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19時を過ぎたというのに、空はまだ夕方の明るさだった。ぬるく、わずかに夜気を含んだ風が心地いい。俺と岡田は、並んで狭い住宅街の路地を駅へ向かって歩いた。
普段はバイクに乗っていて駅はほとんど使わないので、アパートを選ぶ際、家賃のことも考慮して駅までの距離にはこだわらなかった。ゆっくりのペースで歩くと、二十分弱くらい掛かる。
ふいに、岡田がくすくす笑い出した。
「ん?」
「高城君って、兄弟仲いいね」
「うーん、そうだな、ま、弟と妹は、いつもあんな調子だけど。
岡田は? 兄弟は?」
「妹が一人。仲は悪くないけど、高城君ちみたいな感じじゃないなあ」
「うちは女兄弟、妹一人だったせいか、なんか、はしゃいでまとわりついて迷惑かけてないか?
しつこくされて迷惑だったら、ガツンと言ってくれて構わないから。
なんなら、俺からも言うし」
「迷惑なんて、そんな事ないよ。すごく楽しい。
私こそ、勝手に高城君のアパートに行っちゃったり」
「いや、それはいいんだ。さすがに、驚いたけど」
「ほんと、ごめん」
「俺の方こそ、返事、っていうか、いつまでもはっきりさせないで、悪い」
初夏の空気のせいか、こんな話も、穏やかにゆるゆるとできた。
「正直、付き合うとか、よくわかんないんだ。
重く考えすぎているのかな、とも思う」
「ピンとこない?」
「岡田がどうこう、っていうんじゃなく。
今はやらなければいけない事がいっぱいある気がして、バイトとか、学校とか、それから先の就職とかもなんだけど、これ以上大事なものを作って、全部きちんとできる自信がない、というか」
「高城君は、まじめなんだね」
軽く茶化すように、笑いながら言う。冗談なのは、よくわかっている。
「まじめ? 俺が?」
「うん。同じくらいの年の子たちって、もっとお手軽に恋愛をしている気がする。恋愛がしたいから、適当に妥協できる相手を探しているって部分もあるくらい。
あ、高城君にそうなれっていっているんじゃないよ。逆に、ちゃんと考えようとしてくれているのがうれしい。だから、焦ったりしないで欲しい」
そんな風に言ってもらえると、気分が楽になるのもあるし、逆に、申し訳ない気持ちにもなる。
ちゃんと向き合って考えないと、と。




