第39話 ~尾行者~ ◇夏美 SIDE◇
◇夏美 SIDE◇
『ううん、そんな……。2人の……デートの邪魔はしないし』
『そう? 遠慮しないでいいよ?』
『そういうのじゃなくて……その、今日は放課後に用事があるから』
加恋ちゃんに放課後クレープに誘われた私は――用事があると言って一緒に行くのを断った。
とても行けなかった。
本当は用事なんてなかったけど、2人の邪魔を――修斗くんの邪魔をしたくなかったから。
だって加恋ちゃんはクラスの女王様なんだよ?
そんな女王様の放課後デートのお相手として、修斗くんは堂々のご指名を受けたんだから、最低な私なんかがホイホイと着いていってはずはないもんね……。
だけど断った時、胸がズキンと痛んだ。
それはまだ癒えない失恋の痛みだ。
自分が酷いことをしてしまったせいで失恋したのに、それを棚に上げて悲劇のヒロインぶる私は本当に最低だ。
まさに自業自得。
誰も同情なんてしてはくれない。
だけど頭では分かっていても、私の心はまだ全てを受け入れきれてはいなかったのだ。
加恋ちゃんに答える時に顔が引きつりそうになって、心の中で「笑おう! 笑おう!」って念じながら必死に笑顔を取り繕ったけど、うまく笑えてたかな?
――白状しよう。
私は今でもまだ修斗くんのことが好きだった。
前向きで、一生懸命で、困った人がいたらつい手を貸してしまう優しい修斗くんが、私は今も大好きだった。
だけどこの恋はもう叶わない。
ううん、叶っちゃいけない。
私には修斗くんを好きになる資格がないのだから。
◇
だから私は放課後クレープのお誘いを断ったのだが――。
けれどどうしても気になってしまい、私はつい出来心で、2人の後をこっそり着いていってしまった。
物陰に隠れながら2人を尾行し、その行動を監視する私を客観的に表するならば、どこからどう見ても、
「これじゃあ私はストーカーだよ……」
思わずため息が出てしまう。
ため息をつきながら――しかし私はクレープ屋にいる修斗くんと加恋ちゃんを、見続けてしまっていた。
二人が仲良くクレープを買い、オープンテラスに座る。
まるで恋人同士のようだ。
とっても可愛い加恋ちゃんと、グッと背が伸びてスラリとカッコよくなった修斗くん。
仲睦まじいお似合いの2人を見ると、胸がまたズキンと痛んだ。
恋する資格なんてないと頭では分かっていても、心が分かってくれないのだ。
そしてクレープ食べ始めて少しすると、修斗くんが身を乗り出して、加恋ちゃんの口元を指で拭った。
そして指に付いたホイップクリームを舐め取る。
「あ――っ」
思わず声が出てしまった。
そんな大きな声じゃなかったし、2人とは距離もあったから周囲の喧騒で聞こえなかったはずだ。
なのに偶然か、はたまた運命のいたずらか。
加恋ちゃんの視線がこっちを見た。
もろに目が合いそうになって、
「やばっ!」
私は慌てて物陰に逃げ隠れた。
ドキドキと早鐘を打つ胸を押さえる。
「……私だって分かったかな? でも外は暗いし、距離もあったし、一瞬だったから私とは分からないよね?」
用事があると言ってお誘いを断ったのに、こっそりと覗き見していたなんて知られたら、とてもまずいことになってしまう。
かといって自分から「私がいたのを見た?」なんて加恋ちゃんに切り出すわけにもいかない。
自分の意思でやっておいて、失敗してから反省する。
私は「あの時」と何も変わっていなかった。
今も昔も、嘘という化粧でベタベタに塗り固めた女の子、それが私だった。
そのことが本当に情けなく、惨めに感じて。
「ほんと、何してんだろ、私。……帰ろ」
私は逃げるようにその場を立ち去ったのだった――
◇夏美 SIDE END◇




