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状況にはなんら変わりはない。


地面に転がる男が一人。


腕を組んで後ろを向いている男が一人。


銃を構えたままの女が一人。そしてその横で成り行きを見守る老人が一人。



ただ空気だけが張りつめていく。呼吸さえ憚られるような静けさ。


灯の消えた倉庫街、明かりはヘッドライトだけ。



それぞれの思いが渦を巻き、複雑に絡み付いていた。




こんなにも死というものを、身近に感じたことはない。


すぐ隣に死神が鎌を構えているようで、荒い呼吸がなおさら粘りつく。


力が欲しい。死の間際でそう思った。結局、誰一人救うこともできず、ただ地面に転がる自分が情けなかった。


また、君にその顔をさせてしまったね。


胸を罪悪感が通り過ぎる。



君の幸せはどこにあるのだろうか?


そこにいるということは、きっとそういうことなんだね。


ああ、もう享受の段階まで進んでしまったらしい。


あるがままを受け入れるしかないと歌ったのは、ビートルズだね。


もう指先さえ動かないよ。



じいん、と痺れる感覚が脳を襲う。強すぎる痛みを麻痺させるように、脳内で大量に分泌されているのだろう。


こんなにも覚めているのに、刻一刻と眠りが近づくのがわかる。そしてそれはきっと永久の眠り。



思い残したことはなんだろう。


まるで羊水の中を泳ぐような、痺れる感覚のまま、漠然と考えたのはやっぱりリコのことだった。


「リコ…リコ!!」


答えなどいらない、だけど俺は必死に叫んだ。


君の中の君に届けたくて。



急に名を呼ばれて、身体がビクリと跳ねる。


誰?あたしを呼ぶのは。


引くか、引かないのか、という二択にしか目が向いていなかったあたしを現実に引き戻したのは、やっぱりあなただったのね。



聞こえているかなんて知らない、わからない。


ただ精一杯の力で叫ぶ。


唯人の想いを無駄にするな!!と。



『しぶといな。どこにそんな余力が…。なるほど、クイーンが選ぶわけだ』


目を細めながら、ふむ、とあごに手をやり、つるりと撫でる。


と、同時に隣にいるクイーンの表情の変化に戸惑いを隠せなかった。



何もかもを信じない凍った瞳の奥から、それを溶かす熱さの涙がこぼれていた。


ワシが作り上げてきた仮面が剥がれ落ちていくではないか。


このままでは危険だと長年のカンが告げる。


だが、老いがその行動を一歩だけ遅らせた。カチリと突きつけられる銃口。

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