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『でも、唯人はズルくて、小石とか空き缶とかは届かないから、紙飛行機を飛ばしたりね』
思い出を噛みしめるように、悲しく笑う。つないだ手から温かさは伝わらないのだろうか。
「…きっと、考えたんだろうね。自由になるために…」
今では手を伸ばせば、普通に届きそうな天井だけど、あの頃には高かったのだろう。…待てよ。いや…そんなことがあれば…奇跡だ。
「なあ?弟さんがここに一人でいたりしたことは?」
『しょっちゅうよ。自分たちが気にくわなければ、よく閉め出されたわ。でも、それが?』
…可能性はあるということか。
俺は上着を脱いでリコに手渡した。
「ちょっと離れてて」
こくりと頷いて、壁際に下がり成り行きを見守る。
そこに落ちてた角材のようなものを握り締め…一息に天井を突いた。
木はやはり弱く、簡単に穴が空いた。埃まみれになりながら、何度も何度も、天を突く。
『ねえ?何してるのよ?』
不安のような、悲鳴のようなリコの声も無視して、パラパラと崩れ落ちる板を振り払う。
今ではメーカーもわからないような空き缶、小石、埃。広がるカビの臭いは、身体にいいはずもない。
少し大きめな穴をつくり、手をかけた。懸垂の要領で身体をグッと持ち上げる。
…見えた。思いを乗せると…意外に飛ぶんだな。
目で見た通りの場所の真下に入り、そこを…突いた。
崩れ落ちる破片の中から、手でゆっくりと拾い上げる。窓がないのがよかったのか…意外に損傷はない。
ふうっと息を吹きかけて、埃を飛ばす。確信なんかない。破らないように、そうっと折り目を戻す。
この先は…俺の出番じゃない。
まだ思考が働いていない彼女にそっと、彼の思いが詰まった紙飛行機を手渡して、一度外の空気を吸った。
ポケットをまさぐり、タバコに火をつける。口の中が埃っぽい。俺は、大きなクシャミをして、一度地面に唾を吐いた。
涙を見るのは趣味じゃない。抱きしめるには汚れすぎてる。あの純粋な彼の思いには…勝てはしない。
深く吸い込んで、煙を吐いた。少しだけ目を細める。
昔から涙をごまかすには…目に煙が入ったと言えばいい。
このタバコを吸い終わったら…様子を見に行こう。煙が沁みたわけじゃない目を袖でこすり、もう一度煙を吐いた。




