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灰色人魚の婚約者  作者: 天嶺 優香
一 婚約者、発覚
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2

「遅いわよ、このノロマ!」

 人魚館で身支度をするための化粧室へ入ると、先に待っていた人魚達は開口一番に罵倒を飛ばした。

 ルファは軽く頭を下げ、すぐに床に散らかった彼女達の衣服を拾っていき、それが終わると椅子に座った一人の人魚の前に素早く屈みこむ。

「さっさとしなさい。 今日は私が一番手なのよ」

 披露用の衣装に着替えたその人魚は目を閉じ、ルファに化粧を施されるのを待っている。これ以上待たせるとまた罵声が飛ぶに違いない。

 部屋から持ってきた化粧箱から道具をいくつか取り出し、すでに蜂蜜を使って保湿された肌に、鉛粉(えんぷん)を叩きながら色をつける。

 肌がみるみる白くなる鉛粉は、以前から女性の間で話題になっており使用者が多い。しかし、肌の影響は悪く、白い肌を手に入れる代償にその肌がぼろぼろになってしまう。

 ルファ はもともと色白で用いる必要はないが、日に焼けた肌や、さらに白くしたい者はたとえ有害でも使いたがる。

 ルファがいくら止めても怒鳴られるだけなのでもう諦めたが、なぜここまで白に固執するのかが理解できない。

 内心で飽きれながらも眉や目元を(いろど)り、唇を水銀で色をつけ、真っ赤に染める。こちらも有害だが、唇を真っ赤に染めないと気が済まないらしい彼女達は有害だと知りつつも使用している。

 そのうち見るも無残な肌になるわ、とひっそり毒づいていると、背後の席で準備をしながら話していた人魚達が、ルファが化粧をしている人魚に話しかけた。

「ねえ、もう聞いた?」

「公爵家の方のこと? もちろん聞いたわよ。一昨日頃でしょ、帰国されたのって」

「そうそう! まさかこんなに早く戻ってきて下さるなんてね」

「留学って聞いた時はもう一生お目にかかれないって思ったのに、たった半年だなんて嬉しい誤算よ!」

 色めき立つ人魚達の会話に耳を立て、おおよその見当をつける。

 彼女達が話しているのは半年前に近隣国へ留学した公爵家の長男ロジェ・ハーキントン侯爵に違いない。ルファは実際に見た事はないが、随分と容姿の整った人ではあるが、かなりの変わり者らしい。

 白色をもっとも尊重──否、崇拝するルテリア公国では邪道とされる黒を好むらしく、全身いつも黒、黒、黒の一色。真っ白に染まった国でそれはかなりの異端で、周りからも浮き、他の貴族達からかなり嫌われているらしい。

 しかし、彼の容姿はあまりにも整っているらしく、女性であれば人魚になれたであろう、雪のような白髪を持つという。目は惜しくも海の瞳ではない様だが、それでも信奉者(しんぽうしゃ)──特に女性──は多く、たとえ変わり者でもあの容姿なら、と彼に目をつける。

「でもほら、あの人はエリーチェが狙っているらしいじゃない?」

「......本当に? あのエリーチェが?」

「らしいって噂よ。 昨日行われた帰国パーティーで、 堂々と寄り添ってたって話もあるし、何しろ半年前も彼とはかなり噂が立ってたじゃない」

 エリーチェとは人魚館の中で現在もっとも高い人魚基準を持つ女性で、彼女の部屋は人魚館の最上階にあり、めったに姿を見れない。まだ嫁ぎ先は決まってはいないが、どうやら貴族達が高額で競り合っているらしい。

「エリーチェって夫人の娘でしょ? いくら高額を出しても彼女がワガママ言えば叶うわよ。だからあんなに自由がきくんだし」

 バセット夫人の娘であるエリーチェは──血の繋がりは不明だが──かなりの自由を与えられている。本来なら人魚は人魚館から出られず、唯一敷地内で開かれる披露会でのみ見ることができる。

 しかし、エリーチェは自ら貴族達とのパーティーに出席するために、外出が出来る。ルファと同様かなりの嫌われ者だが、幸いエリーチェは滅多にここへはやって来ない。

「ま、あんなワガママ女、あたしが男だったらごめんだわ」

「尻に敷かれて貢がされて、最終的にポイされるわよ」

 なんだか居心地の悪さを感じながら手早く化粧をすませ、ここから逃げるためになるべくさりげなさを装って先程拾った衣服を持ち、部屋を出た。

 廊下を歩きながら、無事脱出できたことに安堵の息をつく。

「本当に意地が悪いわ。あることないことしゃべって......」

 しかし、彼女達が文句を言いたくなる気持ちはわかる。エリーチェ以外の人魚達は一切外に出れない。ルファは数回外に出たことがあるが、すべて外のホールで歌うためだ。

 人魚はその希少価値を上げるために人魚館以外へは決して姿を見せてはいけない。だから人魚の条件を満たしたと判明した時から庶民の娘達は人魚館へ引き取られ、 幼い頃から外出をすることが叶わない。

 貴族出の人魚であればそんな不自由をしないにしても、早くから婚約者を決められ、固い規則に縛られるために外出を拒んだり、髪を黒く染めたりする。

ルファの髪色は、白でもなく黒でもない、その曖昧な髪色が同じ人魚達の(かん)に触るのだろうが、人魚館にさえいなければ──人魚の条件を満たしていなければ、 普通の貧しい庶民として暮らせていたのだろう。

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