-73-
『今がそんな状況じゃないのはわかるわよね?』
諭すようにため息混じりで吐き出して。
それぐらいわかってる。それでも、口にしなけりゃ伝わらないから。
「君を止める手段が見つからないんだ。俺がここにいる理由さえわからない。もうとっくに理論でなんか動いていない。感情のまま、本能のまま…動いてんだ」
そう、冷静になんかいられない。ずっと心のままに。
『それじゃあ無理よ。感情に左右されれば、そこを狙われる。隙は見せちゃ駄目なの』
「そんなのは人間じゃない感情が動くから、行動するんだろ?すべて理知的になんて神様でも無理だよ」
『それでもあたしはそう生きてきた。そうじゃなきゃ…きっと…』
悲しみに彩られた複雑な表情が、言葉より雄弁に語る。
「だけどもう違うだろ君は思い出したはず。それならあの紙飛行機を捨ててみろよできないだろそれが当然なんだよ」
熱くなっていた。そうなればなるほど、まずいのは知っているのに。感情のコントロールができるほど冷静になんてなれない。
『…捨てられるはずないじゃない…。あなたは…残酷だわ…。こんなにも計画を狂わされるとは思わなかったわ』
「リコ。もう一度だけ聞きたい。その計画とは?君の目的はなんだ?」
『…言えない。言わないんじゃなくて、言えない。…これが最後よ』
言わないのではなく"言えない"。
その理由は?
…ハッと気付く。
「もしかして…シンは?」
『今頃、行方不明になっているでしょうね。捜索届のない行方不明者は警察でさえ捜索しないのよ』
「リコ。どうして…」
『どうして?わかるでしょ?組織には裏切りは許されないのよ』
俺のせいだ。がくりとその場に膝をついた。俺が彼の元を訪れなければ…。
『あなたのせいじゃないわ。きっと遅かれ早かれこうなっていたのよ』
冷たい響きに、吐き気がした。
目の前がグルグルと回る。暗く重い事実がのし掛かる。間接的にとはいえ、俺が殺したようなものだ。
膝をついた床、その目の前に彼女が落とした銃が見えた。無意識に拾い上げ、銃口を向けた。
「君を止める。力づくでも」
『無理よ。止まれないの。あなたにもわかるでしょ?これが"組織"よ』
緊張が走る。手にじっとりと汗が滲む。向けられた銃口に怯みもしない。いったい主導権がどちらにあるのかわかりもしない。




