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バイト先では、相変わらず南塚さんに目をパチパチされ、チーフに睨まれるという日々が続いていた。二人のことは、妹を泣かされたあの日から、もう遠慮無用とばかりに完全にそっけなくしているのに、ある意味感心してしまうほどに素晴らしい精神力だ。もしくは、俺がどう思っていようとも関係ないのか。だいたい、二人ともあの日、秋元さんにこってり絞られたはずなのに。
その日も、返却されたCDを棚に戻していると、南塚さんが近付いて来た。
「ねえ、ねえ、高城君ってえ、いつもご飯、どうしているの?」
「自炊っすね」
「たまにお母さんの手料理とか、恋しくならない?」
「しょっちゅう帰っていますし。料理は実家にいた頃からしていたんで」
「お料理ができる男の人って、いいよねえ。
私、お料理とか得意でえ。今度、一緒に作ろうか?」
「息子さんとどうぞ」
「シュウトのおばさん」
突然割って入ってきた声に振り向くと、弟の朝陽。最近、ちょくちょくバイト先に遊びに来るようになっていた。
「アニキ、最近彼女できたんで。そういうの、無理っすよ」
「朝陽!」
「別に隠すことじゃないだろ。キッパリ言った方がいいんだって。
だいたい、兄弟の同級生の親とか、無くね? 姉ちゃんとかならまだしも」
それにしても、言いすぎだろう。朝陽が言っている、彼女っていうのはきっと岡田の事で、でも、ちゃんと付き合っているというわけでもないし。
諌めようと思ったが、キッパリ言った方がいいというのは、確かに正論だ。ウジウジとそっけない態度で察してもらおうとしている俺の方が卑怯なのかもしれない。そう考えると、何も言えなかった。
「高城君、彼女できたって、ホント?」
薄く笑うような、引きつったような南塚さんの言葉に、振り向きまっすぐ向き合って、
「正式には、まだ。けれど、前向きに考えている相手はいます」
と、言った。
見る間に、南塚さんの顔が怒りに歪んでいく。え、何で怒る? 自分にとって意外なリアクションに、一瞬ぽかんと固まってしまった。彼女が口を開きかけた時、新たな人物が会話に入ってきた。
「高城君、君ね、ま~ったサボっているのか?」
確かに手を止めて話してしまっていたが、俺だけじゃないだろ!
自分が悪いのは判っている。けれど、つい心の中で逆切れをしてしまった。
チーフは朝陽をちらりと見て、ふん、と鼻を鳴らした。
「弟じゃなく、どうせなら妹の方が来ればいいのに」
まだそんな事を。かっと頭に血が上った。
言い返そうと一歩踏み出そうとした俺の前に、遮るように朝陽が立った。
「ねえちゃんは、あんたがいるから来ないんだよ。
そんなにオンナが欲しいんだったら、シュウトのかあちゃんと付き合えば?」
ぶーーーーーーー。
朝陽、毒舌絶好調だな!
って、そうじゃなくて。
「朝陽、いくらなんでも言い過ぎだ。
すみません、弟が失礼な事を」
「こんなキモいおっさん、冗談じゃない!
高城君だったら、若くてイケメンだし、啓徳大でアタマもいいし、将来有望だし、まだ妥協できるから、せっかく旦那にしてあげようと思っているのに、なんなの?」
激昂して叫ぶ南塚さんのセリフに、唖然としてしまった。
え、ちょっと待って、すみません、もう一回言ってもらっていいですか? 何を言っているのか、理解できないんですけど。




