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「あいつはいい奴だった」
『いい奴ほど、先に死ぬのよ。憎まれっ子は…生き延びる。そういう風に出来ているの。世界は』
力無い正義もまた無力。それなら、力有る悪の方が…ということか。
確かに、真面目に努めている奴より上司に巧く取り入る奴の方が出世も早い。
「かもしれないが、俺は…」
『所詮、偽善よ。あの子がいなくなったって、世界は普通に回るのよ。世間は自分じゃなくて良かったと。養父母は、食いぶちが減ったと喜ぶのよ』
叫ぶようにさらけ出す本音はまるで嵐。言葉を遮るようにぶつけられているのは、きっと彼女の根の部分。暗くて深い闇の底。
「俺は違う」
『ならあたしを撃ってよあたしが生きている限り誰かを不幸にしてしまう今さら組織も裏切れない。なら…いっそあなたの手で…』
初めからそれが狙いだったのか。俺はそのために…選ばれたわけだ。
パラドックス。好きだから撃って楽にする。好きだから撃てない。
前者はリコのため。後者は自分のエゴのため。
突きつけられた二つの命題は、思考回路を狂わせた。
『意気地なし』
一瞬、ほんの一瞬の隙をつかれ、彼女は自ら胸に銃口を押し当てた。
『あたしが大事なら、できるでしょ?人差し指を動かすだけ。簡単でしょ?』
ダメだ。聞くな。これは暗示だ。マインドコントロールだ。
大事なら指を動かすのは簡単。そう意識に刷り込むことで判断を鈍らせるつもりだ。
手首を両手で掴まれ、胸に押し当てた銃口。冷たい銃の感触と硬質感が、手に不快感を残す。必死の力で抗い、何とか胸から引き剥がした。
「簡単なわけないだろそう楽な方に逃げるなよ」
『…あなたならきっとあたしを殺してくれると思ったのに。とんだ見込み違いね…』
荒んだ物言いに怒りと悲しみを覚えた。身近な肉親の死はこんなにも人を狂わせるのか。
「リコ…もうやめよう?自分を傷つけるのも、諦めるのも…」
『無理よ。さっきから言ってるでしょう?止まれないのよ』
「でも君は止まりたいんだろ」
『でも、もう遅いのよ。すべて…』
達観したように、冷静に吐き出したのは、諦めの言葉。止められないのか、俺には。無力感だけが胸を締め付ける。
もう一度握っていた銃を静かに向けた。自分のこめかみに。
『ちょっと何やってるの?冗談はやめて。そんなこと意味ないわよ』
「かもしれないね。でも俺にはもう…これぐらいしかないんだ」




