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行為の拒否は想いの拒否に思われがちだが、それは違う。特に俺とリコの場合には。なぜか…そう感じて。
本能に身を任せたい衝動を必死に殺して、リコの隣に腰かけた。
リコはスッと立ち上がり、ブラインドを開く。
眼下に広がる町並み。その光の一つ一つが生命力に溢れていて。脈々と波打つように、灯る。
「この光の一つ一つが、生きているんだよ。もちろん幸せかどうかはわからないけれど、生きてるんだ」
『…そう…だね…』
小さく呟いた響きに、心が疼く。癒したい。守りたい。そんな気持ちになる。
じっと夜景を見つめ続ける彼女の肩をそっと抱いた。
『唯人さん…ありがとね』
さっきまで泣いていたなんて思えないくらいの、凛とした表情でまっすぐに俺を見た。
…大丈夫だ。この目の輝きなら…きっと。俺はどこか安心してしまった。その裏に隠された決意には気づかずに。
『ねえ…少しだけ飲まない?せっかくこんな高いホテルなんだしさ』
「…いいね。何がいい?やっぱりワイン?」
『そうね。それがいいわ』
ルームサービスの中から奮発して、一番状態の良い白ワインを頼む。
キリリと冷やされた、黄みがかった柔らかな液体がグラスに注ぎ込まれる。
本場とは作法は違うけれど、カチンとグラスをぶつけ合う。
緊張感で喉が渇いていたのもあり、スルスルと奥に流れていった。
「すごく飲みやすいね」
『はい、ついであげるね』
7分目まで注がれたワインを、3分目まで飲み干したその瞬間―突然視界が闇に包まれた。
薄れゆく意識の中で小さくごめんねと聞こえたのは、嘘か真かはわからないけれど。
朦朧とする中で、また彼女は泣いていたんだ。