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「そんなことで騙されないぞ」
体を押しのけ、距離を取った。
リコは悲しそうな目で俺を見て、ため息を吐く。
『そんなに信用できないのに、どうしてあたしにメールしてきたの?あたしだって、あれを無視してくれたら…きっと、普通にいられたのに』
そう、癒されたくてメールしたのは…俺の方なのに、いざとなって、どうして拒絶してしまうのだろう?
彼女はスッと立ち上がり、隣に腰を下ろした。
『いいよ…全部吐き出しちゃいなよ。変に大人にならずにさ、素直になりなよ』
俺に少しだけもたれかかりながら、リコはそう呟いた。
葛藤。ぶつかり合う気持ちの渦。寄せては返す感情の波。相反する二つの気持ちがちょうど等しくなる。
完全なる"無"である。
リコの髪の毛を一房握りしめ、ごめん、と呟いて、あの子のことを思った。
忘れたい、でも忘れるには"日常"に深く食い込みすぎていて。けれど…前に進まなきゃいけないんだ。
閉じていた目を開いて、まっすぐにリコを見つめた。胸が高鳴る。思わず吸い込まれそうになる気持ち。
彼女が静かに目を閉じた瞬間に、俺は首を傾けた。
「信じたいんだ。怖いけど。そうじゃなきゃ…始まらない、そうだろ?」
『そうね…。本当に欲しいものを手に入れるなら、努力以外の何かも必要になるかもね』
「かもしれないな…」
並び合うグラスのように、俺たちも自然にもう一度、唇を重ねた。
満面の笑顔の彼女。すごく独り占めしたくなる。誰にも見せたくない。いや、俺だけのために笑っていてほしいんだ。
話し合いも終了し、バーテンのシンくんに合図をすると、興味津々な様子でニコニコしていた。
『リコの彼氏ですか?何を話していたんですか?』単刀直入に聞かれても…。
思わず苦笑いしていると、軽く彼女に一蹴されていたが。
3人で楽しく話す内に、疲れなのか、安心感なのか、彼女は眠ってしまっていた。
『寝ちゃいましたね。普段はこんなことないのに』
「普段はそうじゃないんだな」
『…ですね』
男2人では会話も盛り上がるはずもなく、どんどんと酒を流し込む時間が増える。
…ん?そういえば、と先ほどの紙の包みが気になった。
CDサイズの紙袋。あの中には…何が入ってるのだろうか?
純粋な好奇心で何気なく、シンくんに尋ねると、借りていたCDと、彼は言い張ったが、ほんのわずかな動揺を俺は見逃さなかった。