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まどろんでいた。夢でさえ幸せな気分にもなれず。
着信を告げるメロディー。わかってはいるのだけど、指一本動かす気力さえ湧かない。
辿り着けなかった。その思いが余計に気分を暗くする。
やっとの思いで身体を動かし、天井を見つめる。
タバコのヤニが模様のように、シミをつくる。
…ああ、大掃除もしないとな…。
そう思いながらも、胸ポケットからタバコを取り出し、火をつけた。
…今何時だろ…。無意識に携帯に手を伸ばして、時間を確認する。15時36分。疲れていたのだろう。会社が休みでよかった。
ベッドのスプリングの反動を利用して、立ち上がることに成功する。服を着たままだったからか、首と肩に鈍い重みを感じる。
大きなアクビを一つして、リビングに向かい、冷めたコーヒーを注ぐ。
…そういえば、さっき携帯鳴ってたな。
冷めて苦味を増したコーヒーに顔をしかめながら、携帯を開くと、メールと着信が残っていた。
メールは…リコからだ。着信は…実家からか。
着信履歴からリダイアルする。
「もしもし?母さん?どうした?いつって…その内。決めたらまた連絡するから」
年末の帰省の話だが…帰省というほど遠くもない。母さんの愚痴に付き合えということなのだろう。
さて…メールか…。少し憂鬱な気分になりながら、受信ボックスを開く。
【今晩遊ばない?もうお金はいらないから】
…背筋にヒヤリとしたものを感じた。バレたのか?いや…間違いなく眠っていたはずだ。もし狸寝入りなら、ツバを飲み込む動きでわかるはず。だけど…あそこまでお金にこだわりを持っていた彼女が、タダでいいなんて言うとは思えない。
…罠だろう。直感的に思った。どうするのが一番いいのだろう。俺はまるでまな板の上の鯉だった。
逃げ場所なんてない。
…だけど、微かだけど何も気づいていない可能性も…ないわけではない。
家に帰りたくないし、二日間一緒にいて波長が合ったのかもしれない。無防備な寝顔を思い出し、わずかな希望もあると思い込んだ。
わざとらしく探ってみるか…。俺は携帯の返信ボタンに触れた。
【今のところ空いてるけど、急にどうしたの?いつも俺ばかりで大丈夫なの?】
まもなく返信がくる。
【昨日は寝ちゃって話せなかったからさ。今日はあたしが奢ろうかと思って】
腹の探りあいなのか、最もらしい返事。
虎穴に入らずんば…か。思わず、ひとりごちた。