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ヒトではない彼女を  作者: 窓井来足
第六章
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第六章 その1

さて、彩は隣と、約束通りデートをすることになったのですが。

まずは地元の最寄り駅に集合したようで……。

 第六章 その1


 祭田(さいた)市の中心的都市である原祭田(はらさいた)にはNR線と小田鉄線という二つの鉄道の祭田駅が存在している。

 そしてNR線の方の駅前には金属できた回転するオブジェ、「光子乱舞(こうしらんぶ)」がある。

 まあ、このオブジェがそんな名前だと知ったのは、位置情報を利用した「Delta(デルタ)」というゲームを遊んでいたからであり、別に僕がこの町について詳しいからではないのだが。

 それはともかく。

 この「光子乱舞」前というのは、この町をモチーフにした小説由来の名称がついた広場になっていたりもするが、その名称が付く以前から地元住民の待ち合わせに多々利用されている場所の一つである。

 で、四月十九日、日曜日。

 僕はその「光子乱舞」前で河勝(かがち)さんを待っていた。

 待ち合わせ時間は九時半。今は九時二十分である。

 僕は基本的に人を待たせるのが嫌いなので、いつも時間十分前には目的地に到着しているため、今日も予定通り間に合ったというところである。

 さて。

 僕が待ち合わせ場所に到着してから五分が経過した時、僕のスマホに河勝さんからのメールが届いた。

 その内容は「今、着いたんだけど、どこ?」というものである。

 とりあえず僕は「祭田駅の方向」と返信する。すると、数十秒後、「お待たせ」という声と共に河勝さんが現れた。

 今日の河勝さんは当然のことながら、制服ではない。

 ここで河勝さんが着ているものをちゃんと説明できれば良いのだが、残念ながら僕は女子の服装に関してはあまり知識がない。

 イラストレーターのようなことをしているとはいえ、僕が描いているのは基本的に動植物で、しかも人間を描くときの服装は大体民族衣装系なので。

 一般的な女子の服装に関しては、国語辞典に載っているフランス料理の専門用語ぐらいにボキャブラリーが少ないのだった。

 まあ、それでも固有名詞を使わない形で河勝さんの服装を説明すると

 動きやすそうな感じの服で、彼女の顔つきと合わさると非常に活発そうな女子に見えるような感じの服装である。また、やや大きめのトートバッグを持っているというものになるのだが。

 やはり、これでは仮に第三者に彼女の服装を伝えるときには伝わりにくいかもしれない。

 専門外とはいえ絵を描いている身としては、ファッションに関しても知識を持つ必要性がある気もしているのだが……やはり人間を描く機会が少ないからどうも服に関しての知識は後回しになり、結果、疎かになってしまうのだ。

 ……今度、女性向けのファッション誌でも買って勉強しておこう。

 なんて、僕が思いながら河勝さんを眺めていると、


「何? あたしの服装、何か変?」


 と訊ねてきた。


「いや、そんなことはないよ」


 咄嗟に返した僕に、


「あたし的には藤若(ふじわか)君の服装の方が気になるんだけど」


 指摘する河勝さん。


「え? ちょっと変だったかな?」

「いや、変ではないけど。予想外にカラフルというか、男子ってもっと地味な服を着ているものだと思ってたから」

「ああ、そういうこと」


 実のところ、僕は男性のファッションにも疎い。なので服に関しては流行とかは一切気にせずに着ている。

 ただ、季節感は気にするので、今日の服装も春らしくパステルカラーをあちこちに使ったものにしてみたのだが……男子としては派手すぎただろうか? 色彩感覚には多少自信があるので、色の組み合わせは悪く無いと思うのだが。

 まあ、男は地味なのが普通ってのは、空間的・時間的にも狭い視野の話なのだけれど。

 と思ったので、僕は、


「でも、イタリア人の男性は女性より服に金をかけるし、見た目も派手だっていうよね」


 という派手な男の一例を挙げてみる。

 それに対して河勝さんは、


「イタリア人ねえ。偏見だけどイタリアの男って、女好きで軟派ってイメージがあるよね」


 と言ってきた。


「まあ、そうかもね」

「女好きで軟派……」


 うん? もしかして僕が軟派な男子だと言いたいのだろうか?

 確かに硬派ではないが、これからデートをすると考えると何か軟派と見られるのは抵抗があるな……話題を変えよう。


「戦国時代の武将だって(いくさ)の時は派手な格好をしていたし」

「何? 今日は戦モードなわけ?」

「いや。そうじゃないけど」

「デートに戦モードで来るとか、気合い入り過ぎじゃない?」

「だから違うって……」


 これまた変な誤解を招くような例えだったか。更に別の話題にしなければ。


「あ、そうだ。そういえば動物でもオスがメスより派手なのは結構いるよね」

「ああ確かに。でも、それってメスの気を引くためでしょ?」

「あ、うん……」

「メスの気を、引く……」

「え? あ、いや。違うって」


 否定しながら、河勝さんの顔を見ると彼女はにやにやと笑っていた。


「わかっているわよ。冗談だって」

「冗談……ね」


 まあ、これで本気だったら僕の評判とか、河勝さんの頭の中身とか、これからのデートとかが色々心配なのだが。そうではないらしいから気にしないことにしよう。


「でも藤若君って、やっぱり動物が好きなのねぇ……」


どうやら河勝さんは僕が派手な男子の例えに動物を出したことで動物好きだと再確認したらしい。僕は河勝さんの言うとおりだと思ったので、


「まあね」


 と返事をする。すると河勝さんは、


「じゃあ、今日のデートコースは問題ないかな? 多分」


 と言ってきた。


「多分?」

「あ、いや。動物とか美術とか好きな人に合わせたコースにしてみたんだけど」


 多分という言葉が気になって訊ねた僕に、そう答える河勝さん。

 なるほど、河勝さんは僕に合わせたデートコースを計画しているらしい。


「へえ、そうなんだ……で、どこ行くの?」


 気になって僕が訊ねると、河勝さんは


「ええと、まずはね――」


 と言いながら歩き出し――。


(続く)

こうして、とりあえず駅から離れた目的地に向かう事にした二人ですが。

最初に向かうのは果たしてどんなところなのか……次回に続く!!

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