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扉一枚の間にどれほどの壁があったのだろう。
リコと向こうにいる"ナイト"との壁。
俺が生きていた世界との壁。
もちろん俺たちは今、現実的に同じ側にいるのに、その間にも大きく高い壁を感じた。
【戻れないか?】と尋ねる彼の言葉には妙な説得力さえ感じて、意識しないようにしていても、まるで刷り込みのように、あちら側に戻る人間なのではないか、とさえ弱い心がさえずりだす。
だけど、心のどこかで迷わずに信じている。リコが否定してくれることを。
『今さら戻れないわ。戻る気があれば…あんなことはしないでしょう?』
吐き捨てるように力強く"戻れない"と宣言するリコに、そっと胸を撫で下ろした。
『きっと…答えはわかっていたんだよ。初めて会ったあの時から』
少しだけ何かを噛み締めるようにして漏れたのは、それもまた一種の本音なのだろう。
『…そうかもしれないわね…』
幾分と柔らかく、そして切なく響くのは小さな嫉妬。俺の知らない時間、知らない彼女を、彼は知っているんだ。
チクリと小さなトゲが胸を刺すのを、おくびにも出さずその痛みをこらえた。
今はそんな場面じゃないのは、当たり前に理解していたが、感情は理性とは別のところで目を覚ましていた。
お互いに過去を思い出しているのか、僅かに時の流れが緩やかに変わる。ちらりとリコを見やると、険しい顔を変えずに、目だけで笑う。
優しげな目が、逆に俺の痛みを膨らませる。
覚悟ならいくらでもしてきた。そう、いくらでもしてきたはずなのに、今の立ち位置はお荷物でしかないのだから。
『俺にはここしかない。戻るべき場所も、進むべき場所も。戦いの中にしか存在を見い出せはしないのだ』
張りのある声で出されたのは宣戦布告。まるで獅子の咆哮のようにビリビリと空気が震えた。
『あなたは…いや、言葉はこれからは平行線ね…』
「違う」
気づいたら叫んでいた。
意識が俺に集中するのがわかる。
「進むことも戻ることも出来るんだだけどあんたはその可能性を捨てちまっただけじゃないか考えることを忘れて、ただ楽な方に逃げただけだ」
『…お前に何がわかる』
鼻で笑うようにして吐き出された言葉。
確かに、俺は何もわかってはいない。だけどそれを許せはしなかったんだ。
二人のこれからのためにも。




