かった。言葉も紡げず、ルファはロジェに引っ張られるままだ。それに悪戯心が湧いて、ロジェの自室に入り、ひとまずステッキとハットをテーブルに置く。
ルファと言えば、ようやく我に返ったようで、脱いだロジェのコートをコートハンガーへとかけてくれる。
「ルファ」
暗い部屋の中、わずかな灯りだけで照らされているルファの姿は、酷く頼りない。儚く消えてしまいそうなその姿は幻想のようで、彼女の名前を呼んで両手を広げる。
「ルファ」
戸惑っていたルファも、おずおずとロジェの方へやってくる。しかし、飛び込んではこないのか、おどおどとした様子でロジェの胸の中におさまりに来た。それを抱きしめると、安心しきった彼女が小さく微笑んだのがわかった。
人前でなければ、ルファもこうしてロジェと触れ合うのを喜んでくれる。
しかし、逆に抱きしめるだけだと安心しきっているのも面白くない。ロジェがどんな思いで、どれほど我慢しているかなんて、ルファにはちっともわかっていない。
──だから、それをわからせてもいいよね。
少しだけ、と自分に言い訳して、大人しく抱きしめられているルファの頤を掴み、上へ向かせる。驚いて目を見開くルファの顔を至近距離で堪能し、そのまま小さな唇へ口づけた。
「ん……っ」
きゅ、と自分のシャツをルファが握りしめる。触れるだけの口づけを繰り返すと、ゆっくりとルファの緊張がほぐれていくのがわかる。その隙を狙って、空気を取り込もうとわずかに口を開いたルファの口内へ、舌を差し込む。
ぬるり、と動く舌に、驚いたルファは体を強張らせたが、続けるうちに舌を絡めるのに彼女は夢中になっていた。顔を火照らせてぼうっとした様子で、ロジェの動きを真似するように彼女の舌も動く。
ルファがそれに夢中になっている隙に、彼女の体のラインをドレスの上からなぞるように撫でた。小さな尻も、細い腰、くびれたウエストの順で上に上がり、背を撫で上げ、片手をルファの胸に添える。揉むのではなく、あくまで撫でるようにドレスの上から触ると、彼女が目を開いてしがみついてきた。
「ん、……ロジェ」
砂糖でとかされたようなその甘ったるい声に、ロジェの理性が焼き切れる。ルファを壁に押し付け、白い首筋に噛み付くように口づけながら足を開かせ、ドレスをたくし上げ、そしてその秘められた彼女の足の奥へ手を伸ばそうとした──刹那。ぐう、とルファのお腹の音が鳴り、動きを止めた。
「あ、あああの……、まだ、何も食べてなくて、それで……!」
腹の音を聞かれたのが余程恥ずかしいのか、彼女は両手で顔を隠しながらわたわたと弁解をする。その姿を見て、ロジェの理性が戻ってくる。ふう、と息を吐き、乱れた自分の服を直し、彼女の乱れた髪も整えてやる。そうして扉を開け、手を差し出しだ。
「確かにお腹すいたね。ごめん、待たせて」
結婚もしていないのに早すぎる。そう自分に言い聞かせてロジェは苦笑する。ルファはロジェの手を握りしめ照れた笑みをこぼす。
その笑顔に、またじりじりと理性が焼かれていく。
──ほんと、早く結婚しないと。
いつまで我慢できるか、自分が怖い。
ロジェはそのまま犬のように待てさせた状態でいればいいと思う。




