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World Observer ~罪深き異世界の観測者~  作者: 7%の甘味料
正しさを貫く漫画家の末路の観測記録
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正しさを貫く漫画家の末路の観測記録 Part3


「ゲッ……やらかしたか!」


「ちょっと! 松原さん!」


松原はあまりの事に驚いて不用意な事を口走ったのでもう言い訳のしようもない状況になってしまった。


「あんな大勢で窓の外で様子を見ていたら

 いくら見えない様に気を使っていたとしても

 どこかで気づくって思わなかったのか?」


とは言え、佐々原の性格なら気づいた瞬間すぐに何かを仕掛けてきそうだが……


もしかすると窓の外から去る時にアシスタントの誰かがしくじって見つかって気づかれてしまったのかもしれない。


しかしもう気づかれてしまった以上引けないはずだ。


この後佐々原に丸め込まれるのか、しっかり佐々原に何かを伝えられるのかはストライキのリーダーの松原に掛かっている。


「佐々原さん、これで分かりましたよね?

 俺たちがいないとあなたの漫画はそもそも完成しないんすよ?

 もう少し俺らへの態度や待遇改めた方が良いんじゃないんすか?」


松原も次の日に言おうと心に決めていた言葉を見つかってしまった事で今言う事にしたようだ。


「最初からそう言えば良いものを、わざわざこんな卑怯な真似をしないといけないのか!」


「あなたはそう言ったところで聞かないでしょ?」


「そんな事はない、俺が間違っているのなら俺はおまえらへの態度も待遇も改める

 だが俺は何時おまえたちに間違った態度や待遇を取ったと言うんだ?」


佐々原はこんな状況になってもあくまで正論を貫き通すつもりでいた。


「どう考えても俺らがデビューした後、俺らが描いた作品で報酬を得たらさ

 何で佐々原さんにお金を渡さなければならないんです?

 佐々原さんが作品の原案をしたと言うなら話は別ですけど!」


「そんな考えじゃ一生デビューなんかできねぇよ

 おまえらはここで学んだ事を元に漫画を描いてお金貰うんだろ?

 だったら、俺にお金を渡すのは礼儀であり、恩があるのだから当然の事だと思うが?


 俺が間違った事を言ってるか?」


佐々原のその言葉にアシスタント達は全員沈黙していた。


返す言葉もなく半ば呆れていると言う状況だろう。


この状況で正論を貫いた所でどうにもならない事くらい普通の人間なら理解できるだろう。


しかし、それでも松原はこう切り返す。


「確かにあなたには恩もあります、佐々原さんの言う事は間違ってはいませんよ

 でも、その考えを貫き続けるなら俺たちはあんたにこれ以上付いてはいけない

 漫画だって俺らがいなければ完成できないでしょ、今から新しいアシを雇うにも時間がない」


相手の意見の正しさを認めつつ、自分たちはこれ以上付いていくことはできないと言い張った。


恐らくこれが松原達の引いた最後のラインなのだろう。


もし、これに対してもまだ自分の考えを貫くつもりならば佐々原はアシスタントを失う。


そして今週の連載を乗り切る事ができなくなる。


一種の脅迫の様な状況だ。


「まるで野蛮人だな……自分の待遇を良くするために上の弱みにつけこんでこちらを脅迫する……

 ならおまえらは明日から来なくて良い!

 代わりなんていくらでもいるからな!」


「なっ……!?

 佐々原さん!? いやアンタ本気かよ!?

 今の進捗状況で今週の連載が乗り切れるわけがねぇ!」


佐々原は妥協や自分を曲げる事をせず、迷わず自分の考えを貫く姿勢を崩さない。


そして、それは破滅への一歩でしかない。


「おまえらの手など借りずとも完成させてみせるわ!

 全く黙って言う通りにしていればデビューできたかもしれないのに

 万が一デビューができたとしても、私が裏で手を回して打ち切りしてやる!」


それを聞いてアシスタント達も心のどこかでまだ彼を師匠として信じていたかった心もすっかり消えたようだ。


何も言わずに背を向けて、そのまま帰って行く。


仮に他のアシスタントをまた雇えたとしても、また同じことが繰り返されるのだろう。


全員が帰っていく中俺は佐々原の元に残りこう言った。


「良いのか? このままだとおまえは本当に独りになるぞ」


「霧崎さん……俺はあんただけは信じてたんだけどなぁ

 まさかあんな奴らのストライキに加担するなんてな

 もう顔も見たくない! 失せろ! 」


「……分かった、じゃあな」


佐々原の言うままに立ち去る。


そこには佐々原だけが残った。


しばらく歩いた所でもう一度振り返る。


しかし、そこに佐々原の姿は既になかった。













佐々原から得た日払いの給料を使って、インターネットカフェに毎日寝泊りを続けていたある日。


インターネット上でこの様なニュースが飛び込んできた。


佐々原翔太の連載していた漫画の打ち切りが決定したと言う知らせと佐々原の漫画家引退の知らせだった。


その週の連載はなんと1人で乗り切る事に成功していたのだ。


しかし、その次の週休載の知らせが入り、その2週間後にこの知らせが飛び込んできたわけだ。


彼の破滅は本当に遠くない未来の出来事だったのだ。


インターネット上の反応もこんなものだった。


『アシスタントが全員逃げたらしい、ざまぁw』


『小物が調子に乗って大物ぶるからこうなる』


『ウィルスがいなくなってせいせいした、切り捨てた週刊○○はクソ有能w』


『こんなやつのアシスタントなんか頼まれてもやりたくねぇわ』


散々な言われようである。


編集者も佐々原とそりが合ってなさそうに見えたので、この機会に追い詰めたのだろう。


もしかすると編集者にアシスタントの募集を任せた所でわざとアシスタントを募集せず、1人も来なかったと嘘をついた可能性もある。


彼の考えは自分の作品に対して、著作権に触れる可能性もあるが、暗黙の了解として許されている行為である二次創作を否定する事でファンを失う。


アシスタントに対して年上のアシスタントに対しては敬意を払うなど独自の考えもあった。


しかし、恩を返すことを義務として課した事によりアシスタントも失ってしまった。


最後に、傍若無人な振る舞いによって編集者まで失った。


前者も後者も考え方が露骨過ぎるだけで間違った事は何も言っていない。


著作権は守るべきルールだし、それが曖昧になっている事は誰でも分かっている。


お世話になったのであれば恩を返すことは当然の事だ。


しかし、その考えを貫いた結果彼の元に残る人間は誰もいなくなってしまった。


本来は貰った給料がなくなるまでここにいるつもりだったが、もうこの街に用はない。


俺はインターネットカフェにオールナイトの料金を店員に渡し、その場を後にした。







街を去る前にそこで得たお金を使い切る。


それは俺の一つのルールであった。


残った金で少しだけ遊んでから、最後に佐々原と初めて会ったラーメン屋に行ける金を残してそこに向かった。


そこには以前の様に酔っ払った佐々原が居た。


佐々原を無視してラーメン屋に入り注文をする。


彼は俺に気づくと無視した事に気づきながらも近づいてきた。


「霧崎さん……一体……ひっく……なんでなんだ!

 ど、どうして、俺は間違っていないのに……こんな目に……」


佐々原は酔っ払いながら泣いて嗚咽を漏らしながらこう言った。


俺はただ一言……こう言った。


「おまえは間違ってない……正しい事をしたから独りになったんだ」












終わり










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