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まるで月のようだ。日ごと形を変え、追いかければ逃げていく。


目の前に対峙しているのは確かにリコなのに、拭えない違和感が胸のどこかを締め付けた。



「一体どうして君が」


つい声も大きくなる。あの時の涙は…嘘だったなんて思えなくて。


『どうして?言ったでしょう?あの子の帰る家はあそこしかないの』


「…ただ君にもあの手紙だけは読めなかったはずだ。あの紙飛行機だけは。それなのに君は」


『…逆よ。あれを見てしまったから…あたしは…』


「…違うな。止まれない言い訳をそのせいにしているだけだ。君が心を開いた弟のせいに」


『やめてそれ以上言ったらいくらあなたでも許さない』


「どう許さないんだ?何度でも言うさ。お前は全てを弟のせいにした卑怯者だ」



スッと胸元から取り出されたのは、ベビーコルト。手の平に収まりそうな22口径。


『これでも人は殺せるわ』


怪しく光る瞳。冷たく濡れた唇が僅かに持ち上がる。


「君には撃てない」


『どうかしら?』小さく小首を傾げて、セーフティロックをはずし、銃口を向けた。



心臓の音が聞こえる。ドクンドクン…これが生命の音か。走馬灯は見えない。視線は外さない。


「考えればわかることだ。君は自分の手を汚すことはない。傷つきたくないから。弟の死からも逃げている君には、そんな勇気さえない」


『馬鹿にしないで』


頭に突きつけられる銃口にも、どこか冷静なのは、あまりにも非日常過ぎるからなのかもしれない。


「リコ。もうやめないか?自分に嘘をつくのは…」


『嘘なんかついていないこれが本当のあたしよ』


人差し指に力が入る。小さな震え。


「…なら撃てばいい。その震える指に力を込めればいい」



死んでもいいなんて思ってない。だけど…命ぐらい賭けなければ、きっとリコは止まらない。



静かに下げられる右手。


『唯人さん…あなた本当に馬鹿ね…』


「かもしれないな。でも仕方ない。…性分だからな」


『だから…あたしは…きっとあなたを…』


…言葉にはならない。でも痛いくらい伝わる。空気なのか、感覚なのか。



カツンと右手から銃が落ちる。



…やっと戻ってきたね。

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