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人の呼吸音、心音は安らぎを与えるようにできている。BPM60の胎内回帰。
俺の胸に耳をつけて、生きている音を聞かせている内に、重みが増した。
よほど疲れていたのか、それともブランデーの効果だろうか、すぐに寝息をたて始めた。
まだだ。人間にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、今動くと…逆に覚醒しかねない。チッチッと定期的に時を刻む、掛け時計の秒針の音を頼りに、しばらくの間それを数え続けた。
寝息も安定してきた。慎重に慎重に、ゆっくりと左腕を引き抜いた。
俺の代わりに枕を置いて、そっと布団を被せた。
リビングまで歩いて行き、タバコに火をつける。暗い室内に、その炎だけが鈍く灯る。
ふう…白い煙に混ぜるようにして、ため息をつく。
物音一つしない丑三つ時、伸ばした袖口でそっとディスクを手に取った。
…今しかない。スロットに飲み込ませ、すぐにデータをコピーした。ディスクを元に戻し、USBファイルにデータを移す。黒い画像ファイルも、合わせて移し…元ファイルをデリートした。
ただし、パソコンにはオートバックアップがついている。EXEから履歴までデリートをする。ここまですれば…たぶん大丈夫だろう。
無造作にカバンに、ディスクを入れておくぐらいだから、やり方だけは知っていても、パソコンには無頓着なのかもしれないと判断したからだ。
さて…問題は、中身だ。
…つう、と汗が額を伝わり落ちる。意識はリコの寝息に向けながら、左手をCTRLキーの上に置いた。いつでもシャットダウンできるように。
ダブルクリックして開くと…これも画像ファイルだった。
開かれた画像を見ると…日常にごくありふれた海外の風景。これは…どこだろう?
何か有名な建造物なのだろうか、建物の前の道路を車が行き交っている写真。
ただ…それだけ。
…面白い。俺は脇に置いてあった板チョコにかじりついた。絶対に秘密は…ある。
…ただ、ざらつきがひどい箇所があるな…。
違和感を感じた部分、それは…車のナンバープレートと、看板だった。
切り抜いて解像度を上げてみると、よりハッキリした。元あった画像の上に…画像を重ねているんだ。
…それが意味するものは…。
まさか…。看板に書いてある電話番号を控える。
車に書いてあるナンバーも抜き出す。
あとは…黒い画像のナンバーと照らし合わせると。
…少しだけ共通点が見つかった。