14.宿に着いた
前回のあらすじ
ナッセうざかったけど、森から抜けた。
終わり!
ララストルの町は外から見ると、要塞のようだ。一周ぐるっと10メートルくらいの壁に囲まれているようで、小型の巨人なら侵入を阻めるだろう。その壁が原因で遠くにいた時も町の中は見えなかった。ゲームなんかだと見たことあるけど、実際に見てみると圧迫感があって怖いなぁと思えた。お城が見えたりしないし。
壁に門があり、そこにはたくさんの人が並んでいた。夕日が沈みかけているから、みんな仕事終わりの人たちなのだろう。そのうちのほとんどの人が、比較的質素な格好をしているから、農民が多いのは確かだろう。
列に並んでからはミリアと話をしていない。普通の人に俺は見えないから当然のことだ。ミリアが危ない人に見えたら、街に入れないってことになるかもしれないしな。
そういえば、日本人は先導する人がいなくても列を作るのがうまいと聞いたことが有るのだが、ここには列を整理する兵士はいない。門の上からこちらを見ている人がいないわけではないが、なれたもんだなぁと感心した。
ミリアの番が回ってきて、銀色の金属製のプレートをどこからか取り出した。どことなく名刺っぽい。プレートには端っこにこまごまと何か書いてあるが、真ん中にはおそらくミリアと読むのであろう文字と、その右に丸で囲われた一つの文字がある。後でなんて書いてあるか聞いてみるか。
ミリアは兵士に小さな金貨を渡すと、言われたとおりに腰の剣を下ろす。
すると、兵士は呪文を唱えて、”探査”と言う。すると、兵士の突き出した右手から小さな光が飛び出す。それはミリアの足元に着くと、体の周囲を回りながら上へと昇っていく。
多分だけど、詠唱的に持ち物検査をする魔法なのだろう。害はないだろうが、何か気持ち悪そうなのでちょっと避ける。
その光はミリアの頭まで到達すると、自然と消えた。
”探査”の魔法は、ミリアの前に通った村人やごっつい武器を持ったおにーやんには使っていなかったけど、ミリアがこの町に住んでいるわけじゃないからだろうか?
そう考えながら、武器を拾っているミリアの肩に戻る。
門を入ってすぐはメインストリートなのだろうか、両脇に店が建ち並んでいる。露店ではなくて、実際に建物の中に店があるのだ。その様子は、どことなく商店街っぽい。
建物はほとんどが、石と木でできているように見える。建物の種類なんてわからないけど、すごくのっぺりした印象だ。屋根は三角になっていて、家と家の隙間はほとんどないから、逆にあの窪みに土埃なんかが溜まりそうだな、そうボヤッと思った。
町の中にはまばらに人が歩いている。みんな自宅に帰っているのだろう。
少し歩いたところでミリアに尋ねる。
「これからどこに行くんだ?」
「宿屋です。宿屋に行かないなら、この町による必要はあまりありませんから」
そういえば、道中に聞いた話だと、ミリアの村までは歩いて二日ほどの森の近くだって言ってたな。もちろん、東の森林のことではなく、南西にある小さな森のことだ。
今更気づいたけど、この辺は川がないな。このくらいの大きさの町ならないと困るんじゃ? 答えは期待できないけど、聞いてみた。
「川って必要ですか? ”水呼び”はだれでも使えますから、そこまで必要だとは思いませんけど」
一応答えは返ってきたけど、驚かざるを得ないな。水魔法の力ってスゲー。
「一般人でも、一日に使う分量の水を作れるのか」
「普通の人じゃ無理ですよ。この街には、地下水が豊富らしいですから――」
やっぱミリアはダメだな。水魔法があるから問題ないんじゃなくて、地下水があるからなんじゃん。
「――まあでも、私たちハーフエルフは、人間とは桁違いの魔力がありますからね。滅多なことでは、村では水に不自由しませんよ」
ハーフエルフ限定の話かよ。川が必要ないって、そういう意味か。多少早とちりしたけどそこまで間違いじゃなかったよ。
「水があるのはいいけど、排水はどうするんだよ、川に流すとかできないじゃん」
「排水ってなんです?」
おおぅ、排水の概念がない。なんてこった。
ちなみにだが、道中でミリアがトイレを必要としなかったわけがない。この意味が分かるか? そっちの趣味は無いが温かく見守らせていただいた。最終的に、魔法で浄化、乾燥、燃焼して処理していました。……直に見たわけじゃないよ、肩に乗ってたもん。どちらかと言うと、一人旅は危ないっていう話です、多分。
それは置いといて。
町中に投げ捨ててあるなんて話を聞いたことが有るけど、この街にはそれがない。ちょっとしたゴミは落ちてはいるが、いたって綺麗なもんだ。つまりは、下水がしっかりしてるはずだが、排水の概念がないのかぁ。じゃアミリアみたいに魔法で処理してんのかな? 火事になりそう。
「普通の宿にトイレってあるの?」
「なんですか、それ。聞いたことないですよ」
トイレじゃ伝わらないか。めんどいな。
「便所のことだよ」
「んー、あると思いますよ。少なくとも、前泊まったところにはありました」
へぇ。
どうやって使うのかは、実際に行って見てみればいいか。町中で聞くようなことじゃないし。……手遅れか?
宿に着いた。
名前はトヨーコの宿だそうだ。……嘘です。適当に言いました。実際は文字読めないから名前わからん。
その宿は、西部劇に出てくる酒場みたいな見た目をしている。ウッドデッキが突き出ていて、柱と柵があり、一か所だけに階段があって、上ってすぐのデッキにはイスとテーブルが少しだけあり、酒を飲んでいるおっさんがいる。そして、建物の入り口には、多分どっちにも開くちっちゃい扉みたいなのが付いている。
中に入ると、やっぱりそこは食事処、もしくは酒場のようだ。奥のほうにカウンターがあり、さらに奥に厨房があるのだろう。
ミリアは、いかついおっさんもいる店の中を堂々と歩き、奥のカウンターに向かう。カウンターにはいかにも女将さんっぽいやや体格のいい女性がおり、こちらに気づいて話しかけてきた。
「いらっしゃい。あんたは宿のほうかな?」
「はい。一泊一部屋お願いします」
「じゃあ、小金貨で4枚だよ」
ミリアがそれを差し出すと、女将さんはそれを受け取って、笑顔で毎度ありと言いながらカウンターの下から鍵を取り出して渡してくる。顎で左にある階段を示しながら、
「そこの階段で二階に上がって、左側にある手前から二番目のドアだ。間違えないように」
「ありがとうございます」
そう言って、荷物があるから首だけでお辞儀をして、階段に向かうミリア。
ミリアが階段を上る間、下から女将さんが微笑んで見ていたのを見て、人種差別がなさそうで少しほっとした。まあ、定番の獣人なんかはまだ見ていないので、何とも言えないけど。
トイレは明日だ。




