第21話 女王・加恋の男子カラオケ部屋、ご訪問(1)
「か、加恋ちゃん!? なんで!?」
「どうしてここに!?」
「部屋を間違えてない!?」
「あっと、えっと……」
女王の突然の来訪に慌てふためく男子たちに、加恋はにっこりと素敵な笑みを浮かべながら言った。
「最初に出入り自由って言ったじゃーん♪ これから1年同じクラスなんだし、みんなと仲良くしたいなーって思って、今、他の部屋を回ってるの。そういうわけだから、ねっ、入ってもいいよね?」
「も、もちろんっすよ! どうぞ好きなだけお入り下ちゃいっ!」
細川がカラオケルームの男子を代表して、まるで将棋で神の一手を今まさに打とうとしているかのように、ピンと背筋を伸ばして答える。
(将棋は詳しくないのでイメージだが)
そして最後、思いっきり噛んだ。
律儀に事前了承を得た加恋は「お邪魔しまーす♪」そう言ってオレたちの「実家」へと入ってくると、軽く室内を見渡してから「ここにしよっと♪」オレの隣へと腰を下ろした。
特に強い理由があってオレの隣に座ったわけではなく、オレが入り口の一番近くに座っていて、隣が微妙に空いていたから座りやすかったんだろう。
「急に来ちゃって、ごめんねー」
「いえいえそんな! 俺らみんな加恋ちゃんはウェルカムっすから!」
なんとなくの流れで、細川がオレたちを代表して答える。
「ふふ、ありがとー」
「よかったらお菓子とか食べてってください!」
その言葉にオレ以外の男子たちは我先にと、キットカットとかハッピーターンといった個包装のお菓子を、加恋の前に山積みにした。
完全に出遅れたオレは――この状況でオレだけ何もしないのはさすがに感じ悪いので――抹茶のキットカットを1つ、一番上にちょこんと載せる。
「ふふっ、ありがとーん。でも気持ちは嬉しいんだけどぉ、こんなに食べたら太っちゃうから」
「そ、そっすよね! すんません!」
悲しそうに言った加恋を見て、細川が焦ったように両手をワタワタと左右に振る。
「じゃあ抹茶チョコだけ貰うねー」
必死な細川を見て加恋はクスッと可愛らしく笑うと、俺が置いた抹茶キットカットを1つ手に取って、これまた可愛らしく食べ始めた。
そして大部屋と言ってもカラオケルームはあまり広くはないうえに、陽キャが皆そうであるように加恋も身振り手振りがやたら大きいこともあって、隣り合うオレと加恋の肩や肘は既に何度も接触してしまっていた。
柔らかい女の子の感触とともに、うっすらと甘くていい匂いもしてきて、オレは意識的に口呼吸に変えて、余計な情報を思考の彼方へと押しやった。
ま、狭い部屋だし、仕方ないっちゃ仕方ない。
加恋だって、狭いから仕方ないよねって思っているはずだ。
オレはわずかに座る位置をずらして、加恋との距離をほんのわずか開けた。
すると距離を離した分だけ、加恋が詰めてきた。
……ま、狭いもんな。
もしオレが恋愛脳だったなら「距離を詰めてきたし、俺の置いたキットカットを食べたし、加恋ってオレのこと好きなんじゃ?」とか思っちゃうんだろうが、もちろん恋愛アンチのオレはそんなことを思いはしない。
「それでそれで、何の話をしてたの? 教えて教えてー?」
キットカットを可愛らしく食べ終えた加恋が、トークを再開する。
「あ、えっとですね」
細川がオレを見た。
「あ~! もしかして女の子には聞かせられない話だったり?」
細川の動きに釣られるようにして、加恋もオレを見る。
均整の取れた可愛らしい顔。
人好きのする笑顔を浮かべながら、加恋が間近でオレを見つめていた。




