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キングをキングたらしめたもの。それはひとえに並外れた洞察力に他ならない。
人身掌握術など生ぬるい言葉ではなく、支配するのだ。
まるで棋士のように、何十手も先まで読んでしまい、それをなぞるように話を進めていく。
ただ、リコだけは違っていた。
誰も映さない瞳は、誰も信じない。
そこに魅力を感じたのだ。
どんなに力はあっても、老いには勝てない。
後継者たるべく作り上げてきた最高傑作が、こんな形で壊されるなどあってはならないのだ。
およそ初めてとも思われるような読み違いも、感情を剥き出しにして向かって来たから容易く掌握できた。
…が、不満は残る。
どうしてあの若造を信じてしまったのか。
把握できないというのは、性に合わない。
銃口を突き付けられながら、そればかり考えていた。どんどんと虚ろになる瞳を見据えたままで。
葛藤。
どんな相手にも冷静かつ冷酷に、判断をしてきたあたしの最大の敵は自分だった。
駆け巡る想い。
あの時、味わった深い絶望。
今でも何一つ忘れてなどいない。
あたしを今でもこの世に縛り付けているのは、暗くどす黒い感情だけ。
【違う、そうじゃない】
いくらあたしが言い張っても、あの時のあたしを救える筈もなく。
まとわりつくように思い出すのは苦しみ、悲しみ…そして大きな痛み。
取り戻したばかりの、生まれたての稚児のような脆弱な感情は、黒く強大な力に飲み込まれていく。
【希望を持つから絶望がある。望まなければ、絶たれることは初めから無い】
【実の弟の命を奪っておいて、幸せになどなれるはずもない】
【お前が望んだから、目の前で何の力も無い人間が転がることになるんだ】
螺旋のように絡み付く言葉は、芽生えたはずの感情をいとも簡単に摘んでいく。
まるでガラスのように、細かなひび割れから、粉々に崩れ落ちていく。
唯人さん。いくらあなたでも、もう拾い集められないわ。欠片さえ見つからないよ。
一つの身体に二つの感情。オーバーフロー。
押し出されたのは…やはり柔らかな感情の方であった。
静かに銃口を降ろし、力なくだらんと下げられた腕。
キングは勝利を確信していたに違いない。
にやついた表情が全てを物語っている。
誰もが安心しただろうその時。
がっ。
鈍い音と共に、キングの身体がくの字に曲がる。
全身を倒れ込ませるように飛び込んだ。