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このご時世、連絡のない来客など、招かれざる客に違いない。
セールス、新聞、NHK…。いずれにしても、ドアを開けたくはない。
ちらりとリコの顔を見やると、少し緊張した面持ち。その表情だけでテレパシーのように察した。
…ドアの向こうにいるのは、敵。
荒れた室内に走る緊張。窓から容赦なく吹き込む冷気に、吐く息も白い。カーテンも風に煽られて揺れる。
窓の方から玄関の方に身体を向ける。背中に走る緊張と、拭いきれない不安を抱えながら、一歩ずつ慎重に歩を進める。
玄関と居間を隔てるドアノブに手をかけたとき、もう一度チャイムが鳴った。
何があるかわからない。手をかけたまま、一度返事をする。
『そこにリコはいるんだろ?話がしたい』
落ち着いた迫力のある低音で、真っ直ぐに言う。
こいつは違う。今までの誰とも。自分なりの美学なのか、話がしたい、と正面からドアを叩くなんて、小者にはできるはずはない。
もう一度振り返ると、視線だけで頷きを返す。
それを確認して、玄関への扉を開いた。
『君も不安だろ?そのままで構わない。時間は取らせないつもりだ』
俺の心を見透かすように、落ち着き払った態度は、自信の現れなのだろうか?
その声に応えるようにして、リコが声を上げる。
『それがあなたの悪い癖ね。話が通じるとでも思ってるの?』
まるで体温など感じられない冷たい声。
思わず耳を塞ぎたくなるほど、冷たく響く。
『相も変わらず口だけは達者だな。そちらの青年も苦労しているだろう』
ドア越しで見えるはずもないのに、鋭い洞察力での読み合いが続く。
俺の役目は…ただ黙って聞くよりほかは無いのだろう。
『そんなことあなたに言われる筋合いはないわ。本題は何?』
『つれないな。しょせんは相容れないと言うことか。では…単刀直入に言おう。戻るつもりはないのか?』
…戻る。それは俺が見てる世界とは別の世界。より近づいた俺にはそれがよくわかってしまう。
戻るべき場所。それは…あちら側なのか、こちら側なのか?
リコ自身も揺れ動いているのは間違いない。コロコロと変わる表情や人格。それがその証明になるだろう。
リコよりもかなり緊張していた。いや、これは原始的な恐怖。
こちら側に繋ぎ止めているのは、ただのわがままかもしれないのだから。
冷たい響きと、風が吹き込む室内はより気温を下げていく。




