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吐き出してはみたものの、後味は悪いまま。
すっきりとしないのは、きっと自分の中にある罪悪感なのだろう。
昔からそうだ。いつも肝心な二択は、ハズレくじを引いてばかり。あの時に戻れるなら、あの画像なんて見ないのに。…そして、ありのままに彼女を感じるのに。
…だけど、時は誰にでも平等で決して戻ることはない。
覆水盆に返らず。仕方がないんだ。俺はもう…知らない頃には戻れない。
「いい人なんかじゃないよ。それならきっとリコの方が…」
『自分を否定すると、信頼してるあたしを否定することにもなるのよ?』
脅迫にも取れるようなセリフを、笑顔のまま言われちゃ逃げ場所なんてない。
「大丈夫。もう落ち着いたから」
『でも…もう少しだけ、このままでいさせて。あたしも落ち着くんだ』
抱き合う形から、くるりと背中を回し、腕の中に収まるリコの髪に触れる。ちょうど左腕に頭が乗るように調節して。
甘えてるのだろうか。…それを受け止められているのだろうか。
『ねえ?今日泊まってもいい?』俺を見上げるように、リコが言う。
…迷っていた。理性とか、欲とかではなく、君を知りたかった。
「お互い子供じゃないんだ。それがどういう気持ちにさせるのか、わかって言っているのか?」
キツい言い方になるのは仕方ない。今すぐにでも抱きたい衝動に駆られる。
悲しみを癒すには、欲望に流されることも必要だと、勝手に決めつける。正直、理由なんてどうでもよかった。目の前にある優しさに甘えたかった。
『わかってるわ。でも…あなたにその覚悟はあるの?あたしが何者でも受け止められるの?』
急に人が変わったように、あの冷たい表情をする。
"覚悟はあるの?"
あたしに手を出すなら、欲望だけじゃすまないのよ。…と暗に言われているみたいだ。
まるで孤高の薔薇。遠くで見る分にはキレイだけど、触れるのにはトゲが邪魔をする。
その言葉が、俺を欲望の渦から救い出してくれた。
「ごめん。今日の俺はどうかしてる。夜に…一人に耐えきれそうになくて…リコを捌け口にしようとしてた」
『…正直だね。それでもあたしはかまわないんだよ?でも…そういうあたしが欲しい?唯人さんは…』
それでもかまわないと言う彼女のことが、何よりも寂しく見えたのは、きっと…気のせいじゃないだろう。
「そうだね…俺が欲しいのはそんなリコじゃない。本当の…お前が欲しいんだ」