14話 明日からのことを考えるけど寝ることを優先したい
「で、今日はどうすんだ?」
「少人数用の部屋で」
「はいよ」
受付で鍵を受け取り部屋へと向かう。
今日も一泊二千銅貨となる。
仕方ないとはいえ結構いたい。
(こりゃ、すぐにでも出発しないとまずいな)
ネズミ退治で幾らか減り方は減ってるとはいえ、懐具合が厳しいのは変わらない。
出来れば一週間くらい時間をかけてやり方を伝えていきたかったが、そうも言ってられそうもない。
計画や予定の段階より現実は色々消耗していくとは聞いていた。
想定してなかった事態や出費が発生するからだ。
前例があるならまだしも、初めて着手する事ではこれがよく起こる。
奴隷を買うという事もその一つであろう。
思ってもいなかった事が起こる。
(どうすっかな)
当初の予定通り一週間ほど準備に費やすか。
それとも早めにモンスター退治に出るか。
悩むところである。
そのせいで、後ろに続くアヤの曇った表情に気づかないでいた。
「そんじゃ、おやすみ」
「あ、うん、おやすみな……さい」
妙につっかえてるアヤの声を聞きながらベッドに横になる。
悩む事はあるが、あれこれ考えても無駄なものは無駄である。
一日はもう終わるし、これから何をやるにしても明日をまたねばならない。
たとえ妙案を思いついても、今から何かをやるというわけにはいかない。
(寝るか)
悩んでいても始まらない。
悩まないことには解決策も見いだせないかもしれないが、とにかく今は休むに限る。
たいして疲れてもいないので目がさえてしまってるが。
おかげで、部屋の中の事をぼんやりと見渡す事にもなる。
(それにしても)
意外と広いものだと思った。
九人が入れる部屋であるにも関わらず二人しか使ってないからだろうか。
部屋自体はさほど大きくも無く、大部屋にある三段ベッドを三つ並べてるだけでいっぱいになっている。
そんな狭い部屋であるにも関わらず、人が少ないというだけで割と開放的に感じられた。
(今まで大部屋だったしな)
この三段ベッドが二十個入るような部屋である。
そこに毎度寝泊まりしていたのだ。
人口密度が極端に低下した部屋にいれば、少しは開放感も味わえるのかもしれない。
何はともあれ静かである。
別の誰かが突然帰ってきて騒音をまき散らす事もない。
起き出した誰かが外に出ていく気配を感じる事もない。
同室の誰かが喋ってる声をうるさいと思う事もない。
(ありがたいな)
今まで使ってなかった部屋の良さを感じる。
何かを考えるには都合が良いかもしれない。
(どうすっかな、これから)
最終的には今より手取りを増やす事に尽きる。
生活を楽にする、活動を楽にする……それが目的だ。
ギリギリの収入で明日や明後日の心配をしないようにしていきたかった。
その為に無理して人手を増やしてるのだから。
問題はその増やした人手をどう使うかだった。
レベルは簡単にはあがらない。
なので、腕前の方は期待出来ない。
やはり雑用などが基本になるだろう。
だが、教えた事はそれなりにこなしている。
手本を見せてやらせてみれば、ある程度はこなしてくれる。
もちろんレベルが上がってないので、結果の方はそれなりだが。
それでも、この日やったネズミ退治くらいなら楽にこなしてくれそうだった。
(まあ、穴にはまってるからだけど)
一方的に攻撃が出来る、逃げ出すことが出来ない相手の場合である。
これで失敗する事などまずありえないだろう。
戦力として期待するわけにはいかない。
それよりも、その他の雑用を頼んだほうが面倒がない。
能力表にあらわれてる技術もそれを示している。
将来は簡単な戦闘などもこなしてくれるとありがたいが、当分先のことになるだろう。
ただ、あくまで先々のことである。
目先の問題を解決しない限りは先に勧めない。
「アヤ、起きてるだろ?」
「……、は、はい!」
声をかけられてアヤは素っ頓狂な声をあげる。
(なんだ?)
何があったと思うが、まずは自分の考えを先に伝えていく。
「明日明後日は今日と同じように町の周りを回っていく。
それでやり方を掴んでくれ。
そしたら、今度は町の外に出る。
一週間くらいは外に出ることになるから」
「うん、分かった」
「ま、モンスターがいるからってそうそう襲ってくるもんでもない。
変に緊張する必要は無いから」
「…………うん」
「ただ、泊りがけになるから。
外でって事になるとやっぱり危険が跳ね上がる。
それは覚悟しておいてくれ」
「うん、分かった……」
そう言いつつも歯切れが悪い。
この先の危険を考えれば無理もないだろう。
まして野郎と二人きりなのだから。
(それは今もか)
あらためて今の状況を考えると、色々無理があると思う。
奴隷として買われてきて、その男と同じ部屋で二人きり。
モンスターの事が無くても不安を抱きはするだろう。
「ああ、それと言っておくけど」
「うん?」
「そのうちお前に襲い掛かるかもしれん」
「…………」
「そうならない保証は無いからはっきり言っておく。
俺も我慢できなくなる事くらいはある」
自分で言っていて酷いもんだと思った。
「けど、お前に求めてるのはそういうことじゃない。
モンスターを相手にするときの手助けがほしい。
それが一番だ」
それだけに限定してるわけでない、とも言える。
ましてアヤは平均よりは容貌に優れてるほうだった。
身なりをしっかりさせてから気づいたが、それ程劣ってるわけではない。
絶世の美女とか人目を引く美人ではないが、大半の人間が好感を抱く程度に顔立ちはととのっている。
本能が刺激されないとはいえなかった。
だが、野郎の欲望を最優先してるわけでないのも事実である。
「それだけ考えてろ。
他の事なんか、ほうっておけ」
「…………うん」
「それだけだ」
言いたいことはほぼ言った。
言うべきことだったかどうかはわからないが、変に隠し立てしておきたくもなかった。
黙っていることは何かにつけて苦手である。
はっきりと言ってしまった事でおかしなことになるかもしれないとは思っている。
だが、それについてはおいおい考えていく事にする。
悩んでもどうしようもない。
「じゃあ、寝ておけ。
明日も早い」
「うん、そうする」
そういう声は先ほどのような緊張は無いが、幾分沈んでるように感じられた。
いったい何を思ってるのか分からないが、もうヨシフミにどうにかできることではない。
今大事なのは、明日以降の行動だった。
一方、話かけられたアヤは二重の意味で気が重くなった。
モンスター退治に出かけること。
そして、ヨシフミに襲われる可能性のこと。
どちらも避けて通りたかったが、もうどうにもならない。
モンスター退治は仕事なのでどうしようもない。
もう一方も、今はっきりと言われてしまった。
(どうしよう……)
どうしようもない、
対処しようがない。
奴隷から解放されるか、そうなる前にアヤが死ぬか。
さもなくば、ヨシフミが死なない限りはこの状況から抜け出せない。
ただ、はっきりと言われた事で迷いのいくつかは解消されもした。
(やっぱり、そうなっちゃうのかな)
来るか来ないかで悩むことは無い。
いずれやってくるだろうと分かった事で考えるべき事は限定された。
それが良いのかどうかも分からないが、とにかく考えるべき事がまとまった。
どちらもアヤに解決できるような事であるが。
(しょうがないか……)
迷いはしないが悩みは尽きない。
それでもあえて先のことを考えずにいようと思った。
どれだけ右往左往しても、解決するわけではないのだから。
20:00に続きを投稿予定




