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静寂。抱きしめた瞬間、そこには何の感情もなくて。夜の間に静かに積もる雪のように、静かだった。
涙が流れるのは悲しいからじゃない。行き場のない感情が溢れているだけ。
状況は何一つ変わってやしないのに、またリコを抱きしめることができた、ただそれだけで震える手。
前よりも少し華奢になった気がする。折れそうなほど細い腰。心ごと抱きとめて。これからのことなんて何一つ確かなことはない。だけど、あの時の歌のように…君が今夜腕の中に居てくれるなら―全てうまくいかせてみせる―
震える手を握りしめる。リコに気付かれないように。その気持ちが伝わったのか、俺の手を両手で包み込んだ。ただ、黙って首を横に振って。
涙が止まらなかった。大人になって初めて声をあげ泣いた。
「怖かった…」
いなくなることも、違うリコになってしまうことも。やっと吐き出すように言えたのは、それだけだった。
グルグルと回るエピソード。出会いから裏切りまで。怖くないはずがない。まだおさまらない震えがそれを物語る。
「笑って…くれないか?」
『そんな気分にはなれないわ』
痛みと悲しみを宿した瞳。それを伏せるように静かに吐き出す。
「わかってる。だけど、リコが笑ってくれたなら…きっと大丈夫にしてみせる」
小さくクスリと微笑んだ。
『バカね…本当にバカ』
ああ…それでいい。そのために俺は…ここにいるのだから。
「死んでも治らないのはわかっただろ?」
口の端を持ち上げて、深く息を吐き出した。
『もう一度だけ聞くわ。今なら…戻れるわよ、日常に…』
「わかってるだろ?覚悟はできてる」
そう、ここにいることが全て。
『その覚悟とか…使命感とか捨てられる?』
気負うのは仕方ないだろう。それを捨てられるのか?
「どうして?」
『自然体じゃなきゃ乗り越えられないのよ』
初めからすべてを見通したようなセリフ。大きく一度深呼吸をした。感情を捨てるんじゃない。フラットして、ナチュラルに戻すんだ。深く潜るイメージ。海の底。暗闇だけが広がる中に一筋の光。その光はきっと…リコの笑顔。
そっと目を開いて、静かに頷いた。
「どうせリコのことだ。もうシナリオはあるんだろ?」
指を組んで静かに吐き出す。
それに柔らかな笑顔で応える。
そう…反撃はこれからだ。幸せになるために…二人の未来のために。もう一度だけ勇気を下さい、と小さく祈った。




