15.不思議な世界
前回のあらすじ
町に入って、宿に着いた。
おわり!
何もしてない!?
女将さんに言われた部屋に着いて、ミリアは荷物を下ろすとすぐに部屋を出ようとした。
「あれ、どこに行くんだ?」
「ご飯ですよ。ローと違って、お腹がすくんです」
ガチで忘れてた。もう夜だもんな、腹も減るよな。
ミリアは階段で下の階へ下りて、カウンターに向かう。女将さんがそこにいたので、話しかける。
「夕食は何がありますか?」
「今日はいい魚が入ったからね、その分高いけど、おススメだよ」
高いやつを勧めていくスタイル、嫌いじゃないよ。だが、ミリアはそんなにお金持ってるのだろうか。
「それでお願いします」
値段聞かないで決めるんかい。それでいいのか。ハーフエルフはお金持ちなのかもしれない。
女将さんは、厨房に魚定食、と叫んでいる。定食て、米がでてくるわけでもないでしょ。
……そんなことを思っていた時代が私にもありました。
タレで少し黒く光っている筋の少ない綺麗な赤身。その上に乗せられた、緑色の千切り野菜。ワサビやネギ、海苔はないようだが、赤身の隙間に、白く光る米が覗いている。出てきたのはどう見てもマグロ丼。それに付け加えて、白く濁った魚介スープと漬物のようなものまで添えられている。
匂いが分からん。あんまり気にする必要がなかったから気付いてなかった。至急、嗅覚を再現せねば。前世の記憶を呼び戻すのだ。ふんぬぅ! ……できる気がしない。これはホントに体が欲しくなってきた。
それにしてもおかしいな。辺りの皆は典型的な中世ヨーロッパ風の格好をしているのに、食べ物が和風だぞ。しかも、パンは不味そうなのに、米は俺の知る美味しそうなつやを放っている。いや、でも建物がウェスタン風だったりするし、どういうこっちゃ。
「お代は小金貨3枚だ」
宿泊料とそんなに変わらない値段。どっちかが高いのか、安いのか。そしてミリアはそれをサラッと払う。
『ミリアよ。部屋だ、部屋に戻るのだ』
こっそりとそう伝える。
「あの、これって部屋で食べてもいいんですか?」
「ああ、構わないよ。食器はここを閉める前に返しておくれ」
「ありがとうございます」
『よくやった、ミリア! えらいぞ』
女将から視線をそらしたミリアは、得意げな顔をしている。褒めるとやっぱりこうなるのな。
部屋に戻った俺たち。早速ミリアにお願いする。例の土下座もどきだ。
「精霊召喚をお願いします!」
ミリアの口角が一瞬吊り上がった気がする。
「あ、え、そんな風にお願いしなくていいですよ。あれは冗談だったんですから。見てるとゾクz……申し訳ない気持ちになりますから」
ゾクゾクって、言いかけてるよ。第一印象はあんなに子供っぽくて可愛かったのに、怖いこの娘。
「普通にしてていいですから。召喚してあげますから」
微妙に、顔が紅潮していっている。ヤバい、さっさと戻りましょい。ふっと、いつも通り一メートルくらいの高さに戻る。
「ありがとう。どうしても味見してみたくて」
あ、つい本音が。ミリアは少し嫌そうに眉をひそめる。
「一口だけですからね……。コホン。ではいきますよ」
「おう、よろしく」
ミリアはこちらに両手を突き出し、手のひらを見せる。
「我と契約せし精霊よ。我が声に応えてその姿を現せ。いでよ精霊ロー!」
んん? 俺の精神体が何かに引かれる感じがする。これに身を委ねればいいのかな?
すると、俺の内包する魔力が勝手に引き出されていく。それが、光を放ちながら精神体を核に集まってくる。徐々に、体の感覚が生まれ、視界が狭くなる。……懐かしい感じだ。
十秒ほどで体が出来あがった。まだ光っているが、床を踏みしめる足の感覚、虚空にある手の感覚、その他に熱や圧迫感に風など、いろいろな感覚が感じられる。
初めてじゃないのに何だか新鮮だ。特に、肩の重さとか。……肩が重い? なんか、明らかに手とは違う重みを感じる。目線を下に落とす。肌色の綺麗な谷間が見える。
うむ、綺麗なおぱーいだ。……んむ? ……むむっ!?
顔を上げると、少しうっとりした顔のミリアがいる。現実だな。
再び視線を落として、今度は手を動かしてみる。難なく動いた。それをそこに見えるおぱーいの方に持って行って、揉む。やーらかい。そして、しっかりと肉をつままれた感じがして、少しくすぐったい。
むむむっ!?
「み、ミリア。鏡だ、鏡はないか?」
とても美しい女声が、耳にやさしく伝わる。アニメに出てくる、女神さまのような……。
「ほえー、あっ。”鏡”の魔法ならありますよ」
マヌケな声が聞こえた。
「その手があったか」
そう言って右手を振り、右側に光を反射する魔力壁を作る。すごいきれーなおててがみえたきがするよ。
薄い緑色の髪、同じく薄い緑の目、褐色の肌、少し幼いがそれでも美人を匂わせる顔立ち、体に対して大きい胸、そして、髪より更に薄い緑色のドレスのような服を着て、白いサンダルをはいた、ミリアより頭一つほど背の低い少女……幼女がそこにいた。
……なっ、
「なんじゃこりゃあ!?」
ガシッと、作り出した鏡の縁を掴む。そして、ミリアを睨みつけて、
「おかしい。おかしいぞミリア! なぜ女なんだ。しかもロリ巨乳!」
ミリアは放心状態から戻り、得意げな顔で腰に手を当てて言う。
「ふふん、我ながらうまくいきました。初めてでしたが、なかなかに可愛いですね」
ドヤ顔がうぜぇ。犯人こいつか。こいつのイメージだったのか。
「だからなぜ女なんだ! おかしいだろ」
「うーん? 普段から綺麗なお姉さんの声ですから、女の子のほうがしっくりくるでしょう?」
「えっ?」
俺が女声で話していたって?
嘘はよくない。
……あれ? そういえば自分の出した声って聞いた覚えがない。
俺は音を聞いていたつもりだったのだが、実はその音の意味しか受け取っていなかったような気がする。声なら言葉を、足音ならそれがどんな生物の出したものなのかを。精霊になったおかげで、すごく耳がよくなった気がしていたのだが、まさかこんなことが起こるとは。
でも、普通自分の声で喋るし、喋ってると思うでしょ?
「マジかぁ」
まあでも、可愛いし問題ない。昔みたいなフツメンの方が馴染みはあったけど、美少女であって問題があるわけない。
「でも何でミリアよりちっちゃいんだよ。綺麗なお姉さんの声なんだろ?」
なんか、自分で言ってて恥ずかしい。
「だって、ローは赤ちゃんですから」
そーなんですか。そうですね。赤ん坊にされなかっただけマシなのかもしれない。そう思うことにしよう。
それにしても、微妙に声があってる気がしない。自分が声を出すのを目の前の幼女が真似てるようにしか見えないのだが。
P.S.
ロー「この肌と髪の色は何故?」
ミリア「森の精霊だからそれっぽい色です」
ロー「木の精霊なんだが……」
サンダルを忘れていたので追加。




