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『これ以上誰も傷つけたくない!!』
潤んだ瞳で叫んだのは、本当にクイーンなのか?
もう後ろを振り返ることもないと、視線を切ったナイトの視界に飛び込んできたものは、状況を根底から覆すものであった。
『何をしている!!狂ったのか!?』
駆け出そうとする身体を、キングは左手で制した。
そう、迂闊に近づけば、キングの命が危ない。目の前の光景に、思わず我を忘れていた。
『お前は相変わらず、冷静さが欠けているな。もうちょっと頭を使え』
そんな状況の中でも、何ら日常と変わらないような台詞。その精神力には、小さな驚きを隠せなかった。
『…非常に残念だな』
リコの方を振り返り、突き付けられた銃口など意に介さず、話を続けようとするキングに、もう一度狙いを定めた。
『…あたしは本気よ』
手のひらに溜まる汗。どんどんと速度を上げる鼓動。それに気づかれないように、しっかりとグリップを握りしめる。
『それはなおさらだ。一体どうしたんだ?ワシが教えてやったろう?冷静になって、メリットとデメリットを考えてみるんだ』
聞いちゃいけない。一度かぶりを振り、何も答えずにただ目の前のキングを見据えた。
ふう、とわざとらしくついた溜め息。
『お前には失望したよ。せっかくワシが手をかけて育てたのに、そんな一時の感情に左右されて、道を誤るなんてな』
『間違ってなどいない!!』
聞くな、答えるな、と頭では理解していても、動き出した感情は留まることを知らなかった。
『クイーン。忘れたのか?感情は利用するものであって、利用されるものではない。そうだろ?』
誰も信じない瞳は、真っ直ぐにリコだけを捉えていた。
寂しげで、悲しげな目。それは自身の虚無感を刺激する。
あの日、あの瞬間。もう誰も信じないと決めたあの時を思い出してしまう。
背中で消えた命の重み。その呪縛は解けてなどいないのだ。
『もう一度思い出せ。あの時、誰がお前を救ってくれた?誰が弟を救ってくれた?』
ダレモタスケテクレナカッタ。
カミサマナドイナイ。
シンジラレルノハオノレノチカラノミ。
刷り込まれるように、教えられたルール。
自分から感情の波が離れていくのがわかる。
人工的に作られた無機質のような、あたしの中のあたしが目を覚ます。
リコが対峙しているのは、目の前のキングではなく、それに作られたクイーンであった。




