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「具体的にはどうすれば?」
少しだけ複雑な表情で、じっと俺を見つめるリコ。
『そうね…あたしを信じてとしか…この先何があろうと…あたしを信じていて』
そっと俺の両手に触れて、信じろと言う。どんなわだかまりも、裏切りも、過去も捨てて、ただ信じろ、と。
返事の代わりに頷いて、大きく息を吐いた。そして信頼の証しと…もう一度強く抱きしめた。
もう迷わない。ただまっすぐに、信じる。生まれたての赤子のように、目の前にいる君だけを。
静かに、自然に身体を離し、彼女はパソコンのスクリーンセーバーを外した。
デスクトップから、ログイン認証を経て、出てきた画面は、俺が探していた鍵だった。
住所や氏名、電話番号はもちろんのこと、職業、家族構成まで羅列された顧客リスト。あの黒いだけの画像と対になる鍵。
「これを持って警察に行けば…」
『無駄よ。確かに何人かは捕まるでしょうね。…あたしみたいに末端の人間は』
そうか。偉いやつは手を汚さない。それもまた社会のルール。
「その線は無理ってことか…」
モニターを見つめながら、腕を組んだまま、呟いた。
『そうね…そんなに簡単ならとっくに潰れているか…あたしが辞めているかだよね』
悪びれもせず、ハッキリと彼女は言う。
そんなものに手を出す方が悪いということか。他人や自分と向き合えずに、逃げてしまったのだから。
『これはただのご褒美よ。あなたへの信頼の証』と、一枚のロムを差し出した。
「…これは?」
『あたしを信じられなくなったら、これを持って警察に駆け込めばいいわ』
「俺が裏切るとでも?」
『人は裏切るものよ。あなたが一番知っているでしょう?』
完全に信頼した矢先に、薬を盛られたのは記憶に新しい。苦い苦い記憶。胸のどこかが痛くなる。
『…もしあたしが失敗したら、これで取引すればいい。あなただけは無事でいてほしいの』
蚊の鳴くよりか細い頼りない声で、小さく顔を伏せた。
「わかった…でも俺は信じてる。バカみたいでも、ずっと…」
それだけの覚悟と決意。俺は大切に胸ポケットにしまった。