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『ありがとう。あたしを好きになってくれて。だけど…』


答えなんかわかりきっている。彼女は俺だけのものになんて…絶対にならない。


「…ごめん。そうだよね」


『違うの。そうじゃないの』


彼女の瞳が悲しみに覆われる。うまく言葉にできないもどかしさ。考えている中身ごと伝わればいいのに、と隠し事を棚上げして思ってしまう。


『明日、一緒に、来て。今はそれしか…言えない。ごめん、ごめんね…』


涙ながらに繰り返すごめんねは…どうしてこんなに胸を抉るのだろうね。



…アザーサイドって何なんだ?リコを縛り付けるものは一体?


聞きたい。でも…聞けない。リコは口を閉ざしてしまうだろうし、案内人を見つけるのもそう簡単には行かない。


名刺もシンプルな一色刷り。手がかりは…ない。



となると…俺にできることは…目の前で泣き濡れる彼女の、涙を拭うことぐらいしかなかった。


指で雫を払い、そっと頬に触れる。そのまま髪を撫でるようにして抱き寄せた。


永遠ではないけれど、何よりも大切な現在を…受け止めよう。確約も保証もないけれど、今、現実に触れ合えている。それを…信じるしかなかった。


面倒なことは明日にまわそう。俺はただ…リコの笑顔が見たいんだ。



もう一度髪に触れ、肩を叩いてキッチンに行く。


きっと涙の後には喉が渇くから。


彼女は…アールグレイでいいだろう。戸棚の一番奥に眠っていた、秘蔵の茶葉を取り出した。



目の前に集中していたから、急に声をかけられビックリする。


「わあ、泣いてたんじゃなかったのかよ」


『だって…一人にするんだもの』


その上目遣いは反則だと思うが。


「泣き顔を覗く趣味はないんだよ」


『そのわりに…よく見るよね?ごめんね』


「ごめんねは…いらないよ。それだったら、いつも泣かせてばかりでごめん、って俺が言わなくちゃ」と言いながら、カップを温める。


…その様子に彼女がいきなり笑い出した。


『普通、男の人ってそこまでしないでしょ?絶対に怪しいよ』


…何が怪しいのだろう?マナー講師の花が大好きな母を持つと、こうなるだけだが。



「一応、お客様だからね。ミルクでいい?それともレモン?」


『お勧めは?ボーイさん』


おどけて言う彼女に、おどけて返す。


「それはストレートで茶葉の香りを楽しんでいただければ。…お嬢様」


幸せな時間はまだ始まったばかり。ティータイムぐらいの余裕は必要だろう。

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