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『あなたも見たでしょう?』リコの手には2枚のディスク。
同じ作者とは思えないほど、クオリティに差があるディスク。
やはり…それは。
『…そう、片方は子供のいたずら程度。もう片方は…』
「それが本当のディスクというわけか」
『たぶん、シンも中身は見たはずよ。でもきっと"黒い画像"にしか見えなかったでしょうね』
…黒い画像。解読すれば色番号が並ぶ数字の羅列。木を隠すには森、数字を隠すには数字ということだろう。推測すれば、組織には相当切れ者がいる証明にもなる。
『もちろん唯人さんは…解読できたのでしょう?』
挑戦的な問いかけには、それぐらいできて当然と、ある種の期待がこめられていた。
「どうして?俺はただのサラリーマンだよ?」
とぼけてもバレているのはわかっていたけれど、ペースに巻き込まれたくなかった。
『確かにね。でもあなたは中身に気付いた。そうでしょう?』
「…いや、あの画像にはカギがない。相対表がなければ、解読したとは言えないよ」
リコはニコリと不敵な笑顔を浮かべた。
『期待以上ね…。だからあたしは…』
最初から、俺はリコに目をつけられていたということか。作為の上で。
気づいてしまった瞬間、視界が滲んでぼやけた。
悔しさと悲しさが入り混じり、苦味だけが胸に広がる。
好きとか嫌いとかは、そっちの世界じゃ利用するものであって、感情に左右されては…生きていけない世界なのか。
あの時、俺は怒ったのに、今となれば…世界が違うというのを痛感していた。あれだけ君が冷たく隔ててくれたのに、優しさだとは気付かずに…。
急に地面がわからなくなる。宇宙空間に放り出されたように。目の前にいるはずのリコが近くなったり、遠くなったり感じるのはきっと…俺の心が不安定だからなのだろう。
もう一度自分に問いかける。俺はなぜここにいるんだ?
リコを止めるためだろう?今さら感情に流されるな
揺れ惑う気持ちを必死に抑え、自分を奮い立たせる。
「それでもリコが好きだった」
青臭いと言われようが、俺の素直な気持ち。どんなに背伸びしようとも、結局俺は俺にしかなれないから。
『バカね…本当にバカ』
少しだけ前のような空気に変わる。バカという優しい響きが、二人を包み込んだ。緊迫した状況にはなんら変わりはないけれど。